不確実なグローバル環境 - いかにして成功を勝ち取るか
A.T. カーニー
グローバルビジネスポリシーカウンシル代表
ポール・ラウディシナ
2005年10月
要旨
今日、自由化、技術発展、統合など、様々な政策により、世界は著しく進展したが、同時にリスクや脆弱性がうまれた。この均衡の崩れた世界の中でも、国と企業の利益は、クロスボーダーの活動から得られる。リスクに対応でき、世界的に展開した企業が成功を得られる。問題は、それらを成し遂げるために、どうやって明確なビジョンや見識を得るのかということである。企業が成功を勝ち取れるか否かは、グローバル化、人口動態、消費者パターン、天然資源と環境、市民活動と規制、という将来の環境を形成する5つの原動力を正しく理解し、リスクに備え、将来のシナリオに基づき自社の戦略を策定、実行することにかかっている。
均衡の崩れた世界における5つの原動力
今回の、G8主要国首脳会議グレンイーグルズ・サミットでは、私達が直面している課題が話し合われている。グローバル化と統合である。更には、アフリカの貧困問題、気候変動問題が議論の中心となっている。サハラ砂漠以南に住む7億人の平均寿命は、1970年以降、62歳から46歳に縮まっている。グローバル化や統合によって豊かになった社会がある一方で、世界の中では、統合の恩恵を受けていない人々もたくさんいるのである。
自由化、技術発展、統合など、様々な政策がとられ、世界は著しく進展した。ところが、人々の考え方は必ずしも良い方向には変化していない。統合が、様々な機会を創り出す一方で、人々に不安定感をもたらしている。それが、World Out of Balance、つまり、均衡の崩れた世界である。
激動の90年代における目ざましい経済成長は、ジャスト・イン・タイムの製造、アウトソーシング、電子商取引、グローバルソーシング等の様々なイノベーションによってもたらされた。グローバル化により急速に世界が統合され、GDPにおける貿易の割合も高まり、海外直接投資も増えた。国境を越えた技術による統合や政治的な統合が増え、A.T. カーニー開発のグローバル化進展度を測る「グローバリゼーション指数」では各国のポイントも上昇している。貿易障壁が急激に減り、貿易高は、この20年間で300%増えた。国境を越えた取引の資本移動は、1970年には1日100億ドルだったが、2004年には1秒100億ドルとなっている。しかし、90年代の企業は、とにかく活動し、ビジネスを拡大し利益を上げることに重点をおいていたために、リスク管理に対しては甘く、十分な対応がとられていなかった。
ところが、21世紀に入り、統合に基づくリスクに対する懸念が高まった。90年代の終わりにアジア経済危機があり、2001年にはITバブルが弾けた。エンロン、ワールドコム、グローバルクロッシングといった企業スキャンダルが続出し、リスクが急速に顕在化したのである。企業は立派な仕事をしていても倒産の危機があり、労働者にはアウトソーシングで不安感が増している。個人レベルでも、例えば、鳥インフルエンザ、SARS、エイズなどの疫病の恐怖が生まれている。そして、9.11同時多発テロがあった。テロの数は、97年は193件だったが、2004年は2,300件になった。コンピュータウィルスも増え、波及時間も短縮し数分で世界を混乱させることが可能となった。そして安全保障に対する脅威が高まったのである。
統合という枠の中では、かつての意味での保護政策は通用しない。現在の世界は不安定で、均衡が崩れている。そして、創出される機会よりも、相互依存が災いしリスクを抱えることのほうが多い。しかし、均衡の崩れた世界の中でも、国と企業の利益はクロスボーダーの活動から得られる。つまり、リスクを懸念して自国にとどまっていては駄目だということである。世界に関与しなければ成功しない。問題は、それらを成し遂げるために、どうやって明確なビジョンや見識を得るのかということである。それには、私は、グローバル化、人口動態、新しい消費者、天然資源と環境、市民活動と規制という、ビジネス環境を形成する5つの原動力(ドライバー)が鍵になると思っている。
グローバル化
グローバル化は、政治、経済、技術、また人間同士の交流など様々な面を持っている。それぞれの意思決定をする国々の相互関係、世界との関与のあり方が問われる。
世論調査によると、日本を含めた先進国の大半が、グローバル化が本当にいいものかという疑念を持っている。世界的にみると、インドと中国だけが全体として「グローバル化は良いことだ」と肯定的に捉えており、他国はそうではないという結果になっている。
統合は「前に進んでいくもの」と考えがちだが、後退もある。グローバリゼーションを当たり前のものと考えていてはいけない。
人口動態
歴史上、激しい人口増加はほとんど見られなかったが、近代になり爆発的に人口が増えている。寿命も伸びている。ヨーロッパや日本などの先進国では65歳以上の人口は、今後15歳未満の人口を凌いでいくようになると考えられ、また人口増加に停滞が起きている。一方で、サハラ以南のアフリカでは、エイズが原因となり死亡率が増えている。
いま、人口動態は、大きく変わってきている。どのセグメントが、どういう理由で、どう動いているのかということを理解しなければならない。そうすると、どこの地域がポジティブになり、どこがマイナスになるのかがわかる。更に、個々の市場に及ぼされる影響や、様々なサブセグメントにもたらされる変化から、消費者、顧客、あるいは政府にどのような影響があるのかを推測できる。
人口減少に加え、人口の移動もあるだろう。1950年には、世界の人口の約30%が都市住民だったが、2015年には全体の60%が都市へ住むようになる。特に、開発途上国で地方から都市への人口流入がおこり、そこでは若者が増加している。しかし、開発途上国においてはそのような新しい労働力を吸収する十分な市場が形成されていないという問題がある。
非常にドラマチックなシフトが見られるのが雇用の状況である。製造業中心からサービス中心の社会へと移行している。そして、そこには技術が大きく関わっている。技術があることで、労働生産性が上昇し、効率的になった。しかし、一方では、米国では生産性が1%上昇することにより130万人が失業するという状況になっている。
消費パターン
1人当たり年間1万ドル以上消費できる購買力を持った人々の数は、2015年になると、特にインドや中国で増加する。発展途上国で中流階級が増加するのである。したがって、現在の中国への投資の理由は、消費財市場の拡大チャンスを期待したものと理解できる。インドも、政府が改革に成功すれば、市場はもっと大きくなるだろう。
消費パターンのシフトを見てみよう。先進国は、高齢化し、より贅沢になってきている。このような市場では、ヘルスケア、娯楽、レジャー等が消費される。もはや、モノは十分に所有しているため、「経験」を消費することに関心が向いてくる。耐久財の消費は、新興市場に移ってきている。
このような動きの一方で、文化的な違い、アーキタイプを考慮しなくてはならない。米国、英語圏カナダ、フランス語圏カナダの近接する3地域の比較においても明らかである。例えば、時間に対する考え方は、米国では「今すぐ実行」、フランス語圏カナダでは「過去を見る」、英語圏カナダでは「時はゆっくりと過ぎる」である。グローバル化が進んでも、このような文化圏による違いが、国や消費者セグメントで今後も存続していくと考えられる。
天然資源と環境
70年代と現在を比較すると、石油業界は急激に変化した。今の石油業界は、100万倍のコンピュータパワーや新しい代替エネルギー技術を使っている。76年に、中国はエネルギーの輸出国だったが、今は当時と比較して40%も需要が伸び、輸入国に転じている。
水資源については、2050年において人口の58%にしか十分な供給量が得られないと予測されている。
水資源の96%は基本的に農業に使われている。1ポンドのコメ、1ポンドのパンを作るには、1トンの水が必要だということが示されている。車、鉄鋼、半導体等の生産には更に莫大な水資源が必要となる。水の利用は、過去1世紀の間に6倍になっている。経済成長を支えるものとしても、水問題に取り組まなければならない。
気候変動については、平均気温が上昇し、氷河の融解、海面上昇などの兆候も見られる。
ブッシュ政権は京都議定書に反対しているが、米国では、草の根レベル、つまり、庶民たちは、政治家よりも環境問題について良く理解している。35州の131人の市長は、京都議定書に従うという態度をとっている。地方政府は自主的に京都議定書に従うと署名している。これらは、地方が競争力を維持し、競争力ある環境に人々が住み働くために行っている活動である。
市民活動と規制
NGOや消費者が、政府の監視や規制よりも大きなインパクトを持つ活動を行っている例がみられる。消費者の政府への要求が高まる一方で、政府の対応能力が不足してきている。特にデジタルテクノロジー、プライバシー、電子商取引、バイオテクノロジー、遺伝子検査等の複雑で新しい問題においては、より知的で高度な政府の決断力と指導力が必要である。しかし、政府の動きは鈍く、市民は不安感を持つようになっている。
グローバル化という力は、諸刃の刃になりうる。グローバル化を利用してテロ組織は力を行使する。そこには良きにつけ悪しきにつけ行動主義が出てくるが、消費者の企業への要求も高まり、同時に政府に対する要求も高まってくる。企業はグローバル化やテクノロジーを利用して影響力を行使してくる株主、消費者など様々なステークホルダーに対応しなくてはならない。
ワイルドカードを考慮し、備える
正確に世界の2015年について知る必要はない。5つのドライバーを観察し、総合的に何度も調整を重ね、そしてチャンスを見出すことが必要である。脅威にも対処しなければならない。正確なリサーチをして、将来について想像力を働かせる。次に、予測できないことは何か、自分のコントロールできないものや、突然起きること、ワイルドカードについて備えなければならない。ネガティブなものとして、世界的な流行病、中東の不安定化、台湾海峡の問題もある。中国については楽観論が出ているが、それを否定するいくつかの議論も存在している。また、ハッカーの問題がある。しかし、ポジティブな大躍進もありえる。画期的な技術革新によって様々な難題が突然解決されることがある。
世界の均衡と生き残る方法
カレードスコープを見るようにいろいろパターンを変えて、楽観的なシナリオから悲観的なシナリオを作り、世界を見てみる。例えば、2015年の将来について楽観的に捉えれば、先進国が移民労働者の受け入れを積極的に行い、労働力不足を補うようになる。国際貿易、投資、ビジネス環境、技術革新も開放されたものになる。そして、消費者はより豊かになり、特に中産階級が新興市場で増える。そして、より経済や企業の成長の兆しが出てくる、というわけだ。
ウォールストリートのトレーダーの友人に「2015年についてどう思うか」と聞いたところ、彼は「今晩の8時15分(20時15分)のことか」と言った。数時間後のことだと思ったのである。これは、私たちは物事を短期的に見がちで、将来についての理解が難しいことを表している。
自社と世界の均衡を保つためには、やはり、リスクと機会をしっかりと見据える必要がある。「車のサイドミラーに映る物体は、遠くに見えても、実際はすぐそこに近づいている」。しかし、恐れずに、必要なステップをとらなければいけない。世界に関与してチャンスをつかまなければいけない。そして、リスクを(競合よりも上手く)管理しなければいけない。それが、企業が競争に勝ち、長期的に生きていける方法なのである。
(編集・文責 : (株)富士通総研)
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