日系企業のアジア戦略におけるタイの位置づけ
上席主任研究員 金 堅敏
2007年7月
ここ数年、日本では「チャイナプラスワン戦略」の展開やインド、ベトナムブームが見られる。他方、タイは、アセアン諸国連合10ヵ国の先発組(シンガポール、マレーシアなど)と後発組(ベトナム、カンボジアなど)とのつなぎ目に位置し、日系企業にとって重要な進出拠点であり、自由貿易協定の締結などを通じて高度経済成長を続けている中国やインドとの繋がりも強くなっている。変貌するアジアの経営環境において、タイにおける日系企業の経営実態やそのアジア戦略におけるタイの位置づけについて現地活動をしている7社(A社~G社)を訪問し、確認した結果をまとめる。
経営活動の実態
タイにおける日系企業のビジネスは、これまでの輸出組み立てが中心であったが、現在では、輸出に加え、1)国内市場開拓に向けた経営活動、2)自動車を中心とする生産活動、3)生産・販売から研究開発へ展開の三つの方向に向かっている。1)については、内販拠点の新設や強化が見られる。2)については、3次下請けまでタイ進出が見られる。3)については、開発セクターの設立や独立したR&Dセンターの新設があった。ただし、生産コストの上昇により、中国やベトナムのように既存拠点の規模拡大はあまり見られない。
今回訪問した販売会社A社では、製品販売機能に技術研修サービス、エンジニアリングサービス、顧客向け開発・設計機能などを備え、製品販売拠点からソリューション提供ベンダーへの変身を図っている。給与水準や給与上昇率の高め設定、上級管理職への現地化の推進、明るい作業環境の整備などを通じて従業員の離職率を低く抑えることができた。また、輸出組立てのB社は製販分離の形態を取っており、タイに進出してから15年の歳月も経ったので、現地調達率は60%に達している。更に、内販の自動車部品(ベアリング)メーカーC社は、タイに製造・販売・研究開発の三位一体の組織を作り上げている。タイに進出してから5年しか立っていないので、現地調達率は低い。B社の100%資本に対してC社は合弁の形を取った。ただし、合弁とは言え、中国のように合弁パートナーへの技術流出懸念はない。B社とC社とも中国の日系企業と比べ大卒の比率が高い。B社は、コスト削減や労働管理の煩雑さを避けるため、派遣社員制度を利用している。給与水準はバンコクにある販売会社や化学素材製造業より低めである。また、両社ともヒトの現地化が課題となっている。工業団地に日系企業等の外資企業の進出が加速しているので、人材流出の懸念がある。
化学素材を生産するD社とE社は、基本的に内販型投資である。資本関係は、100%資本もあれば、合弁企業もある。両社とも製販分離の組織形態を取っている。装置産業であるので技術流出の懸念もあまり聞かれない。アセアン地域での生産ネットワークを活かした生産活動を行っている。素材産業であるので投資額や売上高に対する従業員数は少ない。大卒の比率も高い。技術性や安全性の背景から給与水準も他の製造業より高い。また、D社は、基本給の15%を住宅手当として支給している。高い学歴構造や高めの給与水準と厚い福利厚生などが従業員の離職率を低く抑えることに寄与している。E社は、タイにある5つの生産・販売・研究開発拠点を統括する組織を設立して、自己完結した経営体となっている。そのトップを米国留学経験者のタイ人に任せている。
(以下、本文省略)
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