CCS導入と地球温暖化対策効果
主席研究員 田邉 敏憲
要旨
CCS導入論
昨年秋、カナダ・モントリオールで開催されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第24回総会において、二酸化炭素回収・隔離(Carbon dioxide Capture and Storage<CCS>)の報告書と要約版が承認された。CCSを地球温暖化ガス濃度の安定化に向けた組み合わせの一つの選択肢とする検討結果が本報告書だ。
CCSの一部は既に商用化レベルに達しており、特に、廃油田に隣接する火力発電所立地が極めて多い米国は、CCSのうちの地中隔離で、CO2対策が一気に有利化する。CCSによる京都議定書基準達成もその気になれば十分可能であり、CO2排出権の他国への売却さえ可能とされる。地中隔離での潜在力に乏しく、この点で不利化する日中韓3国は、共通の研究テーマとして、“CCSの海洋(海底)隔離”を取り上げるのが相応しい。
また、CCSが地球温暖化ガス濃度の安定化に向けて導入されると、地球温暖化防止シナリオも変ってくる。2100年の地球温暖化ガス濃度の安定化水準(550ppm想定)に関しても、より低濃度の想定が可能となる。今次IPCC総会でも、米国及びEUの代表的立場のオランダが、CCSを用いたCO2濃度のより安定化シナリオ(450ppm)を示した。
一方、ポスト京都議定書では中国・インドともに参加できるルール・基準づくりが重要となる。アジアの一員である日本は、米欧の提案する450ppm安定化シナリオにも対応可能だが、ポスト京都議定書参加が中国やインドの高経済成長持続の制約とはならないような配慮も必要となる。今こそ、先進国と途上国に分けた2段階ルール・基準づくり、あるいはアジアの共同提案を、日本が率先して推進することが時宜にかなうだろう。
IPCC報告書要約版のポイント
CCSとは、電力・石油精製、あるいは化学・鉄鋼・セメントなどエネルギー多消費産業等から排出されるCO2を分離・回収(capture)し、貯蔵(storage)場所へパイプラインや船などで輸送し、大気から長期にわたり隔離する、一連のプロセスから成り立つ。
他の地球温暖化防止措置としては、省エネなどエネルギー効率改善、炭素含有量の少ない(クリーンな)燃料や原子力・再生可能エネルギーへの転換、森林などバイオシンクの活用、CO2以外のSOx、NOxなど温暖化ガス削減があげられる。CCSは、全体の温暖化防止コストを削減し、かつ温暖化ガス排出削減の実効性をあげやすくする潜在性をもつ。
本報告書の要約版のポイントは以下のとおりである。
(1)化石燃料を用いた大型の発電施設などからの排出削減に有効。
(2)削減コスト(CO2トン当たり)25~30米ドル程度でCCSは急速に普及。
(3)世界全体ではCCSで約20,000億CO2トン(約5,450億Cトン)を処理可能で、これは2100年までに必要な累積的CO2排出削減量の5割強に相当(ちなみに2010年頃の年間CO2排出量は世界全体で約100億Cトンの予想)。
(4)CCSのコストは、1kwh当たり発電コストで0.01~0.05米ドル程度。
(5)仮にCCSが数十年内に導入されると、CO2濃度安定化が現実の問題となる。
(6)日本(及び中国・韓国、インド)では、(廃油田など)地中隔離容量が小さいため、海洋隔離が重要。
CCSでは米国が有利化
ただCCSが採用され、普及するかどうかは、技術的成熟、コスト、あるいは廃油田(油田のない日中韓、インドなどは地中隔離の余地が小さい)などの潜在力、規制面での対応、環境への影響、技術に対する認知の拡がり次第ということになる。例えば、CO2の海中隔離に対しては、グリーンピースなどは「海中の生態系に大きな影響を及ぼす」「いつかは再び大気中に戻る」などとして、反対姿勢にある。
特に、技術的成熟度に関しては、廃油田に隣接設置された発電所あるいは化学プラントなどから回収したCO2をパイプラインで廃油田に隔離・貯蔵する技術は商用化のレベルに達している。コスト的にも、一頃CO2トン当たり100米ドルは下らないとされていたのが、25~30米ドルのレベルで可能なことが見えてきたことは大きな前進である。一方、海中隔離やコールベットメタンとしての地中隔離は、まだ調査ないし実証テスト段階にあり、実用化には距離がある。
このようにCCSの一部は既に商用化レベルに達している中、隣接の火力発電所から排出されるCO2を多数の廃油田に地中隔離でき一気に有利化する米国及びEUの代表的立場のオランダは、ともにCCS導入を支持している
なお、CCSのコストが25~30米ドル / CO2トンとなると、現在30米ドル / CO2トン程度まで上昇したCO2排出権取引価格も、このCCSコストに鞘寄せされることになる。
日中韓による海洋隔離の共同研究提案
ところで地球温暖化対策基準に関し、欧米に比べアジアはコンセンサス形成が遅れている。これは、そもそもアジア地域にあっては、共に化石燃料資源が乏しい中で、(1)これまで原単位(GDPや1人当たり)エネルギー消費量が極めて低水準の中国・インドなどは、経済成長の足かせとなるCO2排出基準設定には応じられないこと、(2)日本を除きリサイクルなどの循環型経済社会システムの形成が遅れていること、(3)日本を含めてアジア諸国はCCSの地中隔離容量が小さいことなどの事情が背景にある。
この点、世界第6位の排他的経済水域を有する日本としては、率先して海洋隔離(海底隔離を含む)の技術的成熟、コスト、環境への影響などの検討が必要となる。10年間で40億円の資金投入により既に研究所を立ち上げている韓国との連携も視野に入れる必要がある。
こう考えると、ポスト京都議定書基準へのインドを含めたアジア共同提案づくりに向けた第1弾として、化石燃料資源に乏しいだけでなく、地中隔離での潜在力に乏しい日中韓3国は、共通の研究テーマとして“CCSの海洋隔離”を取り上げるのが相応しい
全文はPDFファイルをご参照ください。
PDF CCS導入と地球温暖化対策効果 [224 KB]
