IT人材不足を解消するためにすべきこと
上席主任研究員 前川 徹
2006年7月
要旨
IT新改革戦略における高度IT人材の育成
政府は2006年1月19日、e-Japan戦略、e-Japan戦略IIの後継として「IT新改革戦略 - ITによる日本の改革 - 」を発表した。新戦略は大きく以下の3つの政策群からなる。
- ITの構造改革力を追求して、日本の社会が抱えるさまざまな課題解決をITによって行おうとする政策群
- ITの構造改革力を支えるとともに、来るべきユビキタスネットワーク社会に向けた基盤の整備を行うための政策群
- 構造改革力の追求とそれを支える基盤整備という2つの政策群を通じて達成される成果を、日本から世界に発信するという国際貢献のための政策群
この第2の政策群の中に「世界に通用する高度IT人材の育成」という項目があり、ここに掲げられた目標のうちの1つは、プロジェクトマネージャー、ITアーキテクトなどの高度IT人材の育成を促進し、産業界における高度IT人材の受給のミスマッチを解消することである。
この目標を達成するための方策として、「2007年度までに産学官連携による人材育成プログラムや教材の開発を進めるとともに、その成果を活用した高度IT人材育成機関の設置などにより、2010年度までに産業界における高度IT人材の需給のミスマッチを解消することを目指す」ことが掲げられている。
しかし、この政策によってIT人材需給のミスマッチは解消されるのだろうか。最近、情報システム部門を志望する学生の割合は減少傾向にある。いくらIT人材育成の環境を整えても、それを目指す優秀な若者が増えてこなければIT人材の育成はできない。
情報システム部門を志望する学生の減少
株式会社 毎日コミュニケーションズが2006年3月23日に発表した「2006年度 大学生の就職意識調査結果報告」によれば、「情報システム部門」を希望する学生の割合は4.1%であり、昨年より0.3%ポイント改善したものの、2001年(5.3%)、2002年(6.0%)と比較するとかなり水準は低くなっている。 同調査によれば、学生は「自分のやりたい仕事ができる会社」「働きがいのある会社」を会社選択で重要視しており、「暗い雰囲気の会社」「仕事内容が面白くない会社」「ノルマがきつそうな会社」には行きたくないと答えている。
| 製品 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 営業企画・営業 | 12.4 | 13.8 | 15.7 | 16.1 | 17.4 | 18.4 |
| 商品企画・開発・設計 | 14.4 | 13.3 | 14.2 | 13.8 | 15.0 | 15.0 |
| 総務・人事・経理 | 16.2 | 15.2 | 15.2 | 15.8 | 14.8 | 15.0 |
| 研究・開発 | 12.3 | 13.0 | 10.4 | 9.3 | 9.8 | 9.8 |
| 広報・宣伝 | 8.6 | 8.6 | 8.7 | 10.2 | 9.7 | 8.7 |
| 調査・企画 | 7.9 | 7.9 | 7.5 | 7.5 | 6.7 | 6.4 |
| 海外事業 | 6.0 | 5.4 | 6.0 | 6.5 | 6.2 | 5.7 |
| 情報システム | 5.3 | 6.0 | 4.8 | 4.1 | 3.8 | 4.1 |
| 技術サービス | 2.6 | 3.0 | 3.2 | 3.1 | 3.0 | 3.3 |
| 製造技術・生産管理 | 3.4 | 3.3 | 2.8 | 2.7 | 2.6 | 2.7 |
| その他 | 11.0 | 10.6 | 11.5 | 10.8 | 10.8 | 10.8 |
(出所)株式会社 毎日コミュニケーションズ「大学生の就職意識調査結果報告」の2002~2006年度版からFRI作成
優秀なIT人材不足解消のためには就労環境の改善が必要
情報システム部門に人気がない原因は、この分野における就労環境がよくないからではないだろうか。例えば、厚生労働省の「毎月勤労統計調査 平成15年分結果確報」によれば、事業所規模5人以上の全産業の所定外労働時間は124時間であるが、情報処理推進機構(IPA)が2006年1月に発表した情報処理産業経営実態調査(2005年版)によれば、情報処理産業における年間平均残業時間は298時間であり、全産業平均の約2.4倍である。同様に年間の総労働時間についてみても、情報処理産業は2,108時間と全産業平均の1,816時間と比べて292時間も長い。
また、日経コンピュータ誌が2005年11月にWebサイト「IT Pro」上で実施したITプロフェッショナル(情報システムの開発や運用に携わる技術者)を対象とした労働実態・意識調査によれば、年間残業時間は570時間を超えている。おまけにITプロフェッショナルの51.2%が転職を希望しているという。総務省の「労働力調査 詳細結果(平成16年平均)」によれば、転職を希望している就業者の割合は全産業平均で1割に満たないので、2人に1人が転職を希望しているというのはかなり異常である。
高度IT人材を育成する仕組みをつくることも重要であるが、そもそも、なぜ若者が情報システム関連の職種を選ぼうとしないのかを十分に調査し、その対策を講じることが必要である。仮に、慢性的な残業などの就労環境が原因であれば、業界全体として就労環境の改善を図り、学生にとって情報システム関連の職業を魅力的なものにしていくことが必要だろう。IT関連の職種が魅力的な職業になれば、自ずと優秀な人材が集まるようになるはずである。
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