原油価格の高騰と今後の対応策
主席研究員 武石 礼司
2006年1月
要旨
原油価格の動向
2003年以降、石油価格の急上昇が生じた。この価格高騰は、エネルギー供給という世界の発展の基礎となる経済活動において、供給国側と需要国側との相互の情報交換の不足により生じたと言うことができる。平常時には、石油価格は石油先物取引市場が中心となって「価格発見」が行われ、その価格が指標となって世界の石油価格の動向を、先物価格を指標として示すことが行われてきた。しかし、現在生じている誰もが予想できなかったほどの石油価格の急激な上昇は、従来から行われてきた「通常の商取引」の範疇を超えており、市場商品としての石油から政治商品としての石油への転換が生じてしまったと言える。特に、石油製品供給量の不足、精製能力の不足、更には、石油探査の不足、パイプライン・港湾・出荷設備等の石油供給インフラの不足が生じている。石油需給に関する情報交換システムの整備、産消対話の頻度を増やすこと等、できるところから至急整備を進める必要が生じている。
原油需給の動向
原油価格の異例の高止まりの状況が続いてきている。北米の指標原油であるWTIが2005年8月末に70ドル / バレルを超えるという高値をつけ、2005年11月現在では小康状態にあり60ドル / バレル前後となっているが、依然として従来から比べると高いままである。
米国では、2005年秋に相次いで大型のハリケーンが襲来し、米国ガルフ湾岸での石油生産と製油所の多くが操業を停止した。このため世界的に石油供給力不足が発生することが懸念される状況となり、OECDの下部機関である国際エネルギー機関(IEA)加盟各国は、合計で6,000万バレルの備蓄の取り崩しを行うことを決定した。日量200万バレルの原油を30日間IEA加盟各国が協力して供給することで、原油の供給量のみを見た場合には世界における供給不足の懸念は回避された。国際的な備蓄の取り崩しがあったことで、漸く、米国の石油製品生産量の減少部分が補われたことになる。
原油需給における課題
今後も、原油価格は依然として従来と比べると高位に止まる可能性が高い。これは、中国及びインドを始めとした途上国を中心として、今後も確実に石油需要量は増大すると考えられる一方、供給可能量が需要量を大幅に上回ることはない状態が今後も続き、需給は引き締まったままとなると考えられるからである。
世界の石油需要量は、IEAが発表するオイルマーケットレポートによれば、2004年で8,210万バレル / 日である。2002年が7,770万バレル / 日、2003年が7,920万バレル / 日であり、増大分は2003年が対前年比で150万バレル / 日、2004年が290万バレル / 日であった。2004年の増大部分が例年に増して大きかったことが知られており、中国の需要量は、2003年の560万バレル / 日が2004年には640万バレル / 日へと、80万バレル / 日増大しており、その他アジアにおける対前年比の需要増大分の50万バレル / 日と合わせると130万バレル / 日の需要増が2004年にアジアのみで生じたことがわかる。
世界の石油需要は大消費地である北米、欧州、北東アジアの需要動向に合わせて、従来は北半球の冬に需要期があり、また、北米では夏のドライブシーズンでのガソリン需要の増大という小規模な需要の増大期がある。このように、石油需要には2つのピークがあり、春先と秋口は不需要期ということで、需給が緩み価格は低下するのが一般的な傾向であった。この需要期と不需要期とにおける世界全体での需要量の差は、せいぜい150万バレル / 日程度であり、しかも、年ごとの需要の伸びは、2003年にそうであったように、これまた150万バレル / 日程度であった。こうした従来からのパターンを全く崩してしまったのが2004年の需給の状況であり、中国及びインドを始めとした諸国が急激な需要増を招いたことで、世界経済に多大の影響を与えたことになる。
もし仮に2004年に生じたような290万バレル / 日もの需要増が毎年生じたとすると、2010年では世界の石油需要はほぼ1億バレル / 日に達してしまい、需要増は2005年から2010年の間で1,740万バレルにもなる。
問題は、OPEC以外の諸国の増産余力が限られてきている点であり、OECD諸国は既に北米も北海もともに生産量は減少傾向をたどっており、減産量をどこまで縮小できるかが大きな課題となっている。その他、今後ともわずかずつではあるが生産量を増大できると考えられているのは、旧ソ連諸国、中南米、アフリカ諸国であるが、毎年の伸びの合計は100万バレル / 日を超えるか超えないかという程度の増産である。
このように世界各国の増産可能性を検討してくると、残された期待できる諸国はOPECのみということになる
ただし、OPEC諸国においても、毎年合計で100万バレル / 日を超える増産を着実に実施していくことは、決して容易なことではない。OPEC最大の石油産出国であるサウジアラビアにおいてすら、現在1,050万バレル / 日である生産能力を上昇させる次の目標は1,200万バレル / 日であり、この目標値まで引き上げるためには更に数年を要すると発表している。イラクの石油生産量は現在180万バレル / 日程度に止まっているが、イラクが今後、既存油田の修復を成し遂げて、生産が可能となると見られる量は600万バレル / 日であるが、こうしたイラクの将来的な目標値ですら、アジアを始めとする諸国の需要増の数年分をカバーするのに過ぎない。このような将来の石油需給状況が予測できる以上、供給過多、生産能力過多による石油価格の暴落は考え難く、高い石油価格を前提とした石油生産能力の増強に取り組む必要がある。また、日本が先行している省エネ努力の徹底化により、世界を先導することも重要な施策となる。原油価格の急騰は、多くの諸国の産業のあり方に対しても、転換を求めることになる。
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