第二世代ネット革命の3つの特徴
富士通総研経済研究所研究顧問(早稲田大学教授)
根来 龍之
2006年10月
本文
2004年頃から、インターネットの世界は、新たな時代に入ったといわれる。Google、Flickr、wikipediaなどがその代表例としてよく挙げられる。わが国では、Yahoo!や楽天が第一世代だとすれば、mixiや「はてな」が第二世代になる。これらのサイトは、2000年以降に本格的に活動を始めた。これらのネット第二世代について、「Web2.0」という概念で概括する議論もあるが、その内容は必ずしも明確ではない。
以下では、第二世代の特徴を、「バーチャル×バーチャル」、「リアル×バーチャル」、「ネットワーク×リアル」という三つのキーワードを設定して考えてみよう。
リアルとバーチャル:「対立」から「融合」へ
ネット第一世代は、リアルに対立するものとしての「バーチャルワールド」の発展の中で生まれた。簡単に言えば、ある価値に興味のある人が集まるネットワーク上の場所が、物理的な場所とは別に(リアルとは分離したものとして)発展したのが、第一世代だった。
電子掲示板は、第一世代型のコミュニティである。電子掲示板に書き込む人(アクティブなネット住人)は少ないが、見る人(フリーライダー)は多い。つまり、第一世代では、「コアとなる積極的にバーチャルな世界に参加をする人達」がいて、その周りに「リアルの世界に生きる利用するだけの人達」が存在していた。両者は、「別の」世界にいて直接的な相互関係はほとんど存在しない。
Web2.0の特徴の一つとして「参加」というキーワードがよくあげられるが、参加が第一世代になかったわけではない。第一世代においてもネットコミュニティが発達したが、それは上述のようなコアメンバーと周辺メンバーという二重構造をもっていた。また、ネットコミュニティへの参加は、バーチャルな人格(その典型は「匿名」である)として行われてきた。単純に「参加」を第二世代の特徴の一つとして挙げるのは正しくない。参加の形態を論じる必要がある。
第一世代の「参加」では、「リアル」と「バーチャル」には明確な区別がある。レビューやコメントを書くのは、ID登録制であっても、発言自身はバーチャルな人格(ハンドルネームや匿名)として行うのが基本である。そこでは、書き手は「バーチャル」な人間として存在する。また、電子掲示板や評価サイトにおける、書き手の相互作用(直接レスをつけることもあれば、他の書き手に影響されることもある)は、バーチャルな人格間のコミュニケーションである。あくまでも、第一世代においては、リアルとバーチャルは別の世界のものなのだ。
このようなリアルとバーチャルの区別は、事業形態をめぐる議論にも見られる。クリック&モルタルとは、モルタルといわれる「リアル店舗やリアルコンタクトポイント(営業所、営業パーソン)」とクリックといわれる「ネットショップやネットのコンタクトポイント(メール、掲示板等)」を組み合わせた事業形態のことだ。この発想は、リアルとバーチャルは違うものであるからこそ、「組み合わせ」が必要だというものである。
ネット第二世代の特徴は、「融合」にある。この融合の中身は、バーチャルな世界同士の融合(バーチャル×バーチャル)、リアルな人格とバーチャルな人格の融合(リアル×バーチャル)、ネットワークへのリアルの依存(ネットワーク×リアル)である。これらの特徴は、第一世代の到達点を否定するものではない。「Web2.0」の議論の一部に見られるように、第一世代を「置き換える」ものと捉えるのは間違いで、それを補完する動き、つまり「新たな変化の追加」と考える必要がある。
バーチャル×バーチャル
「バーチャル×バーチャル」は、トラックバック、RSS、Wiki、Webサービスを技術基盤とする新しいサイト間構造を指す。
トラックバック機能(ネット上の記事にリンクを張ったという情報を自動通知する仕組)を使えば、バーチャルサイト同士が自動的に結びつくことが可能だ。第一世代の「リンク」は、自分のサイトにだれがリンクを張ったのかはすぐにはわからなかった。これに対して、トラックバックでは、リンクした記事のURLやタイトル、アドレス、見出し、内容の要約、更新時刻などが、RSSといわれる機能によってリンクされた記事のサイトへ送信される。トラックバックされたサイトはこの情報を基に「トラックバック一覧」を自動的に生成することができる。
トラックバックやRSSは、バーチャルなサイト同士が自動的に結びつくことを可能にする技術であり、「バーチャル×バーチャル」を促す。ここで、バーチャル×バーチャルとは、バーチャルな世界の個々の存在を自動的に結びつけてコラボレーションを促すことを意味する。
オープンコンテントの技術「Wiki」も、「バーチャル×バーチャル」のコラボレーションを促す技術として把えることができる。これは、Webブラウザを通して異なる人が同じコンテンツを相互編集できる技術で、その実装事例の一つがネット上の百科事典「ウィキペディア(wikipedia)」である。
「ウィキペディア」では、だれでも解説を書き込むことができる、また人の書いた解説をルールに基づいて他の人が編集できる。ここでは、書き込む人は自分の書いたものを編集されたり消されたりしても構わないというルールになっている。ただし、書き込みや編集が無秩序にならないために、書き込みを消したり、一時的に停止したりする編集権限を持つ管理者が任命されている。
電子掲示板では、一つ一つの投稿が独立していて、それが並んでいるだけだった。それに対して、ウィキペディアでは、個々の書き込みが混ざっていく。したがって、でき上がったものは「だれが書いた」かがはっきりしないものであり、個人へ帰属しない。これが、このシステムが「オープン」コンテントといわれる所以だ。ここでは、バーチャルなインターフェイスを通して、バーチャルな人格として参加者がコラボレーションする「バーチャル×バーチャル」の世界が実現していることがわかるだろう。
Webサービスもまた、「バーチャル×バーチャル」を促す技術と考えることができる。ここでのWebサービスとは、Webによるサービス一般のことではなく、「インターネットを活用して、XMLというプログラム言語によってデータやアプリケーションを連携させる技術」のことである。Webサービスの範囲は、様々な規模・種類のものがあり、企業間の商取引のための大規模なものから、単一の機能を持ったコンポーネント(ソフトウェア部品)までかなり広い。Webサービスも、Web2.0の技術として挙げられることが多い。Webサービスを使うと、低コストで、しかしそれなりに機能が豊富なサービスが実現できる。その背後には、実はWebサービス利用サイトとWebサービス提供サイト間の自動化された連携がある。
代表例として、アマゾンのWebサービスを使ってアマゾンの本を売る、アマズレット(www.amazlet.com)を見てみよう。このサイトは、一種のアフィリエイトサイトだが、本の並べ方を変えるなどして、アマゾンとは違った商品(本)の見せ方をしている。最終的にはアマゾンの本が売れるため、この「見せ方の編集」をアマゾンは許している。従来の単純リンク型アフィリエイトとの最大の違いは、自分なりのインターフェイスから、アマゾンの在庫情報に勝手にアクセスして商売していることだ。つまり、アマゾンのWebサービスは、別のサイトが、アマゾンのサイトに乗っかり(Web2.0ではこれを「マッシュアップ」と呼ぶ)、その中身を活用して簡単に別のサイトをつくれるというのが特徴なのである。
「はてなマップ(map.hatena.ne.jp/)」という、公開された地図上に自由にコメントや写真を貼れる、一種のコミュニティサービスがある。実は、その地図サービスの部分は、「Google Map」だ。Google Mapは、他のサイトが上に乗っかることを許し、Webサービスとして自己を提供している。
Webサービスを活用したサイトは、着想と一定の技術があれば簡単につくれる。ゼロからつくろうと思ったら、何億という膨大なコストがかかる。それを、数百万円ほどの人件費でつくることも可能だ。
リアル×バーチャル
第二の特徴は、「リアル×バーチャル」である。
1999年春以降の経験を通じて、我々は、流動性の罠にどのように対処すべきかについて多くを学んだ。その中でもとりわけ強調すべきは、市場参加者の予想に働きかけるという政策運営のスタイルである。すなわち、実質利子率がマイナスの領域に落ち込む状況に対処するには、金融政策の運営方法を裁量型からコミットメント型に切り替え、将来の金融政策に関する市場参加者の予想に働きかけることが必要となる(この点について詳細はWoodford(2005)を参照されたい)。そうした方向への政策転換は、1999年のゼロ金利政策導入以降、徐々に生じている。今後、少子高齢化が本格化する中で、コミットメント型の運営を維持・強化する必要がある。
Googleの約半分のアクセス数を誇るまでに育ち、日本のサイトで既に第3位のページヴューを持つといわれる、SNS(ソーシャル・ネットワーキングサービス)サイトの「mixi」。SNSでは、招待制による参加という条件が多くの場合存在するため、SNSサイトにおけるネットワークは、リアルな人間関係の「投影」になっているといわれる。この投影論では、リアルな知り合いが、バーチャルな世界で更に関係を深めるのにSNSが役立っているということになる。しかし、それはある一面の表現でしかない。実は、SNSに参加することによって、新たにバーチャルなネットワーク(リアルな接触がない人達)とも結びつきうることが重要である。
単純に、見知らぬ人とバーチャルにコミュニケーションするというのは、「2ちゃんねる」など第一世代でもあったことだ。「電車男」にはバーチャルな人間同士の熱いコミュニケーションが記録されている。実は、この種のバーチャルな相互コミュニケーションは、niftyのフォーラムまで遡ることもできる。SNSは、リアルな人間関係に基礎をおきながら、同時に第一世代のバーチャルな人間関係をつくる機能も持つところにその特徴がある。この特徴ゆえに、SNSは、リアルとバーチャルの対立を克服できる可能性を含んでいる。
mixiでは、日記を公開する相手を、自由に設定できる。自分が実際に知っている人だけを対象に日記を公開することもできる。また、実際に知っている人(友だち)以外に、「友だちの友だち」も公開対象にすることもできる。友だちの友だちには、知っている人もいれば、知らない人もいる。こうして、バーチャルな人間関係にネットワークが架橋されていく。そして、「友だちの友だち」の更に友だちから、リンクの依頼がくるかもしれない。ここまで発展すれば、それは完全にバーチャルなネットワークとつながったことになる。
mixiは、日記を中心とする自己発信活動と、基本的には第一世代と類似の構造を持つ、掲示板型のコミュニティという二重構造を持っている。日記を中心とするネットワークは、最初はリアルの人間関係から出発する。一方、公開型の掲示板型コミュニティでは、バーチャルなネットワークに自分をさらすことになる。後者に積極的に参加する人は、前者(日記)の人間関係に、後者のバーチャルなネットワークが反映していくだろう。こうして、知らない人が日記公開対象に入っていくのである。
我々の調査では、mixiの場合、日記を書いたことがある人は参加者の約8割にまでのぼる。第一世代ネットコミュニティでは、RAM(Radical Access Member)と呼ばれる書き込みを行う人の比率は、どんなに多いコミュニティでも2割以下だ。見る人の5%以下しか書き込まないネットコミュニティもある。第一世代では、見ている人、つまりROM(Read Only Member)あるいはフリーライダーが圧倒的に多い。
SNSでは、なぜ書き込む人が多いのかというと、そのネットワークにリアルの世界が反映しているからだと考えられる。つまり、実際に知っている人達との結びつきが基盤になっているため、これがSNSの世界に安心と一体感を生んでいる。実際、従来のネットコミュニティでは、けっして発言することがなかった人も、SNSでは日記を書いている。バーチャルな世界にリアルな世界が持ち込まれていることが、参加の心理的障壁を下げている。第一世代の情報発信は、ブログも含め、書いたものは発信相手を限定せずに、つまり全世界に公開することが基本だった。しかし、SNSでは公開範囲の限定ができることが重要である。ブログは、Web2.0の一つとして語られるが、公開範囲がバーチャルな世界にオープンで、リアルな限定がない点では、第一世代の特徴を持っている。
上記したSNSの「リアル×バーチャル」と呼べる特徴は、従来のネットコミュニティに比べて参加者の幅を大きく広げている。いわゆるオタク系でない人が参加しているのがその特徴である。この結果、mixiに代表されるSNSの中には、より現実を反映した情報が入っている可能性が高い。第一世代のネット情報は、「突出した人」の意見にすぎないといわれることが多かったが、SNSには、より日常的で普通の人の情報が蓄積されていると思われる。(ちなみに、日記に書かれた情報によって、実際の購買行動が刺激されることも我々の調査でわかっている。)
mixi参加者の多くは、実際には「リアルな世界では接点がない人」も日記公開対象に加えている。一方、「リアルな世界では接点がない人」とのバーチャルなネットワークが広い人ほど日記を書く頻度が高くなることも判明した。日記がたくさん書かれる、日記がよく読まれるというのは、バーチャルな特性を持っている人がアクティブに行動するから起きるという側面もあるのだ。つまり、たくさん情報が発信される(情報発信される)ためには、バーチャルな特性も持っている人がいることが必要だ。このSNSの牽引役は、リアルな人間関係とバーチャルな人間関係を同時に持つ「バーチャリアラー」とでも呼べる存在である。
このように、リアルな人間関係を反映したネットワークの上にバーチャルなネットワークが乗っかって、そこで情報が相互交換されているのが、SNSの世界である。 第二世代ネットコミュニティでは、情報交換が日常の一環としての側面も持つため、そこにはビジネスの側から見るとより自然な情報が含まれている。つまり、SNSの中では、リアルな口コミの発展系といえる情報交換が、バーチャルな性質を加味しながら実現されつつあると考えられる。また、SNSでは、リアルな人間関係にバーチャルな世界が乗っかること(リアル×バーチャル)により、「バーチャルコミュニティは一部の突出したユーザーの集まりにすぎない」という考え方を否定する世界が実現しつつある。
この結果、SNSは、信頼性のある情報の集積の場として発展している。口コミ情報としての質も、従来のバーチャルな口コミサイトよりずっとリアルな世界に近い、信頼性のあるものになっていると考えられる。
ネットワーク×リアル
第三の特徴は、「ネットワーク×リアル」である。
クリック&モルタル(第一世代)とは、リアルチャネルとクリックチャネルで補完することだった。リアル店舗でも売っているものをネット店舗でも売る。あるいは、ネットによるプロモーションによってリアル店舗に消費者を誘導することが図られた。その特徴は、ネットを使わなくてもモノが買えることにある。それに対して、第二世代の「ネットワーク×リアル」は、ネットワークの存在がリアルな活動の前提になることである。
例えば、おサイフケータイは、ネットワークを使ってしかチャージできないという点で第二世代の萌芽が観察できる。ソフトウェアの世界でも、「ネットワーク×リアル」は進展しつつある。第一世代でもASP(Application Service Provider)といわれるソフトウェア提供形態が存在した。しかし、これは、従来の購入型のソフトウェア利用形態ではなく、ネットワーク上のサービスでも代替できるというものだった。それに対して、SaaS(Software as a Service)には、「ネットワーク×リアル」への動きが見られる。SaaSは、ASP+Webサービスだと考えられる。SaaSでは、提供企業のサイトへのアクセスによってソフトウェア機能がすべて実現されるとは限らない。ネットワーク上のソフトウェアが相互に結びつくWebサービスの利用も時に前提としたサービスが提供され始めている。データベースがサービス提供企業のサイトにある所はASPと同じだが、SaaSではアプリケーションが別のサービス企業から提供されることや複数企業のwebサービスが融合されて利用されることがある。
RFID(Radio Frequency Identification:ICタグとも呼ばれる)が、単純な無線技術による非接触の個体管理ではなく、ネットワークと結びついて使われるようになることも、モノとネットワークの融合を進めるだろう。
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