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ナレッジワークを支えるイントラSNS

主任研究員 浜屋 敏

2006年10月

“Enterprise 2.0”としてのイントラSNS

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は、これまでは若者を中心とした友人間のコミュニケーションや新たな出会いのためのものと考えられており、ビジネスでの活用例は少なかった。しかし、日本企業で導入が始まったイントラネット内のSNS(イントラSNS)は、ハーバード・ビジネス・スクールの准教授アンドリュー・マカフィーが主張している新しい協働のあり方を示す“Enterprise 2.0”という概念に、よく合致する。

マカフィー教授が定義するEnterprise 2.0は、「企業内、企業間、企業とパートナー・顧客の間で創発的なソーシャル・ソフトウェア・プラットフォームを活用すること」である1)。ここで、「創発的なソーシャル・ソフトウェア・プラットフォーム」とは、利用者が事前に特定されない自由な形式で情報を発信でき、情報のやり取りが可視化されて共有されるソフトウェア環境を意味している。マカフィー教授によれば、これまでナレッジワーカーに主に使われてきたコミュニケーション・ツールは、メールなど特定の個人間で自由に情報発信できるものの情報を多くの人と共有できない「チャネル系」のものと、社内ポータルなど多くの人と情報共有できるが利用者が自由に情報発信しにくい「プラットフォーム系」の二類型に分かれていた。ブログやwikiといったソーシャル・ソフトウェアと呼ばれる新しいツールは、この二類型のそれぞれの長所を併せ持っている。そして、マカフィー教授は、これらの新しいソフトウェア環境が持つ特徴を、SLATES(Search, Links, Authoring, Tags, Extensions, Signals)という6文字にまとめている2)。

マカフィー教授がEnterprise 2.0の基礎となるソーシャル・ソフトウェアとして想定しているのは社内で利用されるブログやwikiであり、彼が紹介しているIBMやBBC、モトローラなどの事例でもすべてこれらのツールが使われている。しかし、日本企業では、これらのツールに劣らずイントラSNSが有効なのではないかと思われる。その理由として、まず、多くのSNSは日記(ブログ)機能を持つため、ブログと同じように利用者が気軽に情報発信できる。しかも、SNSでは、「足あと」機能などによって自分が発信した情報に対するアクセスを利用者自身が把握できるだけでなく、記事によって公開範囲を変えたり特定の利用者による閲覧を拒否するなど、アクセスをコントロールすることもできる。また、SNSはブログと違って利用者の人間関係が可視化されるため、社内における現実の縦や横の人間関係を参考にしながらコミュニケーションすることも可能になる。

また、SNSでは、利用者が自由にグループ(コミュニティ)を作り、その中で電子掲示板を使ったテーマ指向の議論を行うことも簡単にできる。更に、人間関係が可視化されるというSNSの特徴を利用すれば、個人の特性に基づくものだけでなく、グループを対象とした情報のタグ付け、ブックマークの共有(ソーシャル・ブックマーク)なども可能となり、リコメンデーションや情報の分類化の精度を高めることも可能である。このようなことから、イントラSNSは、人間関係の可視化という特徴によって、ナレッジワーカー支援ツールとして大きな可能性を持っていると言えるだろう。

イントラSNSの効果と課題

私たち自身の経験3)や他社における導入事例4)のヒアリング結果から、イントラSNSを効果的に利用すれば、社内のコミュニケーションが改善されるだけでなく、ナレッジワークの質が高まることがわかった。これらの事例では、毎日顔を合わせる同じ職場の仲間のような強いネットワーク(強い紐帯)ではなく、知り合いや知人の知人といった弱いネットワーク(弱い紐帯)が、同じ組織内における価値観の共有を背景にして、SNS上で発せられた質問への回答やレポートのレビュー依頼に対して有効に働いていた。もちろん、書き込みに対する動機付けや評価などSNS内のコミュニケーションを活性化するための工夫は必要だが、SNSは情報発信の敷居が低く、しかも利用者の間で密に情報を共有できるため、BBSやグループウェアに比べれば活性化のための過剰な仕掛けは必要ないかもしれない。

イントラSNSの課題として、現在利用されている多くのSNSはブログと違って登録制であるため、SNS内の情報は閉鎖的でメンバー以外には共有されないことを指摘できる。SNSはシステム的には閉鎖型でも公開型でも可能だが、ナレッジワーク支援ツールとしてのイントラSNSを招待制・登録制の閉鎖的なものにすべきか誰でも閲覧できる公開型のものにすべきかは、別途議論すべき重要な問題である。しかし、いまのところ、SNSの閉鎖性(密着性)は、SNS内での交流が容易であり活性化されることの裏返しであるようにもみえる。そうであれば、イントラSNS内のすべての情報を全員に公開することは、SNSの最大のメリットを失わせることにもなる。イントラSNSの効果を高めるためには、閉鎖型か公開型かという議論を続けるだけでなく、SNS内で利用者が情報の公開範囲を自由にコントロールできるようにするとともに、SNSを情報や知識の自由な入力ツールとみなし、SNS内に蓄積された業務に有効な情報を二次的に加工し、例えば誰が何を知っているかという知識マップ(know-who情報)を自動作成するなど、加工後の情報を効率的にイントラネットで広く公開できるような技術や運用方法も必要になるだろう。


1)マカフィー教授のブログ「Enterprise 2.0, version 2.0」を参照のこと
(http://blog.hbs.edu/faculty/amcafee/index.php/faculty_amcafee_v3/enterprise_20_version_20/)

2)マカフィー教授の論文“Enterprise 2.0: The Dawn of Emergent Collaboration”(MIT Sloan Management Review, Spring 2006)参照。

3)富士通総研研究レポートNo.269「ブログ・SNSの創発的特性と組織へのインパクト」の執筆にあたって、富士通グループ内で利用されているイントラSNSを活用した。

4)例えば、NTT東日本のイントラSNS「Sati」など。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF ナレッジワークを支えるイントラSNS [224 KB]