原子力に対して軟化した英国国民の態度
上級研究員 濱崎 博
2007年4月
顕著になる温暖化による影響
英国政府はスターン・レビューを発表し、現在温暖化対策を行うと全世界のGDPへの影響は1%と比較的軽微であるが、対策を行わない場合温暖化による世界経済への影響は全世界GDPの20%を上回る可能性があると警告し、元米国副大統領のアル・ゴア氏は、自身の著書『不都合な真実』の中で、確実に温暖化が進行しその影響が地球規模で生じていることを訴えた。
また、2003年ヨーロッパでは、熱波が原因で3万5,000人が死亡、農業生産への影響で150億ドルの損失が生じるなど、目に見える形で温暖化が進行しており、その結果、英国国民にとって温暖化問題はテロと同程度に深刻な問題であると認識されるようになり、英国では温暖化対策として原子力発電が見直されつつある。
英国国民の意識変化と政府の原子力回帰
英国政府は原子力発電が温室効果ガス削減策において中心的役割を担うことを決定したが、英国政府がこういった決断をできた背景には英国国民の原子力発電に対する態度が軟化したことが大きな要因となっている。ここでアンケート結果を示しながら、その原因を探る。英国調査会社であるMORIと英国原子力産業協会(Nuclear Industry Association)が共同で行ったアンケート結果(2005年)を示す。
図表(PDF参照)に示すとおり、12%の人が温暖化問題を最も深刻な課題であると答えており、これはテロと答えた人(13%)とほぼ同じ割合である。更に、2004年と比較して温暖化問題が最も深刻と答えた人は4%(2004年)⇒ 12%(2005年)とこの1年で8%も増加している。
環境問題に限った場合でも、温暖化問題が英国国民にとって最も関心のある問題であり(34%)、一般的な汚染(17%)、リサイクル(12%)を大きく引き離している。近年急速に英国国民の温暖化に対する関心が高まったのは、この5年間で科学者が予見していた気候変動が実際に熱波などの目で見える形で起こっているためであり、原子力によって生じる脅威と温暖化による脅威を比較した場合、温暖化の方が深刻な問題と感じられている。
次に、エネルギー/電力生産で考慮すべき項目に関して英国国民の意見を見てみる。環境への影響(52%)がトップで、温暖化への影響(48%)、再生可能性(32%)が続く。2004年のランキングでは、環境への影響(51%)がトップで、コスト(40%)、温暖化への影響(37%)であったことを考慮すると、温暖化は急速に重要性が増しており、反対にコストの優先順位は下がってきている。具体的に好ましい発電方法を聞いた質問では、原子力は33%の人が支持しており、これは風力(54%)、太陽光・熱(52%)に続いて3番目であり、火力発電(ガス(23%)、石油(10%)、石炭(8%))、更にはバイオマス(11%)を上回っている。
おわりに
過去、日本では竜巻はほとんど発生することはなかったが、2005年以降竜巻が頻発しており、ついに我が国にも温暖化による気候変動が発生し始めている。2005年12月、山形県庄内町で竜巻が原因と見られる列車脱線事故により5名死亡、2006年9月宮城県延岡市においても竜巻による列車脱線事故で3名死亡、最近では11月に北海道佐呂間町で竜巻が発生し9名が死亡した。また、今年の暖冬により人々は確実に温暖化が進行していると認識し始めている。
我が国国民は、欧州と比較して温暖化はあまり身近な問題ではなかったため、関心はあまり高いものではなかった。しかし、昨今の竜巻、暖冬に代表される気候変動が顕著になるにつれ、温暖化への関心は急速に高まりつつある。温暖化対策として原子力を受け入れる土壌はできつつあると言え、原子力発電の持つテロ、放射性廃棄物処理といった負の面と温暖化対策の正の両面から原子力発電の温暖化対策としての有効性を評価する時期に差し掛かっている。
全文はPDFファイルをご参照ください。
PDF 原子力に対して軟化した英国国民の態度 [203KB]
