富士通総研

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. Economic Review >
  4. Vol.10 No.2 2006年4月 >
  5. 中国における多国籍のR&D活動状況

中国における多国籍のR&D活動状況

上席主任研究員 金 堅敏

要旨

加速する対中国のR&D活動

昨年9月29日にUNCTADが発表した“World Investment Report 2005”によると、今後R&D活動の国際化のための立地選択で魅力的な地域として、第1が中国61.8%で、続いて米国41.2%、インド29.4%の順となっている。

実際、研究開発機関の設立が、近年の多国籍企業による対中投資の重要な特徴となってきている。中国商務省の統計によると、05年7月末現在、外資企業によって設立されたR&Dセンターあるいは研究開発拠点は、750ヵ所に達した。うち400ヵ所以上は2004年1月以降に設立されたものである。例えば、エリクソンでは過去5年間に平均30%増の研究開発費用を投入したが、05年の予算は更に50%増を計画している。ルーセントは、05年4月に南京にある3G研究所に8,000万ドルを追加投資し、累積投資額は2億ドルに達した。ノキアでは、これまで5ヵ所の研究開発センターを保有しているが、中国の3Gサービスがまもなく開始されることを見込み、05年8月に成都市に6ヵ所目の3G関連の研究所を立ち上げた。

これまで、対中R&D活動の分野はIT分野が多かったが、最近は自動車関係、化学、バイオ・医薬など、分野が広げてきている。また、R&D分野の投資方法としては、既存R&Dセンターへの研究開発費用の追加投資、R&D拠点の追加設立、新しいR&Dセンターの創設などのアプローチ方法がある。更に、これらのR&D拠点を通じて、研究プロジェクトベースで地場大学や国立研究所との共同研究も盛んに推進されている。サムソン電子のように、中国科学院と4つのジョイントR&Dセンターを設立しているケースもある。また、NTTドコモやフランステレコンのように中国でサービス業務は展開されていないが、中国で研究活動を展開している企業もある。

多国籍企業による対中R&D投資を加速している吸引力としては、(1)拡大する市場と生産拠点、(2)理工系卒業者や研究開発要員の多さ(現在、中国の理工系大卒者は約100万人 / 年、R&D要員は日本より多い110万人)、(3)人件費の安さ、(4)政府の優遇政策、(5)WTO加盟で改善される知的財産権保護の方向性、などが上げられる。

欧米企業の対中国R&D活動の実態

最近では、中国においてノキア、エリクソン、アルカテール、ルーセント、シーメンス等の移動通信3G関連、GM中国、日産自動車のような自動車関連R&Dセンターあるいはファイザー、ロシュなどの医薬品関連、ダンケミカル、デュポンなどの化学関連の研究開発活動が注目されている。中国における市場競争や人材の獲得競争は、対中国R&D活動から始まっているといえる。

これまでは、現地市場開拓あるいは現地資源利用を目的とする研究開発の拠点が多かった。しかし、近年では、グローバル研究開発機能を持つコーポレートレベル研究開発拠点の設置が増えてきている。例えば、GE(上海)R&Dセンター、デュポン(上海)R&Dセンター、マイクロソフトアジア研究院(上海)はコーポレートレベルの研究開発拠点であり、基礎研究を含めグローバル市場を満たす応用研究も行われている。

欧米企業のR&D施設の大部分は、人材の集中する北京や上海に立地しているが、最近では、生産拠点との一体性、人材の定着性や低コストなどの要因で天津、杭州、広州などの沿岸都市や、成都、重慶、西安などの内陸部にも展開されるようになっている。

知的財産権管理を強化するため、多国籍企業は100%自己資本のR&D投資を優先している。例えば、モトローラ中国研究院(投資額1.55億ドル)、ルーセント中国研究院(同2億ドル)、マイクロソフト中国研究院(同8,000万ドル)、IBM中国研究院などは、100%自己資本のR&Dセンターである。本社知的財産権管理部門との密な連携や、現地拠点での知財管理セクターの設置、スタッフ向けの頻繁な知財教育等の制度的な対策が講じられている。また、中国政府や中国社会へのアピールや中国市場開拓を優先にして知財管理の制度を整えた上で、あえて中国側と合弁でR&Dセンターを設立するケースもある。オランダ系のフィリプッス社やフランス系のSAGEM社は、それぞれ上海と寧波で中国側と合弁R&Dセンターを立ち上げている。

欧米企業のR&Dセンターは、海外留学経験者に任せて運営されているところが多い。例えば、デュポン、GE医療、ノボ社(デンマーク企業)のR&Dセンターのトップは海外留学経験のある中国人である。市場動向の早期認知、現地大学や研究機関との連携、人材マネジメント、政府とのコミュニケーションにおいて優位性を発揮している。

つまり、グローバル戦略に組み込まれたこと、市場開拓や生産と一体化したこと、制度的な知財対策、現地化されたマネジメントなどが欧米企業による対中国R&D経営の特徴となっている。

対中R&D活動のネックとなる知的財産権問題と人材確保問題

日系企業は、主として技術漏洩の懸念と優秀な人材の流出を懸念して本格的な対中国R&D活動を控えている。しかし、技術漏洩などの知財問題は、マスコミでよく報道される中国のコピー品や偽物問題と混同しているように思われる。現地フィールド調査で見る限り、製品分野と違ってR&D関連の知的財産権侵害問題は確認されていない。中国における研究開発活動は、技術開発の低付加価値部分しか行われておらず技術流出しにくいことや、知財管理が厳格に行われていること、現地R&Dスタッフは生産現場要員よりもモラルが高いといった理由が考えられる。

一方、技術流出問題は、人の流出に関係している。しかし、現地調査によると、欧米企業R&D要員の離職率は5%~10%で想像より高くはないことが確認できる。この離職率の水準は、米国やヨーロッパ諸国と同程度である。人材を定着させるには、給与、キャリアアップ、公正な評価等への配慮といった人材戦略が必要となる。デュポン、GE、ノボ社の中国系責任者は、本社に対するロイヤリティが高い。日系企業もこのような仕組み作りを工夫すべきである。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 中国における多国籍のR&D活動状況 [206 KB]