世界一となった中国外貨準備、その意味と問題点性
上席主任研究員柯 隆
2006年10月
中国の外貨準備は3月末で日本(8,500億ドル)を抜いて世界一(8,751億ドル)となった(6月末現在9,411億ドル)。外貨資産の内訳は明らかにされていないが、アメリカ財務省の推計によれば、中国政府が保有する米国債は3,198億ドルであるといわれている。このことについて、米政府内では米国債が中国の虜(とりこ)になっているとして警戒感を強めている(USTR)。
多すぎる外貨準備
実は、中国国内でも外貨準備が多すぎるのではないかとする指摘がある。中国は世界一の外貨準備を保有しているが、同時に、3,000億ドルぐらいの対外債務を抱えている。外貨準備の一部を対外債務の削減に活用すべきとの主張がある。
途上国にとっては国際貿易をスムーズに行うために、6ヵ月分の輸入代金に相当する外貨準備を保有することが経験的に重要であるといわれている。しかし、ドルペッグと為替集中政策を長年採ってきた中国では、外貨準備規模を最適化することはほとんど不可能である。経済の高い成長が続くなかで、貿易黒字と外国直接投資の流入は人民元の切り上げ圧力となっている。元の切り上げを回避するために、人民銀行(中央銀行)は毎日為替介入を実施している。結果的に、為替安定の代わりに、外貨準備が急増している。
一方、対外債務のリスクを管理するために、短期債務比率を抑制することが重要だが、民間部門の債務コストを公的な外貨準備で補填することはできない。また、中国の脆弱な金融システムを考えれば、外貨準備を国内で運用する力もない。
ここで、外貨準備が世界一となったことが中国にとって朗報かどうかを議論するよりも、その背景と問題点を明らかにしなければならない。
2005年7月21日中国は人民元の為替相場を2.1%切り上げた。しかし、通貨の為替相場が切り上がったからといって、貿易不均衡がすぐに是正されるとは限らない。昨年7月以降中国の輸出は拡大を続けている。それを受けて2005年の貿易黒字は2004年の320億ドルを大きく上回り、1,019億ドルに達した。中国経済の現状をみると、その輸出競争力が1年で3倍に強化されたとは考えにくい。別の要因が働いていると考えられる。
第1に、為替の動向をにらみ、輸出業者のマインドが変化している。すなわち、人民元の切り上げ期待に基づき、輸出を前倒しで実施している。
第2に、投機筋は資本移動規制を回避するために、中国業者の輸出を水増しして輸出代金のかたちで投機の外貨資金を中国に送金している。したがって、1,000億ドルの貿易黒字のうち、最低20~30%は投機資金の水増し分とみたほうがよかろう。
第3に、ここ3年来国内における過剰投資により生産能力は国内需要を大きく上回っているが、2004年来の景気引き締めにより、国内の過剰生産能力を輸出に向けざるを得なくなった。
IMFの予測によると、このままでは、06年末中国の外貨準備は1兆ドルを超え、対外輸出もドイツを抜いて世界一となる。実際、第1四半期の経済成長率は政府の引締政策にもかかわらず、10.3%の高成長が記録された。更に、第2四半期は全国各地の設備投資が急増し、経済成長が11.3%に達した。金融政策が機能不全に陥るなかで、中央銀行の手腕が問われている。
高成長下の難しい政策の舵取り
4月20日訪米した胡錦濤国家主席に対し、ブッシュ大統領は人民元の柔軟性拡大を求めた。それに対して、胡錦濤国家主席は改革の継続を約束したが、具体的なタイムテーブルを示さなかった。次の注目点は米国が中国を「為替操縦国」(manipulator)と指定するかどうかである。
中間選挙を控えるブッシュ政権にとって対中貿易赤字を削減しないと、選挙を乗り切ることが難しい。ワシントンを訪れた胡錦濤国家主席は商務担当の閣僚を率いて、162億ドルに上る大型買い付けを行った。しかし、貿易不均衡の是正には至らない。
一方、中国を取り巻く環境も難しい。靴やワイシャツなどの輸出は欧米諸国でアンチダウンピングに遭っている。何よりも、1,000億ドルを超える貿易黒字を削減しないと、内外からの圧力は一層強まる。
こうした背景のなかで、人民銀行外貨管理局は、中国の金融機関による対外証券投資(QDII)を認めると発表した。すなわち、経常収支黒字が簡単に解消されないため、資本輸出によって相殺しようとしているのである。
問題の解決はそれほど簡単なことではない。外貨準備の増加は、貿易黒字と外国直接投資の流入に加え、投機的な「熱銭」(ホットマネー)の流れ込みがある。8月国家統計局は初めてホットマネーの流入を認めた。それによると、今年2~5月のホットマネーの流入額は200億ドルを超えているといわれている。
こうした背景のなかで、中国政府は国内機関投資家による対外証券投資(QDII)を認めたり、外国人(非居住者)による不動産投資を制限したりするなど、様々な対策を講じている。しかし、いずれも短期的な処置に過ぎず、根本的な「体質改善」にはならない。というのは、貿易黒字が急拡大する背景に、国内の過剰貯蓄がある。投資主導の経済成長において、過剰貯蓄による消費不足が原因に、国内の余った生産能力を輸出に向けざるを得ない。したがって、少々の為替レートの切り上げでは、貿易不均衡の是正はできない。また、脆弱な金融システムを背景に、投機的なホットマネーの流入はこれからも増える。したがって、中国にとって短期的な処置よりも根本的な「体質改善」、すなわち、金融制度改革と社会保障制度の整備を急ぐことが重要である。
結論的に、人民元の為替相場に関する今後の展望として、人民元の小幅な切り上げを実施していても、ホットマネーの流入は止まらない。貿易黒字が更に倍増することは考えにくいが、1,000億ドル前後の黒字規模が当面続くだろう。目下、外貨準備の膨張を食い止めるために、輸入を増やすことが重要だが、内需不足によりそれは難しいと予想される。結局のところ、資本輸出能力を強化するしかないが、脆弱な金融システムでは、大規模な対外証券投資を認めれば、モラルハザードが蔓延し、不良債権の増加が予想される。中国の金融当局は難しい舵取りが迫られている。
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