中国高成長持続における深刻な資源・環境制約
主席研究員 田邉 敏憲
2006年1月
要旨
中国では、2008年の北京オリンピックでも環境問題に強く取り組む姿勢にある。北京に青空を取り戻すblue sky planなど大気汚染対策が主体の「エコ五輪」の目玉は、中国4大製鉄所の一つ、首都鋼鉄の移転である。しかし一方で、自動車急増によって光化学スモッグ問題が激化し、むしろ交通渋滞が北京オリンピックのアキレス腱となっている。
このように環境対策が打ち出される一方で、環境汚染は益々深刻化するという状況は中国全土に及びつつある。今後の中国の高成長持続の大きな制約要因として、化石燃料を含めた鉱物資源、水資源などの資源問題や環境問題が急速に表面化している。
深刻化する大気汚染や水問題
中国の2020年総エネルギー消費(石油換算)は、従来17億トンの予想だったが、2004年に、OECDのIEAが20.72億トン、中国政府は25.2億トンと、大幅に上方修正した。
また昨年9月、国家発展改革委員会の周大地エネルギー研究所長がシドニーの国際会議で発表した中国の「2020年総エネルギー消費、発電能力見通し」も世界に大きな波紋を投げかけた。石炭火力発電が中心になることもあって2020年の年間石炭消費量は31億トン(実物量)に達する。この場合、16億トン(標準炭換算で9億トン)の輸入超となる。石炭火力による2020年の発電能力も7.8億kwに達する見通しだ。
こうした石炭消費見通しに伴って、大気汚染や煤塵・酸性雨など環境問題の一段悪化は避けられない。石炭ガス化など抜本的なクリーンコールテクノジーの開発導入なくして、中国の高成長持続は不可能となる。
更に水情勢は緊急性を帯びる。中国の1人当たり水資源量は、世界平均の3分の1にも満たず、水資源分布も極めて不均衡であり、全国の都市では水が不足している。工業立地でも、エネルギーのみならず水問題が制約要因となりつつある。中国の水資源は、こうした欠水と同時に、頻繁に起こる洪水、重大な水質汚染や生態環境の悪化という4つの問題を抱える。
黄河は既に渇水期に断流し、泥水の中に生物がほとんど生息せず、もはや川でなくなりつつある。
世界3番目に長い河、長江の流域は中国GDPの4割を生み出し、オリンピックに向け水確保に走る北京への長江からの水供給ルートも建設中だ。しかし、長江も今までにない大きな危機に直面している。2004年10月、全国政治協商会議と中国発展研究院が連合主催した「長江保護万里行」視察団は、上流の四川省宜賓から出発し、上海までの21都市で汚染を実態調査した。その結果、「長江の生態は極めて危険な状況にあり、解決しないと10年以内に崩壊する恐れがある」との見解を公表した。
流域森林の比率が急速に下がり、泥砂の含有量が増えて生態環境は急速に悪化している。渇水期も早くなり、長江でも断流が近づいている。水質も極めて悪化し、沿岸の多くの都市の飲料水に影響している。牛や羊の死体や家具を含めた固体廃棄物の汚染はひどく、貯水が始まった三峡ダムではこうした廃棄物が最高4メートルの厚さとなり、発電に大きな悪影響を与えている。
農業インフラも危機的
過剰揚水問題も深刻化している。大量の水を必要とする穀物生産や綿花生産を中国では地下水利用に大きく依存している。穀物生産は98年に史上最高を記録したが、その後、過剰揚水のほか、農地の工場・住宅・道路用地への転用、植樹のため畑から山林への転換政策などによって穀物生産量はかなり減少した。
また世界でも有数の中国の穀倉地帯、東北3省の“黒土”にも異変が起きている。土壌浸食の深刻な被害により、肥沃な黒土が瘠せた“黄色い大地”に変わりつつある。ここでは、中国全体のトウモロコシの約8割、大豆の約6割を生産している。農民の生活向上等のために森林が切られ、溝ができ、ヤギや羊の根こそぎの食性もあり、年間約1cmのピッチで黒土は減少中だ。専門家は、「現在の流出ペースが続くと、50年後に黒土は消滅する」と警告する。
ここにも、中国が高経済成長を持続する上での大きな制約要因が存在する。
「循環経済」論の登場
急速に深刻化する環境情勢を踏まえ、中国政策研究者においても、環境と資源問題を両立させて持続可能な発展を導くという「循環経済」の概念を打ち出している。「循環経済」とは物質資源の循環利用やエネルギーの効率的利用を特徴とし、生態(エコロジ?)工業、生態農業、生態消費等のシステムを含むものである。
中国科学院の持続可能な戦略的発展研究チームでは、循環経済の発展には次の三つの原則を遵守する必要があるとしている。
(1)減量化の原則(Reduce) : 資源投入の最小化を目標とし、産業連関の入口=資源を対象とする。
(2)資源化の原則(Reuse) : 廃物利用の最大化を目標とし、産業連関の中間部分で消費群(消費者)や製造業を対象とする。
(3)無害化の原則(Recycle) : 汚染排出の最小化を目標とし、産業連関の出口=廃棄物を対象とする。
伝統的な経済から「循環経済」への転換は、経済発展モデルを根本的に変革することである。したがって転換の過程で、理念の転換、関連技術の研究開発と創造、システムの発展計画と方案の制定、市場メカニズムの活用、関連する法律や法規の問題、国民と企業の責任など多くの課題をクリアーする必要がある。
これら課題解決のために中国は既に行動を開始しているが、まだ準備段階にある。循環経済の発展において大きな成功を収めたドイツと日本の、政府の立法や企業の努力など豊富な経験に対して関心が高まっている。大気汚染、海洋汚染の影響を直接受ける日本は、自分自身の問題でもあり、公害・エネルギー・地球温暖化・廃棄物リサイクル問題などにおいて培ってきた、環境保全と経済成長の両立が可能な3R(Reduce、Reuse、Recycle)関連技術分野での協力がとりわけ重要となろう。
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