規制緩和とイノベーション - 日本企業の新たなビジネスチャンス -
富士通総研・ドイツ経済研究所・ベルリン日独センター・経済広報センター共催日欧共同シンポジウムの概要
富士通総研とベルリン日独センターは、ドイツ経済研究所及び経済広報センターの協賛を得て、12月14日、経団連会館(東京)において日欧共同シンポジウムを開催した。本シンポジウムは、「規制緩和とイノベーション - 日本企業の新たなビジネスチャンス - 」と題し、特にサービス産業部門におけるイノベーションを通じた将来の成長機会を探るというテーマで企画された。
年も押し迫っての開催であったにもかかわらず、経団連会館の国際会議場を埋め尽くすほどの参加者が集まった。聴衆の大部分は、海外への直接投資をいかに行うか、また、いまだ効率化の遅れる産業分野において生産性の向上をいかに図るか、という点に強い関心を持つ実務者が中心であった。
富士通総研経済研究所の島田晴雄理事長は、開会スピーチにおいて、近年における日本の景気回復を概観し、その原動力が企業のイノベーションであると述べた。そして、企業のイノベーションを支えたのは、商法改正や労働法制の再整備といった政府による構造改革であり、市場の競争条件が整備されることによって企業活動が活性化されたと主張した。そして、最後に、国内の製造部門の復権に続き、サービス部門も他の主要国におけるサービス部門と同程度に生産的・創造的になるためには、サービス業中心の規制緩和及びイノベーションが更に必要だと述べた。
この主張は、グローニンゲン大学経済学部教授・米国コンファレンスボードコンサル事業部長であるバート・ファン アーク氏の講演によって補強された。アーク教授はヨーロッパ、日本、米国の生産性に関して詳細な比較分析を行い、米国がこの10年間でサービス部門の生産性をかなり向上させたのとは対照的に、ヨーロッパと日本はサービス部門における生産性の向上で遅れたことを示した。彼は、このような差が現れた根本原因はICT(情報通信技術)の利用が効率的であったか否かであり、ICT自身の生産量の格差はさほど影響していないとした。したがって、国によるR&Dの予算枠拡大といったような、従来型の狭い意味でのイノベーション政策はもはや有効たりえないと警告した(詳細は後述)。
現在、日本と同様に、ヨーロッパでもサービス部門における規制緩和と、イノベーション振興策が実施されている。ドイツ経済研究所イノベーション部長のアクセル・ヴェルワッツ教授は、特に「EUサービス指令」が欧州経済を効率的な形態に進化させ、企業によるイノベーションを促進しているとした。ヴェルワッツ教授は、サービス部門の再編成による効果はまだ現れていないと指摘し、多くの国が長らく国家による独占下にあったことの反動から、近年のEU社会は極端に独占を嫌う傾向があり、将来の成長率低下が懸念されるとした。その理由として、ICT部門のような新しいタイプの投資集約型市場では、企業に先行者優位と独占利益を一時的にでも与えることの必要性を強調した。
続いて、富士通総研経済研究所の安部忠彦主席研究員は、「サービス分野のイノベーションを促進するサービスサイエンス」について発表した。安部研究員は、米IBMアルデマン研究所とUCバークレーが提唱した「サービス・サイエンス(SSME)」について紹介し、SSME出現の背景、必要性について国内外の統計的データを基に論証を行った。すなわち、SSMEを「ビジネスとICTと人間系に関する既存の学問を融合し、サービスを科学的に分析、モデル化、検証する学問、活動」と位置づけ、製造部門における販売価格の長期下落傾向、主力製品のハードからソフトへのシフト、それを後押しするICT分野の技術革新といった、先進国に普遍的に見られる産業構造のサービス化がSSME出現の背景にあると述べた。
続いて、フィンランドにおける通信事業分野のリーディング・カンパニーであるエリザ社研究開発副社長のキルシ・ヴァルタリ氏が、「欧州におけるICTと企業サービス」について報告を行った。ヴァルタリ氏はヨーロッパで急速に進んでいる、モバイル技術の普及及び情報革命を取り上げた。そして、既に携帯電話市場は飽和状態に達しているため、今や伝統的な電信事業者もB2C(企業から消費者)及びB2B(企業から企業)間のICTソリューションに参入しつつあるという欧州の現状を紹介した。また、B2Bの分野では、携帯電話中心のインフラが確立しつつあり、そのため、ビジネスアプリケーションの開発、VPN(仮想専用網)、暗号化が魅力的な成長市場になっているが、B2Cの分野では、「サービスの(消費者による)知覚品質」がサービスの自動化によって更に改善されねばならないと強調した。
次に、新生銀行取締役会長である八城政基氏は「銀行業のイノベーションとITの役割」について論じた。八城会長は、破綻した長期信用銀行を新生銀行として再生するプロセスの中で、汎用コンピュータ中心の業務システムをパソコン中心のシステムに変えるだけでどれほどのコスト削減効果があったか、また、システム変更にあたってインド人をはじめとする外国人技術者や海外ベンダーがどれほど貢献したかについて語った。最後に、日本の銀行はICTの効率的な利用に関して立ち遅れており、経営において先端テクノロジーは今やなくてはならないものとなっているので、経営のトップが率先して先端テクノロジーを理解し、効率的な利用法や戦略を考える努力をしなくてはならないと主張した。
最後に、富士通総研経済研究所のマルティン・シュルツ主任研究員が「欧州における日本の投資機会」について発表した。シュルツ研究員は、EUの拡大と地域化によって生み出された、国境を越えたモノとサービスの流れという新たな動きについて説明をし、(1)東ヨーロッパと南ヨーロッパでコスト効率的な製造メーカーが成功していること、(2)ベネルクス三国と英国の高度に効率化され国際化されたサービスセンターが、EU全土を網羅する生産・物流ネットワークの拠点として必要な人的資源とインフラを供給していること等を報告した。最後に、このように高度なICT技術で統合されたEU全体のネットワークが発展することは、ICTが得意な日本企業にとってもEUでビジネスを展開する絶好の機会だと主張した。
研究報告に続いて行われたパネルディスカッションでは、聴衆から寄せられた多くの質問に触発され活発な議論がなされた。そこでは、今後も企業が大きな試練に直面することが予想されるとはいえ、日本と欧州におけるサービス部門のイノベーションと効率化は達成される見込みが十分にあることが示された。
『規制緩和とイノベーション - 日本企業の新たなビジネスチャンス - 』プログラム
| 13時~13時10分 | 開会挨拶 |
| 富士通総研会長 高島 章 ベルリン日独センター 副事務総長 上田 浩二 |
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| 研究報告 | |
| 13時10分~13時25分 | 規制改革と企業革新 |
| 富士通総研経済研究所理事長 島田 晴雄 | |
| 13時25分~13時50分 | 生産力の国際比較 |
| グローニンゲン大学 経済学部教授 米国コンファレスンス・ボード コンサル事業部長 バート・ファン アーク |
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| 13時50分~14時15分 | ヨーロッパ市場における規制緩和とイノベーション |
| ドイツ経済研究所 イノベーション部長 アクセル・ヴェルワッツ | |
| 14時15分~14時40分 | サービス分野のイノベーションを促進するサービス |
| サイエンス主席研究員 安部 忠彦 | |
| 14時40分~14時55分 | 休 憩 |
| 14時55分~15時20分 | 欧州におけるICTと企業サービス |
| Elisa研究開発副社長 キルシ・ヴァルタリ | |
| 15時20分~15時45分 | 銀行業のイノベーションとITの役割 |
| 新生銀行 取締役会長 八城 政基 | |
| 15時45分~16時10分 | 欧州における日本の投資機会 |
| 主任研究員 マルティン・シュルツ | |
| 質疑応答 | |
| 16時10分~17時10分 | 質疑応答 |
| 司会:富士通総研専務取締役 根津利三郎 | |
| 17時10分~17時15分 | 閉会挨拶 |
| 富士通総研 社長 長谷川展久 |
全文はPDFファイルをご参照ください。
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