地方行政を考える
東洋大学総長
塩川 正十郎
2007年1月
本文
小泉政権発足と同時に、規制緩和により企業が活性化し、不良資産整理で金融システムを強化するなど経済構造の改革が着実に進行して、「いざなぎ」以上の好況となりました。また、一方では政府の改革、即ち行政の簡素化、国家予算の効率化のための行政改革を各般にわたりその方向性を明示して鋭意努力してきました。この努力の結果、国民は時代の変化を直感し、その推移と成果に大きい期待を寄せています。それの裏付けは、内閣支持率が小泉首相在任中は常に50%を越えていたことであります。改革の基本理念は「官から民へ」「国から地方へ」であり、これが安倍政権に継承され、更に一層改革を推進しなければなりません。経済界や科学技術関係はグローバリゼーションの波に順応して、活力ありかつ持続性ある活動を展開していますが、行政改革については道路公団、郵政事業等について成果が評価されますが、「行政の各般にわたり改革の実績ができているか」と申せば、未だ道遠しと云った感じで、改革の必要がやっと認識されてきた程度であります。
今後推進しなければならぬ行政改革の課題は、前国会で成立した「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」所謂、行政改革推進法を実現することでありますが、この程度の改革は、旧来の官僚統制の行政システムの延長線における改革にしかすぎないと思います。明治維新以来、官尊民卑の風土のなかで執行されてきた中央集権制度の行政を見直して、国と地方自治の役割分担を明確にする必要があります。また、「ついてこい」式の官庁事務を簡素化し、行政の透明性の確保を図り、国民生活の日常業務は、個性と自主性を活かした地方の自治に委ねるべきであります。それがためには、行政組織の抜本改革、即ち統治システム自体を改革するべきであります。統治システムの改革とは中央集権体制を解消し、国と地方が役割を自覚し、相関関係で政治の責任を遂行することであります。
小泉内閣で「国から地方へ」を実行するため、2000年4月に地方分権一括法の施行と、所謂三位一体の改革を実現しようと努力してきました。その一部は国の補助金約3兆円を切り捨て、その財源として国税3兆円を地方税に移譲しました。しかしながらこれだけでは皮相な対応であり、緊急的財源調整にのみ終始し権限移管が行われていません。まだ地方改革は中途半端であります。更に加うるに広域自治体を目指して道州制の導入問題が発議され、政府ではその検討を3年以内に結論することを決定しました。その先走りとして北海道をモデルにした道州制特別区法案が議員立法の手続きで国会に提出され、継続審議の取り扱いとなっています。国のかたちを変え地方分権によって住民の意思を尊重した行政を実現する基本的構想は理解できますが、分権移管と補助金削減に伴う税財源の補充、更に道州制導入による行政システムの改変等、三要件を同列問題に議論したのでは議論が混乱し整理がつかずまとまりができません。
そもそも何故地方自治の制度と運営が改善されないのか。地方6団体等各団体が自分の立場からする利害に執着し、偏頗な主張が強すぎること及び、地域に迎合した建前論が先行するからであります。議論と実施の手順を整理すべきであります。この機会に地方行政システムの改革について私見を申し上げます。
まず現在の1,700余りの市町村を新法を策定して合併をさせます。現状では余りにも市町村間の規模と実力に相違が大きいので日常の行政サービスに格差が生じるのは当然で、将来更に複雑化する国民生活の変化に対応する行政能力を持っていません。これを人口50万を標準に全国を約300自治体に合併統合します。次に中央省庁の行政ニーズ、即ち行政責任としての権限を見直しスリム化します。私の推定では行政項目は、目下約750項目程でありますが、例えば家庭相談所等の各種相談業務。スポーツや青少年等の社会教育事業。また商店街振興等の地域対策事業など、民間の協力で目的達成できるものをNPOなどに移して行政をスリム化します。次は一般行政事務で国固有の事務と地方の固有事務を分離し、中央省庁が事務を処理させている機関委任事務(私の推定では約420項目)を全面的に直接市に移管させます。これに伴って約400項目の補助金負担金、交付金が削減されます。この削減分は国税から地方税への移譲によって補填されるのであります。府県の権限も同様、
かくの如く地方行政の体質改革と役割を改変する経過で、地方ブロック的発想で道州を創設することもできるであろう。その任務としては、地方税の課税、徴収事務の合理化と圏内各市の行政水準の調整及び公共料金の適正化を図る機関とすることを検討すればよろしい。以上申述べました如く、地方改革の出発点に先ず中央省庁の権限移管を確実にする。これに伴ってその権限に附属する補助金や負担金の相当額を、地方の自立財源として確保できるよう、国税を委譲して地方税に移す。この際、各市間の格差調整のため地方交付税の存廃、財源、管理等が問題となるのは当然であります。抜本改革は官僚の雇用や身分に大きな変更をもたらしますので、族議員を動員して強烈な反抗をすると予想しなければなりません。住民の自治を尊重した地方行政の自主性確立及び、政府のスリム化、予算の効率化の基盤をつくるため、政治家は右顧左眄してはなりません。順序を間違えず着実に事実を積み累ねることであります。いまの地方行政関係者は改革よりも現状維持を希望し、更に望むべきは財源の充実であります。地方の自主性は建前であり、本音とは違っているように思います。道州制、三位一体、分権推進の三課題が混合して同時進行で議論されている限り、地方改革は常にお茶の間の談議に終わって、地方制度の改革は期待できないのであります。議論と結論、更に施行の手順を間違えたら統治システムの改革はできず、豊かな国づくりのビジョンの大義は消滅するでしょう。
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