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地域密着型ソーシャルネットワーキングサイトの可能性

主任研究員 浜屋 敏

2005年10月

要旨

既存の住民参加型サイトの課題

自治体におけるインターネットの活用は、ウェブサイトによる一方的な情報の発信だけではなく、電子掲示板のシステム(BBS)を利用して、住民が自由に発言できるような形態を採用しているところも少なくない。例えば神奈川県藤沢市では、1997年から「市民電子会議室」を運営しており、多くのテーマで会議室が開設されている。また、岡山市では2002年3月から「電子町内会」を運営している。これは、岡山市が市内の町内会にBBSやスケジュール機能などがあるシステムとサーバーを貸与し、町内会が独自にウェブサイトを立ち上げるというもので、2005年7月末時点で49の連合町内会と単位町内会が参加している。

藤沢市や岡山市だけでなく各地でBBSなどを利用した住民参加型のサイトが作られているが、成功しているものばかりではない。書き込まれた住民の意見をどのように行政に反映させるかという体制面での問題以前に、システム自体の課題として以下のような点が指摘されている。

アクティブメンバー及び書き込み数の減少
BBSは特定のテーマに基づいて設置される場合が多いため、そのテーマに関心のある住民の書き込みは多いが、関心のあるテーマがなければ書き込みもできない。また、BBSで発言するためにはある程度他の発言を読んで「話の筋」を把握する必要があり、「新参者」は気楽に発言できない場合も多い。

アクセス数の減少
書き込みが増えなければ魅力ある情報が少なくなり、アクセス数も増えない。

無責任な発言の増加
気軽に書き込みできるように匿名やニックネームでの発言を許した場合、誹謗中傷など悪意の書き込みがなされる場合があり、管理者はその対応に追われることになる。

住民参加型サイトが抱えるこのようなシステム上の課題の解決に貢献するツールとして期待されているのが、ソーシャル・ネットワーキング・サイト(SNS)である。

「ごろっとやっちろ」の取り組み

熊本県八代市(人口約10万5,000人)では、2003年4月、公式サイトとは別に、地域密着型のポータルサイト「ごろっとやっちろ」(「やっちろ」は八代の愛称)をオープンした。このサイトには、当初から会員同士が趣味の「サークル」を作ったり、掲示板で意見や情報を交換したりする機能があったが、書き込みの減少など上述したような課題が深刻になってきた。そこで、2004年10月にサイトのリニューアルを行った際に追加したのが、自分のプロフィールを記入したり、友だちにリンクを張ることのできるSNSの機能である。また、mixi(ミクシィ)等の一般のSNSと同じように、会員が日記を書くことのできるブログの機能も付け加え、以前からあった写真をアップロードする機能や地図情報との連携機能、会員が自分でトップページをカスタマイズできる機能などと合わせれば、機能の豊富さではmixi等を上回っている。

「ごろっとやっちろ」を開発・運営している八代市行政システム課の担当者によれば、SNSとブログの機能を取り入れることによって、アクセス数もアクティブメンバーの数も以前の2倍以上に増加したという。それは、SNSの招待機能を使って新規の会員を勧誘しやすくなったこと、BBSの「話の筋」を気にせず自分が好きなように日記に書き込めばよいこと、共通の地元の話題が多い友だちの日記を読むことでコメントしやすくなったこと、プロフィール機能で匿名性が弱まって無責任な書き込みもほとんどないこと、といった効果があったからだと考えられている。

このシステムは若手の職員がひとりで開発したもので、サーバーも公式サイトのものを間借りしており、開発・運用には当該職員の人件費以外はほとんど費用がかかっていない。Free BSD, PostgreSQL, PHPなどのフリーソフトで開発されたプログラムはオープンソースとしてウェブサイトでも公開されており、他の自治体でも同じようなSNSが構築され、複数の地域密着型のSNSが横に展開していくこと(SNS on SNS)が目標だという。開発されたシステムの内容だけでなく、開発方法まで含めて、「ごろっとやっちろ」は非常にユニークなシステムであると言える。

もちろん、「ごろっとやっちろ」にも課題がある。機能が豊富であるために、特に初心者にとっては逆に使いづらいところがあるかもしれない。また、会員数が増えればサーバーの負荷も運営上の負担も大きくなる。更に、SNSは市民同士の交流にはなるかもしれないが、行政に対する市民の参画を促すツールとして活用するには、BBSなど他のツールとの共用・使い分けや運用・体制面での工夫が必要だろう。現状では「ごろっとやっちろ」は若手職員が中心となって開発・運営されており、電子自治体における意義や位置づけといった議論や、具体的な効果の測定、費用対効果の検証は行われていない。しかし、今後注目度が高まり、システムの負担も増えれば、効果の可視化などより「公式化」されたプロセスの中に組み込まれる可能性がある。その場合、現在の「ごろっとやっちろ」のユニークさの源となっている柔軟性を維持できるかどうかということが、大きな課題となるだろう。

総務省でもインターネットの匿名性を低めるためのツールとしてブログやSNSが注目されており、今年の12月頃から長岡市と東京都千代田区でSNSコミュニティの実証実験が行われると報道されている。地域密着型SNSの先駆的な事例である「ごろっとやっちろ」は、地域社会におけるITの活用方法を考えるためのケースとして注目に値するものである。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 地域密着型ソーシャルネットワーキングサイトの可能性 [225 KB]