富士通総研

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. Economic Review >
  4. Vol.10 No.3 2006年7月 >
  5. わが国ネット企業の弱点

わが国ネット企業の弱点

上級研究員 湯川 抗

2006年7月

要旨

ライブドア事件の影響で、新興市場中心にネット企業の株価下落が著しい。しかし、企業の将来性という観点からみた場合、わが国ネット企業が抱える弱点は、ライブドア事件によって語られるような問題とは全く別のところにある。

ライブドアではわからないネット企業の弱点

「ライブドアだけではなく、ネット企業の多くが資本市場を利用して株式分割や企業買収だけで成長する実体のないビジネスを行っているのではないか」との見方は、新興市場中心に、ネット企業の株価の下落を招いている。

こうしたことは、ネットバブル崩壊後最悪のイメージの中から復活を遂げた多くのネット企業の経営者だけでなく、ベンチャーキャピタリストやアナリストを始めとする市場関係者たちをも落胆させ、市場の長期低迷による資金調達の遅れやIPOの遅れを危惧する声も聞かれ始めている。しかし、少し長期的にみればこのような誤解はネットバブル崩壊の時と同様、時間と共に払拭できる可能性がある。

もしネット企業の将来性に対して疑問をもつとしたら、それはライブドア事件とは全く無関係なところにあると考えられる。以下では、将来性を考える上でのわが国ネット企業が抱える弱点に関して指摘したい。

弱点1: 大手IT企業への依存

一つ目の弱点は、多くのネット企業が投資や商品の販売を既存の大手IT企業に依存している点である。2004年に東京のネット企業に関し、個々の企業がどのような投資家から投資を受けており、どのような企業を販売先としているのかについて調査を行った。

その結果、ネット企業に投資を行っている投資家のうちVCが占める割合は26%に過ぎなかったのに対し、一般事業会社の占める割合は71%であることがわかった(残りの3%は個人のエンジェル投資家)。そして、これら一般事業会社のうちいわゆる大手IT企業の占める割合が7割近くにのぼる。また、ネット企業の販売先に関する調査では、ネット企業の販売先企業のうち大手IT企業の占める割合は73%にものぼる。

無論、短期的なキャピタルゲインを狙うVCよりも一般事業会社から投資を受けているほうが企業の長期的な資本政策を考える上で有利であることは論を待たない。また、事業の性質を考えれば、大手IT企業への販売が多いこと自体に問題はない。

しかし、こうした大手企業とネット企業の関係は見方を変えれば、大企業とそれに支配される従来どおりの下請け企業との関係とも捉えられる。つまり、ネットビジネスという新たなビジネスのフロンティアに挑むネット企業の将来は、世界的にはさほど競争力のないとされるわが国大手IT企業の業績に左右される可能性が高い。 また、こうした大企業はネット企業を単なる下請け企業としか見ていない可能性が高く、そのことは企業の独立性に影を落としている。多くのネット企業が資金や仕事の提供者として大手IT企業に大きく依存している状態は、将来のネット企業の飛躍を阻む可能性がある。

弱点2: ローカル体質

弱点の二つ目は、そのローカル体質である。これは一つ目の弱点と大きく関連している。上に述べた調査で明らかになったのは、ネット企業に投資を行っている投資家、ネット企業の販売先となっている企業に海外の企業はほとんど含まれていない。

ネット企業のみならず、急成長した企業の多くが海外の投資家からの投資を受け、海外に販路をもっていることを考えれば、非常にローカルなマーケットにのみに依存している、わが国ネット企業の将来性には疑問が残るだろう。

ましてや、ネットビジネスはリアルな拠点を持つ必要がないことから、基本的にはグローバルに展開することが容易な事業である。にもかかわらず、わが国ネット企業が未だにグローバルな資金調達や販路拡大を行うことができていない点は問題であろう。

日本のネット企業がなすべきこと

もちろん、未だにインターネットが生み出し続けるビジネスのフロンティアは広大であり、インターネットを通じて今後実現されるべきアイデアの数は依然、現存する企業や潜在的な起業家の数よりもはるかに多いといわれる。

新しい技術は新たなサービスを生み出し、それに派生して更に新たなサービスが創造されるという構図はこの先もしばらく続くだろう。また、ロングテールを取り込むことの重要性を指摘したWeb2.0の概念の普及からもわかるように、今後ともネットビジネスの利用者が増加していくことは確実であろう。だからこそ、これまで大手IT企業に依存して、国内のマーケットだけを対象としてビジネスを行っていてもネット企業には十分に成長の余地があった。

しかし、今後国内でのネット企業間の競争は激化していくことは十分想定できる。今後の競争を生き抜いていくため、ネット企業の経営者は上に挙げたようなわが国ネット企業の弱点に関してよく検討すると共に、これら弱点の克服に向けた取組が望まれる。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF わが国ネット企業の弱点 [130 KB]