改革のキーポイント
千葉商科大学学長 加藤 寛
要旨
大津波、ハリケーン、豪雪と自然が荒れ狂った後、ポスト小泉の話題でもちきりだったが、今年に入ってガラッとムードが違ってきた。昨年から続いた耐震偽装建築問題、そしてライブドア事件と行き詰まった後、BSE問題、そしていつもながらの官製談合問題が表面化して、日本はデフレから立ち直る時、ポスト小泉どころではない難問に突き当たってしまった。これはシステムの崩壊にほかならない。
N.ルーマンのシステム論によれば、「なんらかのシステムがシステムであるのは、そのシステムがそのシステム自体のオペレーションを通してそうしたシステムへとみずからをつくりあげている場合に限られるのである」。言い換えれば、組織は一つのシステムであり、その部分が十分に機能しなくなった時システムは崩壊する。その再生のための改革をして一つの機能を果たせるように部分を統合し新システムをつくらねばならない。
小泉改革が構造改革といわれるのは、そうした広範な部分改革を一つのシステムに組みかえていこうとしているからであり、改革はシステムに統合されるまで、必ず不備を残すはずである。これはどんなシステムでも改革を行えば不備は起きる。豪雪対応にしても、耐震建築偽装事件も、ライブドア事件にしても改革を行った時、それに伴ってシステム改革をしておかなかったことによって生じる不備だといわざるを得ない。連日報道にシステムという字がおどっていた。
しかし改革を望まぬ保守的な観念の強い日本では、改革に伴う新しいシステムづくりには臆病でもある。例えば、道路公団の改革にしても、総枠を縮小して道路建設を抑制することは、新しいシステムづくりであるせいか、あくまでも改革反対が多かった。こうして改革に伴って次々と必要になるシステム対応ができないことに、はじめて私が気がついたのは、新生銀行生誕をめぐった、『セイビング・ザ・サン』を読んで愕然とした時だった。
この本は日本長期信用銀行の再生にあたり、日本の欠陥を浮き彫りにした。
長銀は、好況の時代に産業界の顧客への融資を通じて発展し、80年代には不動産融資でポートフォリオを広げ、2000年に米国のコンソーシアムに買収されて、新生銀行として再生を図ることになった。この驚くべき紆余曲折の物語は、文化的にも、政治的にも注目に値するが、テットは更に、この銀行に見られる問題点は、日本経済全体がかかっている病理を示していると考えた。彼女は、日本が旧態依然のビジネスのやり方に頼った結果、不良債権を増やし、1990年代に銀行システムに総額1兆ドル以上の負担を負わせることになったのだと論じている。そして長銀の破綻と買収は、大勢の返済に行き詰まった債務者に厳しく対応することができなかったことによる当然の結末だと考えているのである。
実は、この問題を乗り切ってシステム統合を成功させたのは、すばらしいコンピュータ適応力を持つインド人であった。いまではアメリカのソフトウエア産業はインド人が支えているとまでいわれている。日本でも、新生銀行が登場したとき、日本のSE(システムエンジニア)がシステム統合に2年時間がかかるといったが、インド人は3ヵ月でやってしまったという逸話は、有名である。日本の銀行統合で、システム統合が失敗し、利用者に迷惑をかけた話はよく知られている。郵政システム構築では、細心の注意が払われていると思うが、全力をあげて頑張ってほしい。
特にライブドア事件、耐震偽装事件、BSE問題などはシステム改革への対応から見逃し難い事件となってきた。なかでもライブドア事件は、間接金融から直接金融への移行という改革最中に起こった事件だけに、こんな違法に対応していなかった日本の証券取引法の曖昧さに腹が立ってくる。ライブドアの株暴落で取引所閉鎖など世界の市場といえるのだろうか。システムの不備としかいいようがない。何しろ、国民金融の3割が公的分野で握られ、直接投資が堰き止められていたのだから当然かもしれない。小泉改革はこの大きな問題にメスを入れたのだから、それに対応しきれなかった部分が当初残ったとしても仕方がないが、ここを打開してこそ本当の改革になる。
システム統合が日本の改革のキーポイントになることを私が強調したのは、日本が明治以来の富国強兵型成長方式を改革し、軍人官僚による財政を行政官僚による公共事業型成長に変えただけでは不十分であり、徹底した官から民への改革を必要としていることを痛感したからであった。
言い換えれば富国強兵型の財政を、民間主導型に変えてもそれは行政=公共事業がそれに変わるだけで、民間を豊かにするのではなく、官僚中心の経済を生むだけである。ここでは日本の金融はいつも川の水を堰き止められて資金にあえぎ、それをいいことに官僚が規制する体制をつくりあげているだけで、間接金融は少しも変わらない。これでは世界の金融市場の中で日本は田舎の市場に他ならない。例えばライブドア事件で450万株の売りが出たら市場閉鎖するなど、まさに田舎の市場である。世界金融市場の信頼を保つどころでない。
そうした規制された金融が間接金融の基本になっている。日本の郵貯資金は明らかにその象徴であり、システム統合さえままならぬ奴隷型であった。郵貯改革はそこにメスを入れることであり、これこそ日本が世界へ躍り出る改革であった。その難関を突破できた小泉改革を高く評価したい。
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