富士通総研

企業人の品格

昭和女子大学 学長
坂東 眞理子

2008年1月

本文

20世紀の強い組織とリーダーは、権力とお金を持って、多くの人を抱えていた。それでは21世紀の強い組織とリーダーはどういう組織、リーダーであろうか。

それは理想《夢やビジョン》を持ち、情報を持ち、多数の協力者のいる組織、リーダーではなかろうか。21世紀型の組織は予算より、定員より、情報とネットワークと理想を持つ組織である。強いリーダーとは、理想を熱く語り、組織の内外にその理想に共感し協力してくれる人材ネットワーク、情報ネットワークを持つ人であり、それを可能とする個人としての魅力と品格をもつ人である。企業はもちろん利益を挙げないと存続できない。しかし、利益を挙げる事だけを目指す企業は存続する意義がない。企業の品格など余計なお飾りだ、企業はお金さえ儲ければ良いのだ、そのためには違法でさえなければどんな手段でも許されると考えている経済人はまだまだ多いが、これはもう通用しない考えである。

20世紀末にはそれまでの日本の経済政策、産業政策が批判され、「官から民へ」の大合唱が起こった。確かに官の側も既得権益の改革をしなかったなど問題は多々あったが、民のほうもそれほど立派だったわけではない。高度経済成長の後は新しい分野に果敢にうってでたりビジネスモデルを作り出す企業はほんのわずかで「儲かりそうだ、成長しそうだ」という分野に横並びで参入する企業が多かった。志のある企業を育てようというのでなく担保を抑えて確実に利ざやを稼ごうとする金融機関、民民規制で新規参入を排除する業界団体などが多数みられた。そこではコストカッターが幅を利かし、労働者は長時間労働・低賃金を強いられ、長期的な投資は見送られた。こうした企業行動が日本の経済から夢を奪い、人々に閉塞感をあたえてきた点では官と同様に民にも責任がある。

21世紀の経済人は企業・組織は利益を上げるためでなく、企業活動を通じて社会に貢献するのだと熱く語るべきである。企業の時価総額がこれだけ大きくなった、最高の収益を上げたと誇るより、どれだけ人々の暮らしを幸せにしたかを誇って欲しい。品格だ、社会貢献だというと青臭いが、具体的には基本的な企業活動を積み重ねることである。人々が望んでいるのに手に入らない新しい製品やサービスを開発し、それを常によりよきレベルに進化させ、雇用機会を増加させ、社員を教育訓練して人材として大事に育て、よき職業人、よき市民を生み出し、顧客の信頼にこたえることが社会貢献である。もちろん、人々の健康や安全に危害を加えない、環境を保全するなどは大前提である。

企業は営利を挙げて存続し、この活動を行うが、大学や行政や非営利的組織も企業に見習い、企業活動から、例えば顧客を大事にする事だとか、常にスクラップアンドビルドを心がけて新しい技術やサービスを取り入れることだとか、大いに学ばなければならない。その意味で、営利企業と非営利組織の境界ははっきりしなくなっている。かつて行政がしていた仕事をNPOや財団のような公益法人や社会的企業が担うことを期待されている。しかし非営利組織の多くは力不足で収入の多くは会費頼みで運営されている。行政からの補助金や委託費で活動しているのはましなほうで、事業収入で活動できる法人は本当にわずかである(私立大学もその経費の85%は学生の納入金である)。非営利組織も合理的、効果的に活動し、より良いサービスをより多くの人に提供する事が必要とされる。非営利組織は企業から大いに学ばなければならない。

それでは企業は非営利企業から学ぶことは無いのであろうか。私は大いに有ると思う。中でも一番学んでほしいのは、理想をもつことである。金儲けは2の次でも社会に役立ちたい、という理想を持って、活動している非営利組織の姿に企業人はぜひ学んで欲しいものである。

昨今企業の不祥事件が相次いで起こっている。耐震構造偽装、賞味期限付け替え、食材偽装、安全基準違反などの不祥事件が相次いでいるのはどうしてだろうか。職場の内輪もめからの内部告発など直接的な原因はさておき、企業が儲けること、成長することなど経済的価値だけを追求し、勝てば官軍とばかり、手段を選ばなくなっていたからではないだろうか。各方面で、企業のコンプライアンス、ガバナンスの重視が叫ばれているが、それ以上に経済人自身の理想や品格が問われている。

経済人は特に組織の中に居るときは内部での評価にとらわれがちである。組織の中で評価されること、組織の中で影響力を持つこと自体を目的とした人が出世しがちである。しかし中からの評価に加えて社会的な視点を持つことをぜひ心がけて欲しい。多くの組織人は内部の権力者に気を使い、意向を忖度し、部下や下請けに犠牲を強い、時には顧客の利益さえ後回しにする。弱い立場の人、女性、パート、派遣など権力を持たない人々を軽んじ、責任を押し付け、報酬を与えない。弱い立場の人をいじめるのは論外であり、公私混同は許されない。もちろん権力者が公私混同し、個人の利益を図ると組織は一気に退廃する。こうした個人としての品格を一人ひとりが持つ事が企業の品格、組織の品格に繋がる。

理想というと青臭いが、ぜひ企業人には志を持って少しでも世のため人のためになることを企業活動を通じて行うのだという気概を持ってもらいたいものである。企業のマナー、行儀作法より、志が大事である。

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