日中経済の将来展望 - 共生への道
富士通総研・中国社会科学院共催 第1回日中経済専門家会議
近年、日中関係は「政冷経熱」といわれるように、決して良い状況にあるとはいえない。日中関係が悪化するきっかけは、小泉首相の靖国神社参拝だったが、それに加え、イデオロギーの違いや領土・地下資源などの利権問題も複雑に絡み合っている。
しかし、日中経済はこれまでの30年間通商と直接投資の促進により相互依存関係が大きく強化され、アジア経済のけん引役である。日本と中国がアジアのリーダーとして域内の平和と繁栄に貢献しなければ、アジアに明るい未来はない。重要なのは、日中両国が戦略的な視点から歴史の負の遺産を乗り越え、将来に向けた明るいビジョンを示すことである。
このような基本的な考えを踏まえ、富士通総研と中国社会科学院は両国の専門家と有識者を中心とする経済専門家会議を開催し、両国が抱える重要な経済課題に関する研究成果の発表と意見交換を通じて相互理解を深め、日中両国の政策運営に資するべく両国政府に対し政策提言を行う。去る05年10月25日東京で第1回経済専門家会議が開かれ、日中両国経済の将来ビジョンに焦点を当て討議を行った。
日中共生への道とシンクタンクの役割(富士通総研理事長 島田晴雄)
今回は第1回日中経済専門家会議である。両国は世界政治経済において多面的なパートナーシップを構築していかなければならない。この点は両国民が共通した認識を持っているはずである。しかし、現実的にさざなみが多いのも事実である。特に、近年率直に意見を交換する機会が少なく、重要な二国関係であるにもかかわらず、それを発展させていないのは残念なことであり、いささか不幸な感じがする。我々はあらゆる機会を捉える日中関係の前進を図って生きたい。
これまでのところ、富士通総研は中国研究に力を入れてきた。中国とは人的ネットワークの構築をもとに、経済的、社会的、文化的な関係を促進していかなければならない。このたび、社会科学院と協力して、密度の濃い交流活動を行って生きたい。昨今のような困難なタイミングほど誠意を持って、特に我々の民間ベースの交流を促進していくことが重要である。日本では小さく生んで大きく育てるという言葉があり、このような両国の専門家会議はこれから大きく発展していくものと期待されている。また、政治的な立場を抜きにして、率直かつ真摯、真剣な議論をしていきたいと考えている。
「中国経済の発展と今後の展望」 (中国社会科学院世界政治経済研究所長 余永定)
中国経済は過去25年間の年平均経済成長率は9.4%に達し、幾度の景気循環を繰り返しながら高い成長を続けている。97年のアジア通貨危機以降、デフレに突入したこともあるが、03年から10%の高成長を続けている。
こうした背景のもとで、この先の中国経済がインフレになるか、デフレに突入するかについて中国国内においても意見が分かれているが、インフレ懸念が払拭されていない。具体的に、(1)高い経済成長は必然的にインフレを招くのではないか。(2)27%にのぼる設備投資の伸び率は高すぎる。特に、不動産関連の投資が高すぎる。(3)45%(2004年)もの高い投資率は長期的に持続不可能である。(4)高い経済成長にとって電力、石炭と素材産業は既にボトルネックとなっている。
以上、4つの懸念から中国経済は不動産ブームに象徴されるように、過熱の兆しが既にみられている。こうした過熱する経済に対して、中国政府は(1)金利(公定歩合)政策、(2)預金準備率操作、(3)公開市場操作と(4)窓口指導による貸付規制を実施し景気引締を行っているのである。長い間、人民元が米ドルに固定されていたため、金利政策の自由度が制限されている。こうした状況下で、中央銀行は金利操作よりも、預金準備率操作を行っている。98年ごろからデフレ退治するために、積極的な拡大財政政策を実施し、景気を刺激してきた。今後の景気判断いかんによって実施されるポリシーミックスはまったく異なる。
今後の展望として、完全に縮小均衡の財政政策を採るべきかどうかについて、個人的には03年と04年の景気動向からすれば、若干財政支出を縮小するのはやむを得ないが、これからやはり積極的な財政政策を堅持していくべきと思われる。
更に、中国経済の構造問題を解決することが重要である。これを前提に考えれば、従来の財政政策を維持するとともに、場合によって利上げを実施することも考えられる。むろん、すぐに利上げに踏み切るわけではない。今アメリカを中心に利上げの方向にあり、この動きは中国のポリシーメーカーにとってよいことである。ドル金利が上がらないなか、人民元の金利だけ上がると、ホットマネーが中国に集中し、人民元切り上げの圧力となる。米ドル金利が上がれば、中国にとって金利上昇の空間も増える。
バラッサー・サミュエルソンの仮説によれば、経済成長とともに、実質為替レートを切り上げていく必要がある。さもなければ、経済はインフレになるということである。ただし、切り上げの幅については、一気に20%ないし30%と大幅な切り上げは良くない。中国にとって理想的なシナリオは徐々に切り上げていくということである。繰り返しになるが、人民元を切り上げることが不可避であり、経営を維持できない企業の破綻もやむを得ないことである。ただし、重要なのは、こうしたマイナスな影響を抑えることである。
「日本経済の将来ビジョン」(東京大学教授 井堀利宏)
ここで21世紀の日本のビジョンに関する基本的な考え方について、中長期的な視点に立って、2030年の日本経済の姿を大胆に展望することにする。その際の一つの前提は少子高齢化が更に浸透し、日本経済の大きな制約条件となるということである。これから日本の財政状況は徐々に厳しくなっていくものと思われ、長期的に考えれば、国民に対して増税を理解してもらわざるを得ない。すなわち、増税、または社会保障負担費の増加が考えられる。
まずは(1)生産性を高める。また、(2)小さくて効率的な政府を構築する。更に、(3)少子高齢化の動きを止める。特に、労働参加率を高めることで経済成長を持続する。
そして、日本の出生率は先進国のなかでも大きく低下し、例えば、80年代半ばにおいて日本とフランスはほぼ同じ水準だったが、その後フランスは同じ水準を維持しているのに対して、日本は大きく下がっている。その背景には、日本でこどもを生む、育つ機会費用が高く、女性にとっていったん労働市場を離れると、再就職できないこと、こどもを育成する費用も高いことという二つの問題がある。ここで、来年当たり若干出生率が回復するとしても、赤ちゃんが勤労世代に成長するまでに20~30年はかかる。したがって、少子高齢化の今のトレンドは変わらない。
マクロ的にみて、社会保障費のGDP比は15%程度だが、医療・介護の負担はこれから倍以上に拡大する。年金について、年金負担は頭打ちとなり、給付水準は下がる傾向になるため、その負担は増えない。それに対して、医療・介護の負担は上がらざるを得ないのである。
このような難しい局面を脱出するために、マクロ経済を活性化させるのしかないのである。これから25年間の供給サイドのGDP成長をみると、労働投入量は実はそれほど減らない。というのは、60歳以上の高齢者も元気な者が増えて働けるということが想定される。また、女性の労働参加率が上がる。更に、外国人労働者も加わる。むろん、労働参加率を高めるために、それなりの規制改革が必要である。
一方、人口が減る割には資本投入量がそれほど減らないと想定されている。というのは、ライフサイクル仮説が想定するほど、貯蓄率は極端に減らないと予想される。また、日本国内の貯蓄は若干減っていても、企業は海外から資本を調達することができる。また、全要素生産性の推移は趨勢的に下がっているが、これからも1%の技術進歩があるだろうと思われる。こうしたことを背景に、向こう20~30年実質成長率は2~3%と高い成長が期待できる。
更に、企業の設備投資は3%ずつ増えていくものと予想される。目先、公的固定資本形成が抑制されるが、2013年ごろになると、公共投資は再び増額し、1~2%と伸びるようになると予想される。
繰り返しになるが、歳出に努力すると同時に、増税について国民の理解を得て実施すれば、財政状況は良くなる。したがって、財政状況が厳しいなか、思い切った規制改革を行い、投資機会を促進し、ライフサイクル仮説が当てはまらなければ、日本経済は向こう20~30年それほど悪くなることなく、更に成長する、というのは内閣府のワーキンググループが描いたシナリオである。
『日中経済の将来展望 - 共生への道』プログラム
| 9時~9時20分 | ご挨拶「日中共生への道とシンクタンクの役割」 |
| 富士通総研経済研究所 理事長 島田 晴雄 | |
| 9時20分~9時50分 | 「中国経済の発展と今後の展望」 |
| 中国社会科学院世界政治経済研究所長 余 永 定 | |
| 9時50分~10時20分 | 「日本経済の将来ビジョン」 |
| 東京大学教授 井堀 利宏 | |
| 10時20分~10時30分 | コーヒーブレーク |
| 10時30分~12時 | 自由討議 |
全文はPDFファイルをご参照ください。
PDF 日中経済の将来展望 - 共生への道 富士通総研・中国社会科学院共催 第1回日中経済専門家会議 [187 KB]
