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行政機関のIT調達見直しの課題と展望

上級研究員 瀧口 樹良

2005年10月

要旨

問題視される行政機関のIT調達の実態

中央官庁が保有する大規模コンピューターシステムの運用経費が、妥当性を欠く契約方法などを見直すことにより、年間に最大で計約950億円も削減できることが、各府省庁別に行われた「刷新可能性調査」で明らかになった(平成17年6月14日の「読売新聞」)。

この「刷新可能性調査」は、過去の支出の妥当性を分析し、今後いかなるシステムを構築すべきかを示すのが目的で、政府が2003年7月に策定した「電子政府構築計画」に盛り込まれている。調査対象は、年間経費が10億円を超え、長年にわたり特定業者との間で随意契約が結ばれてきた16府省庁の計36システムで、調査の実施は、民間のコンサルタント会社など外部の第三者機関に委託して行われた。平成17年3月末に全システムで調査が終了し、各府省庁がまとめた「最終報告書」を総合した結果、上述したような無駄が明らかになったという。

こうした調査結果が明らかとなる以前から、行政機関のIT調達を巡っては、長年の随意契約が高コスト化を招いていると指摘されていた。ソフトウェア開発を伴うIT調達は、多くの商品やサービスとは異なり、発注者と受注者が長期的な共同作業を通じて最終的な成果物を作り上げていく事業であり、複雑な問題を含んでいる。

現在、行政機関によるIT調達の市場規模は、中央政府で年間約1.1兆円、地方自治体で年間約0.7兆円にのぼり、合わせて情報サービス市場の約2割を占めるに至っており、2000年に政府のe-Japan構想が発表されてからは、その市場規模は拡大の方向にあるといわれている。

こうした中、2000年から2001年にかけて、大手ITベンダーによる安値入札が問題となり、その原因として、発注者である行政機関の受注者である大手ITベンダーへの依存や、類似システム開発、属人的能力に頼った業務遂行、実績重視といった行政機関のIT調達における問題点が指摘されている。そこで、政府や地方自治体によるIT調達の見直しが行われ、政府では、EA(Enterprise Architecture)の採用やCIO補佐官の設置が提案され、一部の府省で導入が始まっている。

自治体で取り組まれるIT調達の見直し

かつて自治体は、中央政府に従い、横並びの施策を採ることが多かったが、IT調達の見直しについては、独自に取り組みを進めている自治体も現れている。

例えば、長崎県では、金子知事から「(1)電子県庁に関わる経費(コスト)を下げること、(2)地元企業に参入の機会を与えること」という2つの命題が指示され、それを実行するために、2001年4月に日本総合研究所のSEである島村秀世氏が、情報政策のあり方を管理監督するリーダー的役割を担う立場として招聘された。島村氏は、「小分け分割発注方式」という発注方式を独自に考案し、システム開発を小さな単位に分割することによって、長崎県のソフトウェア企業の大部分を占める地元の中小企業(地場企業)も参入できる方式を提唱して実践している。また開発技術としては、MySQLのDBとPHP言語といったオープンソース・ソフトウェアを用いている。更に、開発工程自体も業務単位に分割され、仕様作成、開発、テスト仕様、テストと4分割して発注をかけている。この結果、2002~2003年度に100件中18件(金額ベースで15.1%)、2004年度に96件中73件(金額ベースで32.7%)で地場企業が直接受注している。

更に、県職員が主体となって仕様書を作成することによって、システム開発に関わる経費が半減していることや、小分け分割することによってリスクが分散・縮小し、プロジェクト管理がほとんど不要となるというメリットも生み出している。

このような長崎県の発注手法は、最新のオープンシステムの開発手法として、極めて合理的な手法といえる。このDBのデータを標準化し、各業務アプリを分割して発注する手法は、大手ITベンダーが子会社等に再委託している手法と同様であり、行政側にそうしたプロジェクトマネジャーが存在していれば、分割発注も可能であることを証明している。また、プロジェクトの最初の段階で画面設計から仕様確定を行うことは、現場ユーザーの要求事項を確定させる極めて合理的なやり方だといえるだろう。もし、こうした手法が全国自治体で採用されるようになると、これまでの発注者(自治体)が受注者(大手ITベンダー)に大きく依存してきた関係も変わる可能性が高い。

課題と展望

こうした取り組みには、無論、多くの課題も存在している。例えば、長崎県では、「小分け分割発注方式」を実現するために、発注者側で仕様書の作成ノウハウやDBの共通化等におけるルール化を、属人的ではない形で定着させていくことが課題になっており、そのためには庁内人事制度(人事配置や人材育成等)の見直しも必要であろう。長崎県では、現在、各業務で共通利用するDBの設計は、島村氏の個人的な役割になっているのが実態である。

また、長崎県では、基幹系システムのダウンサイジング計画が8年計画であることを考えると、現状では、少なくとも数年は島村氏(あるいは島村氏と同様の能力のあるSE)によるリーダーシップが必要とされている。

一方、受注者であるITベンダーにも、こうした発注者の対応を見据えた戦略が求められる。特に大手ITベンダーは、今までのホスト中心のパッケージビジネスに変えて、従来とは異なる新たな開発手法を用いたオープンシステムを前提とした提案が必要となる。これまでのホスト依存の安泰なビジネスモデルから、オープン化、国際標準に打って出る攻めの姿勢と新たなビジネスモデルを構築していくことが必要である。そのためには、効率的な生産性の高いソフトウェア開発手法とフレームワークが求められる。

更に受注者側の「ITゼネコン」と呼ばれる大手ITベンダーを頂点とした多層下請け構造や、大手ITベンダーが公共分野の市場を寡占化している業界の体質を大きく変化させ、新たな発注者と受注者との関係作りの構築が必要といえる。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 行政機関のIT調達見直しの課題と展望 [233 KB]