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市場化テストに求められる課題

主任研究員 瀧口 樹良

2006年7月

要旨

市場化テスト法の導入

5月26日、「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案」が参議院本会議で可決、成立された。いわゆる「市場化テスト法」と呼ばれるものである。

市場化テストは、これまで「官」が担ってきた公共サービス全般について、「官」と「民」が対等な立場で競争入札を実施し、その提供者を決めるという制度のことで、「官民競争入札」とも呼ばれている。更に、(1)地方公共団体だけではなく、国や独立行政法人等もその対象となること、(2)施設の管理・運営だけではなく、公共サービス全般が対象であること、(3)中立的な第三者機関による競争プロセスの監視を行うこと、(4)「官」が落札する場合もあるといったことで、既存のPFI制度や指定管理者制度、構造改革特区制度などとは異なるものである。すなわち、小泉首相の「民でできるものは民へ」の基本姿勢の具体化や、公共サービスの質の維持向上・経費節減等を図る方法で、官の世界に競争原理を導入し、官における仕事の流れや公共サービス提供のあり方を変える取り組みといえる。このため、政府は、市場化テストの目的として、第1に公共サービスの質の向上、第2に公共サービスの効率化(経費・人員の節減)、第3に民間のビジネスチャンスの拡大をあげている。

既に市場化テストは、これまでハローワーク(公共職業安定所)の一部業務や社会保険庁関連業務、行刑施設(刑務所等)関連などの3分野8事業をモデル事業として実施してきたが、本法案成立後は、更に「地方自治体の窓口業務」、「統計調査」、「独立行政法人の事業」の3分野を追加し、対象事業を毎年増やしていく方針で準備しているという(「日本経済新聞」2006年2月11日朝刊)。

市場化テストに対する課題

市場化テストに対しては、既得権益を持つ官庁や労働組合の強い抵抗を受けている。更に、こうした抵抗の克服に加えて、次のような課題への対応が不可欠である。

第1に、外部評価の仕組みの確立である。「市場化テスト法」では、官業に対するコストや品質を公平かつ適正に審査・評価できる仕組みを設けることになっているが、その公平かつ適正な方法が確立されていない。そのため、早期に公平かつ適正な方法と仕組みの確立が求められる。

第2に、対象分野(事業)の選定である。これまで対象分野(事業)は、民間提案を幅広く受け付けて選定してきたが、それに加えて公共サービスの質の向上や効率化にどの程度寄与できる可能性があるかといった検証に基づく対象分野(事業)の選定が求められる。

第3に、これまで事業を担ってきた公務員の処遇への対応である。市場化テストによって、民間側に事業が移った場合の公務員への対応として、事業とともに民間へ転職する選択肢もあるが、その場合には転職先での雇用条件の整備や公務員が転職しやすい法・制度あるいは新たなスキームの整備も必要となる。そのため、政府は今回の「市場化テスト法」にあわせて、落札した民間側に公務員が移籍しやすいよう、退職手当の計算で在職期間を通算する特例措置を盛り込む方針を示しているが、こうした方針以外にも公務員の納得が得られる処遇が求められる。

第4に、「効率性」と「公平性の担保」に対する整合性である。市場化テストでは、例えば公園などの管理・運営については、利用者に適切な費用負担を求めることでフリーライドの防止といった「効率性」が期待できるといわれているが、その場合、低所得者がサービスの利用ができなくなるといった「公平性の担保」といった問題も考えられる。そのため、「公平性の担保」という公共サービスの提供のあり方と「効率性」を追求する民間企業の論理との整合性をどのように考慮しておく必要があるのかの検討が求められる。

市場化テストを導入する以前の課題

こうした課題のほかに、市場化テストを導入する以前の課題として、行政面からは、現在提供されている公共サービスは、本当に行政が行うべきかどうかといった行政の範囲の検討が必要である。市場化テストは、公共サービスの担い手を見直すための手法であるため、現状の行政が行っている公共サービスの範囲を前提とした場合には、市場化テストを導入すると、コスト削減といった「効率性」にはつながるが、一方で行政の範囲の固定化が図られてしまう危険性は残ったままとなる。

この点について、市場化テストの導入を推進してきた規制改革・民間開放推進会議委員である八代尚宏氏(国際基督教大学客員教授)は、「政府が何をすべきか、どの公共サービスを提供するべきかというのは、政府の守備範囲の問題で、市場化テストとは別の問題と考えている」と指摘している。しかし、こうした公共サービスにおける行政の範囲の見直しは、市場化テストの導入の前に検討を行い、行政が本当にこうしたサービスを行う必要があるのかどうかといった事業の仕分けを予め行っておく必要があるだろう。

更に、民間では、この市場化テストも含めた一連の官業の民間開放に対して、「パブリックビジネス」というマーケットのビジネスチャンス拡大との期待がされている。しかし、こうした捉え方は、かえって「市場化テスト」により民間経済の官業の依存度を高める結果につながりかねず、公共事業依存の民間事業者を生み出す可能性がある。

現在、デフレ経済から脱却を果たし、新たな経済成長の芽が出てきている中で、民間に求められるのは、「民ができることは民で」という官業依存からの経済的自立である。民間には、市場化テストに対して、マーケットとしてのビジネスチャンスの拡大への期待ではなく、行政の代行者として公共サービスの効率化と質的向上に寄与する公共の担い手としての気概が求められる。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 市場化テストに求められる課題 [203 KB]