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CSRバブルの後に何が来るのか

サステナビリティ社代表
ジョン・エルキントン

2005年7月

要旨

CSRの議論は失われては困るもので、バブルに終わってはいけない。企業の対応はPRから戦略的な形に移行しており、財務面、環境面に続き、社会面での取り組みも進んできたが、より広い意味での経済面での取り組みはこれからである。社会からの圧力は時代と共に、政策主導から市場主導へ、環境からグローバル化へと変化してきた。企業のCSRの取り組みは、我々が直面している問題に対処するには不十分であり、政府の役割も重要である。企業がCSRを進めて価値を高めるためには、バランスシート、取締役会、ブランド、ビジネスモデルについて留意することが重要であり、いくつかの先行的な取り組みが見られる。

企業責任への理解の深化

なぜ、CSRバブルを考慮しなければならないか。現在、日本に限らず、CSRに関する新しい仕事のタイトルや部署の設置、報告書の発行、会議の開催、コンサルタント会社の出現など様々な動きがある。これらは心躍るものではあるものの、少し動きが早すぎるのではないかという懸念がある。皆が熱中していたものが、急に関心を失われてしまうことはよくある。しかし、今、議論していることは失われては困ることである。

最近のCSRに関する企業の対応をよく見ると、PRを中心としたものから、より戦略的な形に移行しているように思える。競争優位性をつけていこうということである。

「企業市民」と「企業責任」は区別しなければならない。例えば、アメリカで「企業市民」という言葉の使われ方は、従来のビジネスに対するものと変わらない。必要であれば競合他社を潰してしまう。そして、お金を作って、例えば、財団を作って評判を上げればいい。マイクロソフトとかニューエコノミーの企業は、こういった形で事業を進めている。

一方、「企業責任」という言葉はアメリカの企業改革法が出てから、とても範囲を狭めてしまった。お金の管理を任せていい企業かどうかを見るというように、財務の整合性に特化しすぎている。しかし、「企業市民」より「企業責任」という言葉のほうがよい。特に、「社会」という言葉が入ったCSRよりも、「企業責任(CR)」と言ったほうが多くの人に受け入れられやすい。

人権の問題は、この数年間、非常に早く展開している。しかし、多くのCSRの定義では、まだ、中心的ではない。昔は、人権問題と言えば、拷問や政治的な濫用が中心だったが、最近は、アクセスの問題が重視されている。途上国や、豊かな国でも貧しい人達から、エイズ、結核、マラリアなどへの薬にアクセスしたい、手頃なエネルギーにアクセスしたい、正常な水にアクセスをしたい、しかも、できるだけ安く、もしくは無料で、という要求が、会社に寄せられてくる。しかし、我々は、どれくらいのお金をこれらの技術の開発に使うか、製品やサービス開発に使うかということを気にしていない。今後、これらの問題は更に重要となるだろう。

持続可能な開発は、非常に複雑な問題である。1994年に、私は、ビジネスの人たちに分かりやすい表現として、トリプル・ボトムラインという言葉を作った。石油会社のシェルでは、環境問題を欧州で起こしたり、人権問題をナイジェリアで起こしたりしたことから、環境、社会、そして経済的な側面をビジネスの原則に盛り込み、経営システムや日常的なビジネスの運営に入れ込もうとしてきた。しかし、今年の初めに、石油とガスの埋蔵量を帳簿に偽って記載したことで、CFOや他の幹部が何人も辞任に追い込まれた。このように、CSRとは、単に、社会、環境だけではなく、より幅の広い、経済的、財務的な問題でもあるということが分かる。

今、我々はどこにいるのだろう。企業の学習曲線を考えると、最も上位にあるのが財務の側面である。非常に成功を収めた企業は、財務の問題に関して上手に対処している。次に、環境の側面でも、学習曲線をだいぶ上がってきている。社会的な側面は、多くの企業にとってより難しい問題であるが、学習曲線を少しずつ上がってきている。最後は、企業の財務的な報告や会計よりも、もっと幅の広い意味での経済的な影響、例えば、政府に対する税金の動きなどである。しかし、この点について、企業から報告されることはあまりない。

社会からの圧力の変化と新たな課題

政府・企業に対する社会からの圧力にはこれまで3つの大きな波があった。1968年から72年にピークとなった最初の波は、主に政策決定者が対象であった。その後、環境省や環境大臣ができ、新たな規制が作られた。当時のビジネスの中心課題は、どうやって防御するか、どうやって必要なことだけに従うかであった。

2番目の1988年から91年の間にピークに達した波は、非常に速く、強く企業に押し寄せてきた。新しい問題、例えば、オゾン層の減少であるとか、突然、スーパーマーケットが、CFCの入ったエアゾールはダメだとか、紙の塩素はダメだとか、もしくは電池の水銀はダメだとか言いだした。企業は、これまで、新しい法律や規制のことで政府とやりとりしていたが、急に市場が相手になったわけである。

第3の波は、前の波よりも小さいものの、1999年、シアトルでのWTOに対する、グローバル化に対する反対運動から起こり、いろいろな国際機関、多国籍企業が巻き込まれた。この時の中心課題は、環境だけではなく、CSRのアジェンダに取り込まれる様々な問題、例えば、グローバル化、グローバルガバナンスやコーポレートガバナンスが取り上げられた。

昨年、国連と共同で、今、企業が取り組んでいるCSRのプログラムが十分なのかということを調べた。その答えは「ノー」であった。今のCSRの取り組みというのは、我々が直面している問題、例えば、エイズの問題などに対処するには不十分である。

政府の役割も重要である。中国には一人っ子政策があるが、肥満の問題につながっているとか、甘やかしにつながっているという問題がある。肥満の問題は、ヨーロッパやアメリカでも大きな問題である。汚職の問題も重要性を増している。先日、私が南アフリカにいた時、会う予定の人が汚職問題で前夜に逮捕されてしまった。もうひとつの重要な問題が、気候変動であり、これらの領域全てで政府が中心的な役割を果たすべきだと思う。

中国の問題について、多くの人々が、世界市場に中国が入ってくることによって、環境、社会的、人権的な基準を下げてしまうのではないかと言っている。私は、そうなるとは限らないと思っている。例えば、市民が、大気の質などの問題に意識を高めている。エネルギー価格の上昇によって、中国の企業がグローバル市場に対して及ぼすエネルギーや原材料に対するインパクトは大きいものである。

企業価値の4つのB

CSRを4つのポイントに絞って考えてみたい。これらは、英語で言えば全てBで始まる言葉で、バランスシート(Balance Sheets)、取締役会(Boards)、ブランド(Brands)、ビジネスモデル(Business Models)である。

まず、会計、保証なども含めたバランスシートについては、次のようなことがいえる。企業の報告書に関して、世界各地で、CSRのパフォーマンスが良好な会社のランキングを調べたところ、トップ10は、ヒューレット・パッカードを除いて、アメリカ以外の企業であった。日本の会社は、4社が、上位100社の中に入っている。これは、悪い数字ではないと思うが、同時に、日本企業のレポーティング担当者が財務や環境にばかり目を向けていて、社会的な側面に目をあまり向けていないことが、高い評価をランキングとして得られない背景にある。

更に、百科事典のような、分厚い報告書になる傾向が強まっていて、普通のユーザーにとっては扱いにくいものになっている。もう少し簡潔にする必要がある。例えば、扱いやすいサイズにすると同時に、統計や新しい情報を、より工夫して、環境、社会なども含めてまとめる必要がある。会社が、財務、社会、環境をひとつの報告書にまとめた後に、それらの情報を更に主要な読者層に向けて、分かりやすくまとめるというのがよい取り組みだと思う。

2つ目の領域は、取締役会、トップマネジメントの役割の世界的な拡大である。私は、環境や持続可能性について30年以上関わっているが、そのうち20年は企業と一緒に動いてきた。最初は、自己防衛的な手段を考える企業が多かったので、例えば、法務部の人が対応してきた。その後、徐々に、環境部門、そして、プロジェクト・プランニング、新製品開発、マーケティングの担当者へと、窓口が広がった。現在、企業の役員には、私達とやりとりをした人が少なくとも1名は入っていることが珍しくなくなってきた。これからは、しかるべき人が取締役になっていて、きちんとしたCSRを取り入れる流れができあがっているかどうかを問わなければならない。今後、窓口として対応して欲しい人々は、例えば、最高財務責任者や、ブランド管理担当者などである。また、大企業が全てをできるわけではないので、新しいタイプのビジネス、つまり、ベンチャーキャピタルや起業家などにも関わってもらうことが必要である。

毎年、ダボスで開催される世界経済フォーラムでは、トップマネジメントが一堂に会して、世界の優先課題は何であるべきか討議される。今年は、クリントン元大統領、ビル・ゲイツ会長、南アフリカのムベキ大統領、ブレア首相、バンドU2のボノ、ナイジェリアのオバサンジョ大統領が参加していた。彼らのような有名人が、このような正式な場においても主張しているというのが最近の傾向である。今年の参加者700名の85%が政策決定者、企業関係者であったが、彼らが優先課題として挙げたのは、貧困、気候変動、世界レベルのガバナンスであった。従来の優先課題とは異なるもので、主催者には驚きであった。

3つ目のブランドに関しては、消費者、顧客、投資家とどのようにコミュニケーションを図っていくかが問題である。根底にあるのは、企業の社会的責任、または長期的な持続可能性を、普通の人から見て、おもしろいもの、格好いいものにするにはどうしたらいいのかという、非常に大きな課題である。多くのブランドマネージャーは、CSRをそれほど大きな仕事上の課題とは捉えていない傾向があるようだ。

例えば、気候変動に関する戦略ポジションでは、トヨタは良好な地位にある。私は、最近、サンフランシスコにいたが、トヨタのハイブリッド車プリウスが数多く走っていることに大変驚いた。トヨタは、戦略的に複数の都市に向けてプリウスの生産を集中しているという。トヨタのブランド、プリウスのブランドが非常に強力な形で表れている。多くの業種、多くの企業が真似しなければならない例である。

最後に、ビジネスモデルの話では、社会の中で、経済の中で、どのように富が蓄積されるのか、また、どのような変化を業界のDNAが遂げられるのか、会社が遂げられるのかが考えるポイントになる。ニューエコノミー台頭以来、かつてよりもビジネスモデルが話題となるようになった。しかし、社内のCSR担当者にビジネスモデルを描いてもらうように頼んでも、できない人が結構多い。これは、大きな懸念として取り上げられるべきだ。

ビジネスモデルは、従来のモデルを破壊したときに注目される。ビジネスモデルと社会の関係は、現在の重要な議論の一つである。マイクロソフトに対して若干不安を感じている人びとは、マイクロソフトのビジネスモデルがあまりにも強力だという点を懸念している。ウォールマートについても同様の議論がある。

一方、面白い動きもある。イギリスでは、グリーンピースが電力業界と提携して、再生可能な電力を提供し始めた。普通の電力料金と値段は変わらないため、短い間にその市場の25%を支配するまでになった。欧州連合で電気電子機器廃棄物リサイクル指令というものが導入された。ビジネスとしては、ただ単に廃棄しているのでは失敗するということである。

財務的な観点から、金融界でビジネスモデルが持続可能かどうか検討し始めているものもある。米国のゴア前副大統領は、ゴールドマンサックスの元CEOのデイビッド・ブラッド氏と、投資のマネジメントファンドを設立した。この投資マネジメントは、パフォーマンスが悪い企業を排除するだけではなく、新企業が新しい市場に参入する際にどうあるべきかについても考えている。資金源も豊富だと聞いているので、この取り組みが成功すれば、かなり強いメッセージを訴えていけるだろう。

(編集・文責 : (株)富士通総研)

全文はPDFファイルをご参照ください。

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