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サービスサイエンスの意味するもの

主席研究員 安部 忠彦

2006年1月

要旨

SSMEの出現とその背景

「サービスサイエンス」という概念が生じたのは2002年ごろの米IBMのアルマデン研究所と言われ、カリフォルニア大学バークレー校教授のヘンリー・チェスブロー氏とアルマデン基礎研究所とで結成された、サービスを社会工学システムの見地から研究するチームの取り組みから生まれたとされる。しかし明確に世に出たのは、米IBMの会長であるパルミザーノ氏が共同チェアマンとなっている米国の「競争力評議会」により作成され、2004年12月に発行された「INNOVATE AMERICA」においてである。その中でサービスサイエンスの研究推進が高らかに謳われた。

当該報告書の中で、サービスサイエンスとは、先進国におけるサービス社会の急速な進展を背景に、コンピュータ・サイエンス、OR、エンジニアリング、数学、意思決定学、社会科学などの学際的学問をベースに、組織をいかに再構築するか、サービスでのイノベーションをいかに管理するか等に取り組む学問とされた。その具体的な構成内容としては、ビジネス戦略、ビジネスプロセス、人材最適化、IT基盤技術が含まれている。現在このコンセプトはサービスサイエンス、マネジメント、エンジニアリング(SSME)と呼ばれるようになっている。

SSMEが出現したのは、サービス化が進展し当該分野のイノベーションが重要なのに、国全体としても有力ITベンダーとしても、この分野でのイノベーション努力が足りないという反省が生じたためである。確かに現状では有力ITベンダーにおいてもサービスの売上は急増しているが、サービス分野向けの研究開発費は驚くほど小額である。またITベンダーの立場からみると、近年企業経営者がITの投資効果に強い関心を抱くようになり、IT投資の効果を顧客企業に定量的に説明することが要求されていることも背景としては大きい。

SSMEの理解促進のために

多くの人にとって、SSMEの重要性は漠然とは認識されやすいが、サービスはその内容が多様なこと、自然現象の解明から発するサイエンスとサービスとの親近度が小さいと考えられやすいことから、SSMEはそれほど理解が進んでいない。しかしITベンダーにとって、SSMEは避けては通れない重要テーマであり、ベンダー自身が深く理解すると同時にユーザーの理解を得ることが不可欠である。

SSMEの理解を促すためには、第1にサービスの本質を明確にする必要がある。すなわちサービスの本質は「提供者(プロバイダー)と顧客(クライアント)とが共同で価値を創造すること」にある。したがってサービス事業とは、プロバイダーとクライアントとが共同創造した価値に対する対価の授受ということになり、必然的に価値の程度、価値実現のリスクの未来予測などがより正確になされることが求められる。

このことがSSMEの理解を促す第2であるサイエンスという言葉が何故用いられたかの説明になる。サイエンスの本質は、属人的なノウハウに依存せず、情報の観察や測定によるモデル化を行い、モデルの検証を行うことで、属人的でない再現可能・未来予測性の高い結果を出せることである。将来の価値やリスクを定量的に予測するためにサイエンスが用いられているのである。

IBMのSSMEへの取り組み

現在、SSMEを積極的に推進しているのはIBMである。特に米アルマデン研究所が中核となって活動している。その取り組みの方向には2つの方向がある。第一は大学院などアカデミックな世界の取り込みである。第二は、IBMの現実のコンサルテイングやサービス部門の支援である。

前者では、米国や英国、最近では日本の大学院におけるMOTコースの教官を対象に、SSMEに関するワークショップを開催したり、SSMEに積極的な米の大学院教授11人に対し褒賞を与えたり、大学院のSSMEコースの教材を準備中である。この結果、大学院の教官の中には近い将来、SSMEコースを開設する計画の教授も見られる。今後の高度なサービスにおいては対応できる人材が重要であり、今後のサービス産業発展において人材不足がネックになることを防ぐための遠大な布石と解釈される。

後者では、ビジネスプロセスのモジュール化におけるモジュールの妥当な粒度の決定、モジュールの標準化、モジュールの重要度から自社でやるものとアウトソーシングすべきものの判断基準、モジュールで使用される意思決定モデルの高精度化などが目指されていると考えられる。

日本のITベンダーの対応

SSMEはまだスタートしたばかりであり、現実のビジネス分野では成果は顕在化していない。しかし大学院の取り込みはより積極的であり、大学院教育の現場で、IBM方式のSSMEのやり方が標準になり、大学院から社会に輩出される人材がこのやり方になじむ可能性は高い。

SSMEはサイエンスの言葉が入っているとおり、地域の産業実態を越えた本来汎用的な概念である。しかし現在では、SSMEと名称を変えたように、個別具体的にはアメリカ型のエンジニアリングの考えにのっとってサービスがなされる可能性は強く、そのやり方が必ずしも日本の産業実態に合ったものとは言い切れない。

したがって日本の産業実態に合ったSSMEを生み出すことが日本のITベンダーや学会では重要であり、今後こうした方向への研究と実践が進むように、政策的にも誘導する必要がある。

全文はPDFファイルをご参照ください。

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