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ポスト京都議定書枠組みの定量的評価

大阪大学サステイナビリティ・サイエンス研究機構 教授 西條 辰義
上級研究員 濱崎 博

2007年10月

加速するポスト京都議定書に関する議論

2007年2月、国際連合の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次報告書は、1906年から2005年の100年の間に、地球の平均温度が0.74℃上昇していると指摘し、人間活動により温暖化が起こっているとほぼ断定している。それを受け、2013年以降の温室効果ガス削減に関する国際枠組みであるポスト京都議定書に関する議論も活発化しつつある。2007年5月には、日本国政府も6月にドイツで開催されたG8に向けて、安倍首相が「美しい星50」戦略を提案している。その中で安倍総理は、ポスト京都枠組みに関連して、2050年までに全世界で50%の削減を達成する、米国、中国、インドなど主要排出国すべてが参加する枠組み作りを目指すことを提案している。しかし、その具体的な中身は提示されておらず、京都議定書の約束期間の終了した後、つまり2013年以降の具体的な世界の枠組みの制度設計は五里霧中といってよい。2008年、洞爺湖で開催されるG8では、2013年以降の京都議定書に代わる国際枠組みに関する議論が重要課題であるが、わが国は明確な制度の提案ができていないのが現実である。

国連排出量取引制度(UNETS)

ここでは、2012年に終了する京都議定書に代わる温室効果ガス削減のための国際枠組みとして、「国際連合排出権取引制度(UNETS)」を提案したい。UNETSとは、京都議定書のように基準年(京都議定書の場合は1990年)に対して○%(日本の場合は6%)削減することを決めるものではなく、各国が自身の排出する温室効果ガス分の費用を負担する制度である。まず、国際交渉で気候を安定化させるために全世界で許容できる温室効果ガス排出量を決める。その後、国際連合などの機関が、各国の石油会社などのエネルギー上流企業に、排出権としてオークション方式で販売する。ここでは、エネルギー上流企業は、自身がその国で販売するエネルギーによって発生する温室効果ガス分の排出権を購入する必要があり、所有する排出権以上のエネルギーの販売を行うことができない。エネルギー上流企業は、排出権購入のために支払った費用をエネルギー販売価格に転嫁するため、エネルギーを購入する企業は、今までよりも排出権の価格分だけ高いエネルギーコストを支払うことになる。それを避けるために、石炭からガスへといったより炭素含有量の少ないエネルギーへの転換、風力といった再生可能エネルギーの活用、省エネルギー投資が積極的に行われるようになり、温室効果ガス排出量の削減が達成される。更に中長期的には、再生可能エネルギーなどの温室効果ガス排出量を格段に削減する技術の低コスト化、革新的低炭素技術への研究開発投資を活性化させることにもつながる。

一般均衡モデルによる定量評価

世界全体の総排出量を現在の90%に抑制するという条件下でUNETSを用いるとどうなるのかに関して一般均衡モデルを用いて試算を行った。排出権購入還元率は表のように3段階である。この率が小さいほど先進国とみなせる。GDP還元率は6段階である。これも率が小さいほど先進国である。日本のみを0.25で最も小さな還元率にしている。つまり、この枠組みの中で、日本の負担が一番きつい状況を設定している。次に厳しい比率である0.3はEUとし、アメリカ・カナダはその次の0.45と設定する。この制度の元では、排出権価格は24.5ドル/炭素トンとなる。UNETSを採用しなかった時と比べると、排出が一番下がるのは中国である。価格効果を通じて、石炭からの燃料転換、省エネ投資の拡大が起こるのである。同じことがインドでも起こる。更には、エネルギー効率の悪いアメリカ、旧ソ連などでも排出が下がるのである。エネルギー効率のよい日本・EUでは比較的排出は下がらない。排出権購入及びGDP還元の合計額から排出権購入費用を引いた純還元額は、中国、インドを含むその他アジアなどが正である。一方、負担をしているのは、日本、EU、アメリカなどである。UNETSでの世界の排出権販売総額は、136,887百万ドルであり、世界レベルで見るならば、それほど大きな額とは言い難い。更には、経済成長率への影響は軽微であることがわかる。この試算は、UNETSを用いることによって排出権を生産要素として使わねばならない世界を想定するなら、経済的にどのような変化が起こるのかを示している。つまり、UNETSは、世界の総排出量をコントロールする枠組みであり、各国・地域が独自に行う施策の効果は入っていない点に注意する必要があるが、温暖化防止に関わる様々な取り組みや努力がUNETSを更に強固なものにするに違いない。絶対量での削減目標を設定する京都議定書タイプの枠組みに対するUNETSの最大の特徴は、2)幅広い国が参加することにより削減目標のない国へ産業が移動するといったカーボンリーケージの発生が抑制され、削減効率が高まることにある。同時に、経済への影響は軽微に済み、1)高い環境効果、2)経済効率性が実現できる。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF ポスト京都議定書枠組みの定量的評価 [154 KB]