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農政改革の進展と課題

主任研究員 生田 孝史

2005年7月

要旨

5年ぶりの基本計画見直し

去る3月25日に新しい食料・農業・農村基本計画(以下、基本計画)が閣議決定された。基本計画は、食料・農業・農村に関する各種施策の基本として2000年3月に初めて定められたもので、5年ぶりの見直しとなる。この5年間に、農業を取り巻く環境は大きく変化した。食の安全性や食生活に対する国民の関心が高まり、WTOやFTAの農業交渉などグローバル化が進展する一方、農業の構造改革は立ち遅れ、食料自給率(熱量ベース)も40%と低いままである。また、耕作放棄地の増加は、農村社会のあり方や国土・自然環境の保全に深刻な影響を及ぼしている。

新たな基本計画は、このような日本農業の存立についての強い危機感を背景として策定されている。農水省では、10年後の望ましい農業構造の展望として、総農家数210~250万戸のうち、「効率的かつ安定的な農業経営」を行う家族農業経営を33~37万戸、法人・集落経営を3~5万戸と見込んでいる。

基本計画では、これら40万戸程度の「効率的かつ安定的な農業経営」を育成するために、意欲と能力のある「担い手」を育成・確保し、「担い手」に対して重点的に助成を行うことが施策の柱となっている。従来のバラマキ型助成から、選択・集中型の支援へと転換し、農業再生を図るものである。

新規参入規制緩和と運営ノウハウの必要性

基本計画には、農地制度の見直しが盛り込まれる。具体的には、農地の貸付信託や農地版定期借地権などによる「担い手」への農地の利用集積や、リース方式による株式会社の農業への新規参入などが進められることとなる。

株式会社の新規参入規制の緩和は、2003年から構造改革特区で実施されていた方式を全国展開するというものである。産業界からは農地取得解禁の期待もあったが、国土・自然環境保全の観点からは継続的な農業実施が確保される必要があり、リース方式の導入は妥当であろう。

民間企業による農業への新規参入ニーズは高い。これまでも、農業生産法人としての参入という制約がありながら、多くの企業が農業分野に参入してきた。最近では、JFEスチールやトヨタなどの異業種に加えて、ワタミフードサービス、モスフードなど、農産物との関連が強い業種が、サプライチェーン管理も含めて、参入を図る例が目立つ。また、今年2月にはパソナが、大手町の本社ビル地下に農業研修施設を開業し、農業分野への人材派遣に着手した。新たな事業機会創出の動きが出ている。

ただし、要件緩和さえすれば、新規参入が進み、農業の活性化が進むというほど単純なものではない。オムロン、JT、ユニクロなど、農業分野に参入したものの、数年で撤退したケースもある。撤退理由の多くは、生産管理ノウハウや需給調整・在庫管理ノウハウの不足によるものである。

持続的な農業の実施という観点からは、安易な参入・撤退は極力回避されるべきである。新規参入側には、資本力と人材供給力の点で期待が大きいが、運営ノウハウの獲得と長期的な視野での投資判断が求められる。

直接支払い要件の環境規範がカギ

「担い手」に対する重点的な助成は、WTOルールに則り、従来の品目別ではなく、生産者の経営全体に着目した直接支払い方式で行われる。対象となる「担い手」は、専業の認定農業者に加えて、一定要件を満たす集落営農が認められ、零細・兼業農家にも助成対象となる道が開かれた。「担い手」の要件設定は今年秋に先送りされたが、内容次第では、バラマキ型助成が復活しないとも限らない。

要件のカギを握るのが、生産者の環境規範である。基本計画では、生産者が環境保全に向けて最低限取り組むべき規範を策定し、直接支払いの要件とするとされている。これは環境直接支払いと呼ばれ、欧州や韓国などでは、環境保全型農業の育成策として導入されているものである。

環境保全型農業の実施は、地域環境の保全だけでなく、安全・安心な農産物への消費者ニーズに対応する高付加価値商品の提供という目的からも、多くの国で積極的に取り組まれている。我が国でも、環境直接支払いが導入されること自体は、高く評価してよい。

しかし、問題となるのが、環境規範のレベルである。零細・兼業農家の救済(助成対象への取り込み)を目的に規範のレベルが低く設定され、より高レベルな環境保全型農業に対するインセンティブがなければ、非効率なバラマキ型助成が継続することになる。我が国農業の競争力向上を考えた場合、単なる規模拡大・生産性向上には限界があり、農産物の高付加価値化を図る以外ない。すなわち、環境規範レベルが低ければ、高付加価値な環境保全型農産物の供給力拡大のインセンティブにもつながらず、農業の競争力強化に寄与しない。

今回の農政改革では、当初、重要な政策課題の一つに掲げられていた資源保全・環境施策は不明確なままに終わった。「環境」を単なる助成対象拡大のキーワードに用いるのではなく、我が国農業の将来像における高付加価値な環境保全型農業の位置付けを明確にした上で、総合的な制度設計を行うことが必要である。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 農政改革の進展と課題 [197 KB]