地域の情報化とISPの役割
主任研究員 峰滝 和典
要旨
ISP企業の戦略の変化
1994年頃に第1次のISP乱立期が発生し、ダイアルアップ接続によるアクセス・ポイントの拡充競争が起きた。その後、2000年に入って、第2次のISP乱立期が発生した。この時期はブロードバンドの普及による価格競争である。
現在では、様々な付加サービス競争が展開されている。価格競争が過当になるなかで、ISPの企業戦略は低価格戦略からサービス内容の多様性に移ってきている。ADSLの普及を促進した低価格競争も一段落し、現在FTTHの普及が着実に起きており、それが今後IP電話、ブログなど、サービスの多様化を更にもたらすものと期待される。
地域系ISPの課題と地域の情報化における役割
ISPには全国的に知名度が高いもの以外に、地域に密着した活動をする地域系ISPも多数存在している。地域系ISPは全国系の大手ISPと異なり、自前で莫大なインフラ投資を行うことは困難である。地域系ISPの経営を圧迫している問題の一つは、バックボーン・コストの高さである。バックボーン・コストとは、上位回線を保有する事業者のバックボーン・ネットワークへの接続料金である。地域系ISPは低価格戦略だけでは限界がある。
そこで重要となってくるのが地域密着型のサービスの提供である。パソコン教室を開講したり、地域住民に対して出張サポートを行うといったサービスを提供する地域系ISPも多い。また地域情報の発信に力を入れることも効果的である。地域の情報化の推進において、ISPの果たす役割は大きい。
関西ブロード・バンドは大手業者が整備に乗り出さない過疎地域でブロードバンド整備を推進している地域系ISPの代表事例である。兵庫県の光ファイバー整備により生まれた空き回線を活用して低コスト通信を可能にした。兵庫県が敷設した「兵庫情報ハイウェイ」をバックボーンにし淡路島や、県中西部を中心に60市町に接続拠点を開局した。現在ユーザー世帯は1万3,000世帯を超えている。他社がADSLの提供不可能とみなした地域にブロードバンドを提供している。100人の利用者が集まればどこでも開局するという。サービス内容も多様である。地域ポータルサイトの構築にも力を入れ地域のイベントの紹介なども積極的に行っているし、ブログとSNS(Social Networking Site)を融合した新しいコミュニケーションツールも提供している。
官民協業の重要性
日本はブロードバンド先進国であるが、ブロードバンドは都市部を中心に整備が進展しており、採算性等の問題から民間事業者の投資が期待しにくい地域では十分に整備が進んでおらず、地理的要因によるデジタル・ディバイドが生じている。特にFTTHにおいて格差が存在している。ブロードバンドの整備が進みにくい地域において、地理的特性や地域の資源、住民ニーズ等の実情に応じた整備を促進するためには、地方自治体の役割も重要である。
先の兵庫県以外にも、多くの事例がある。例えばバックボーン・ネットワーク接続に関して、福岡県では「ふくおかギガビットハイウェイ(FGH)」を推進している。「ふくおかギガビットハイウェイ」は、民間企業等へ広く無料で開放しているネットワークであり、光ファイバーを使った2.4Gbpsの高速・大容量ネットワークである。アクセスポイントを県内主要9都市に設置し、幹線の利用は無料とし、アクセスポイントと利用者間の回線費用は利用者の負担としている。
ISPにとって低コストというメリットがあるだけでなく、コンテンツ配信やASPサービスや遠隔医療画像診断サービスの提供など、コンテンツ系・ソフトウェア系の企業の発展も促している。今後、こうした情報関連企業の集積がますます進む地域と進まない地域の差が出てくると思われる。
地域ISPはこれまで、地域における情報化を支援してきた。そのなかには、90年代半ば以降のインターネットの普及とともに誕生した企業もあるが、それ以前にはソフトウェア関連の企業として地域に根ざした活動を行ってきたものも多い。こうした地域ISPが活力を維持していける環境作りが、地域の情報化の推進にとって必要である。
地域の情報化の主体は地域住民、地域の民間企業であることは言うまでもないが、地方自治体の効果的なサポートも重要である。公共ネットワークの開放といった、財政事情を悪化させない方法での支援策が効果的である。官用のインフラ、民用のインフラと二重投資をすることなく、官民がインフラを共同利用することにより、民間企業によるビジネス機会も広がることになろう。
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