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財政健全化のシナリオ - 成長重視か増税重視か

主任研究員 米山 秀隆

要旨

デフレから脱却し、本来の成長力を取り戻しつつある日本経済の次の重要な政策課題として、財政再建論議が活発化している。経済財政諮問会議は、この6月に歳出・歳入一体改革の工程表を示す予定である。今後の財政再建の道筋を展望するにあたっては、前提となる名目成長率、長期金利、増税及び歳出削減の度合いによって大きく変わってくる。現在のところ、堅実な成長を前提として消費税増税の必要性を強調する意見(増税重視派)と、高めの成長を前提として消費税増税を最低限に留めるべきであるという意見(成長重視派)が対立する状態にある。

以下では、現実にどのような財政再建シナリオが可能かについて、いくつかの前提の下で試算を行ってみた。2005年度の一般政府のプライマリーバランスはGDP比3.3%の赤字、債務残高は731兆円に達するがこれを出発点とする。

最初に、2006年度以降の名目成長率が2%(実質成長率1.5%程度、物価上昇率0.5%程度)と低めに見積もった場合について試算を行う。長期金利については、2006年度は2%の低水準に留まるものの、2007年度以降は、名目成長率より高い3.5%になると想定する。これは90年代でゼロ金利政策の導入前までの名目成長率と長期金利の平均的なギャップが1.5%となっていたことを反映させたものである。

名目成長率と長期金利の関係は、今後の財政再建シナリオを描く場合、極めて重要な要素となる。名目成長率>長期金利となれば、債務残高の増加スピードに比べ名目GDPの増加スピードが速くなるため、それだけで(債務残高 / 名目GDP)が低下する。こうした関係から、成長重視派は、できるだけ高い成長と低い金利を実現しようとする。しかし、先進各国の歴史をみると、経済が急成長する段階では、名目成長率が長期金利を上回るが、成熟期に入ると名目成長率が長期金利を下回るようになっている。こうした関係を考慮し、ここでは最近の平均的なギャップを採用した。

一方、歳入・歳出については、次のような想定をおく。歳出は2007年度以降、一般政府の歳出規模を毎年GDP比0.5%ずつ縮小していき、10年後の2016年度に現在よりGDP比で5%縮小するものとする。歳入は2008年度に消費税率を3%引き上げ8%とし、更にその3年後の2011年度に2%引き上げて10%にするという二段階の引き上げを想定する。最終的な消費税率を10%と想定したのは、最近の世論調査で、消費税引き上げを容認する人のうち上限を10%と考える人が多いことによる。増税について理解が得られるよう、歳出削減の開始を消費税増税の開始より1年先行させる。

これらの前提の下で試算を行うと、プライマリーバランスは2010年度に黒字化し、2016年度にはGDP比4.4%の黒字になる。債務残高のGDP比は2013年度以降低下に向かい、2049年には債務残高のGDP比が68%と、90年代初めの60%台の水準に戻る。この試算では、現在のプライマリーバランスの赤字(GDP比3.3%)を、2016年度以降4.4%の黒字に改善させるが、プライマリーバランスの7.7ポイントの改善のうち、7割近くを歳出削減によって実現する計算になる。

ハーバード大学のアレシナ教授らの研究によれば、OECD諸国で財政再建に成功したケースでは、プライマリーバランスの改善に対し歳出削減の寄与が72%、増税の寄与が28%となっている。これは財政再建を進めるうえで、歳出削減にウエイトを置くことが重要であることを示しており、上の試算もこれに近い比率を想定している。

高めの名目成長のケース

以上述べてきたシナリオは、整理していえば、低めの経済成長(名目成長率2%)を前提とし、長期金利については成長に見合った自然な水準(3.5%)になると想定した場合、2050年前後を目処に債務残高のGDP比を90年代初めの60%台に戻すためには、プライマリーバランスのGDP比7.7%の改善が必要で、その時、消費税率を10%に留めるためには、GDP比5%の歳出削減を行わなければならないことを意味する。

成長をこれより高く見積もった場合、シナリオはどのように変わるだろうか。名目成長率3%(長期金利4.5%)と想定した場合は、成長に伴う税の自然増収が増すことにより、債務残高のGDP比が60%台になる時期が早まる(2045年に69%)。更に高めの成長(名目成長率5%、長期金利6.5%)を想定した場合には、消費税率を8%に留めても、2053年には債務残高のGDP比が69%になる。高めの成長の下では自然増収が増えるため消費税引き上げが少なくてすむが、一方では金利上昇で利払い費が増すため、その効果は減殺される。名目成長率5%の時に、長期金利も同じ水準(5%)に維持できた場合には、消費税率が5%のままですむ計算になる。

以上はすべて段階的な歳出削減(最終的にはGDP比5%)が行われることを前提にしたが、歳出削減が全く行われなかった場合にはどうなるだろうか。最初にあげた低めの成長率(名目成長率2%)の下で、歳出削減が全く行われないケースでは、消費税率を22%にまで引き上げなければ、債務残高のGDP比を2050年前後に60%台に戻すことはできない(2053年に66%となる)。

このように今後の財政のシナリオは、マクロ経済の想定(名目成長率、長期金利)と歳入・歳出の見積もりによって大きく変わってくるが、政策的には、堅実なマクロ経済の想定の下で、消費税率の引き上げが最低限で済むような、歳出削減プランを示すことが重要と思われる。成長加速や金利抑制に過度に依存したり、増税に頼りすぎることのいずれも、説得力のある現実的なシナリオとは考えられない。ここで示した試算はラフなものに過ぎないが、政府はより緻密な試算を行うことで国民に政策の選択肢を示し、財政再建について国民の理解を得られるよう努めていくべきであろう。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 財政健全化のシナリオ - 成長重視か増税重視か [195 KB]