富士通総研

「笑えない」Web 2.0

上級研究員 湯川 抗

2007年1月

「Web 2.0」は2005年来、業界で最も話題になっているコンセプトだろう。しかし、そのコンセプトに関する誤解を身近に感じる機会も急増している。その結果、過度な期待や不安が生まれつつあり、ミニバブルの発生が懸念される。

こうした誤解を生んできたのはWeb 2.0の提唱者といわれている、Tim O'Reillyの論文にある。ここでは、複数の論点が整理されないまま提示されており、これが微妙に異なるいくつもの解釈を生んできた。

今は冷静に「Web 2.0」の意味を考え直す必要があろう。バブル時のように、コンセプトの一人歩きよって過度な期待や不安を生みだし、その結果、インターネットビジネス全体をセットバックさせてはならない。

「笑えない」3つの事例

Web 2.0という言葉が急速に普及する一方で、そのコンセプトに関する誤解を身近に感じる機会も急増している。以下、最近筆者の身の回りで起こった例を3つほど紹介したい。まず始めに、筆者が委員として参加している、ある公的プロジェクトに関する委員会でのこと。「このプロジェクトはWeb 2.0で自己増殖させよう」という意見が出され、その場は大いに盛り上がった。このプロジェクトは、ある目的を持ったウェブサイトを構築しようとするもので、「自己増殖」とは、このサイトの企業による利用を自動的に増加させたいという意味のようだ。残念ながらこの回の会議に出席していなかったので、何度も議事録を読み直し、事務局等に問い合わせたが、未だこのサイトの「自己増殖」と「Web 2.0」との繋がりは不明である。

2つめは、あるIT企業の幹部である友人から紹介された、彼の会社が出資するベンチャー企業のこと。SIベンダーであるこの企業のウェブサイトの「サービス概要」と「会社概要」には、「Web 2.0等の最新技術」といった言葉が踊り、いかにも魅力的だ。ただし、サイトを見る限り、この企業がどのような技術やサービスをWeb 2.0的だとしているのかを理解するのは難しい。

3つめは、筆者が講演したWeb 2.0に関する勉強会でのQ&Aセッションでのこと。ある大手IT企業の参加者から「今までのソフトウエアやシステム開発のやりかたから見ると、Web 2.0の時代になったら自分たちのビジネスはどうなってしまうのだろうと感じる」とのお言葉をいただいた。たしかに、Web 2.0の世界ではソフトウエアは物ではなく、サービス(SaaS)である。しかし、大手IT企業のソフトウエアやシステムの開発手法に関しては、Web 2.0というより、オープンソースソフトウエアの開発手法と比較して、昔からさまざまな問題が指摘されてきたのではなかっただろうか。

上の3つの例で、ここに挙げた事例に関わる人たちが間違っているといいたいのではない。指摘したいのは、Web 2.0というキーワードがいかに魅力的かということである。

1つめの例に挙げた議論に参加していた委員は、いずれも世間的には有識者とされる人たちで、中には個人的に尊敬して信頼するベンチャーキャピタリストや、ビジネスマンとしては最高の学歴と経験を積んだベンチャー企業の社長も参加している。2つめの例の友人の会社は、技術力に定評のある有名なソフトウエア企業であるし、3つめの例に挙げた勉強会の参加者は、IT業界の有識者に限定されたものだ。しかし、こうした人たちですらWeb 2.0の意味やその影響力を漠然としか理解しない、あるいは誤解したまま、過度な期待や不安を抱いている。

意味不明瞭なまま用いられたWeb 2.0のコンセプト自体が、自動的にプロジェクトや企業を成功に導くことはないし、Web 2.0の世界がもたらす影響を他の要因がもたらす影響と区別しないまま不安を感じるのは、その魅力のあまり生じた誤解といえよう。

わかりづらいO'Reilly論文

こうした誤解、あるいはWeb 2.0に関する多種多様な解釈が蔓延するようになったのは、2005年9月にTim O'Reillyが“What is Web 2.0”という論文を発表して以降である。日本の有力サイトや書籍、雑誌、ブログの多くは、O'Reilly論文に言及しつつ、独自にWeb 2.0を解釈している。これらほとんどは、この論文が言及する論点や新たな技術に関して述べつつ、微妙に異なる解釈を行っている。こうした微妙に異なるいくつもの解釈が急速に世の中に広まったことが誤解の原因であろう。

更に突き詰めると、この誤解はO'Reilly論文自体のわかりにくさ、あるいは論点が未整理のまま公開されているという点に帰着する。論文中には、Web 2.0の「7つの原則」、7つの「プラットフォームとしてのウェブに関わるアイデア」、7つの「Web 2.0企業のコアコンピタンス」、8つの「Web 2.0のデザインパターン」が整理のないまま重複提示されている。もし、O'Reillyが意図的に論文中に似たような論点をちりばめることで、Web 2.0を狙ったのなら、まさしくエバンジェリストの面目躍如といえる。

望まれる冷静な解釈

O'Reillyは、その後さまざまな言葉で語られ始めたWeb 2.0のコンセプトの急速な広がりに懸念を示すとともに、Web 2.0から派生したミニバブルを懸念している。これは最初に挙げた筆者の経験と合致する。

Web 2.0は、新たに開きつつあるインターネットの世界を語る適切なキーワードであろう。Web 2.0的な新しい世界には新しいビジネスチャンスがあり、ネット企業にとってはネットバブル以降久しぶりに訪れたチャンスである。だからこそ、もう一度冷静にこの言葉が示す本当の意味を考え直すべきではないだろうか。バブルの時のように、コンセプトだけが一人歩きしたことから、過度な期待や不安が生まれ、その結果、インターネットビジネス全体をセットバックさせてはならない。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 「笑えない」Web 2.0 [140KB]