インドの外国直接投資政策の変化と外資進出状況
主任研究員 金 堅敏
2005年7月
要旨
昨今、インド経済に対する世界の関心は、もっぱらソフト産業の急成長に焦点を当てたものである。実際、インド経済の底上げは、ソフトを除くインド産業の裾野が広げられるかどうかにかかっている。産業の育成には外資企業の役割が欠かせない。1980年代はじめから外国直接投資をインフラ整備や地場産業育成に活用した中国は、外資禁止から外資誘致へ政策を変更したが、インドは外資誘致と外資規制の間で揺れ動いていた。
インド外資政策の変化
1947年独立直後、輸入代替を目的とするインドの外資政策(FDI政策)は、機械製造分野の外資導入に重点を置いた。1960年代末ごろになると、地場製造業がある程度育成されたこと、地場企業経営者が成長したこと、外国への送金(FDIのための配当金、利益金、ロイヤリティ・技術費など)が急増したことなどのために、FDIへの制限政策(技術移転の禁止、外資シェアを40%に制限、参入分野の制限等)が取られた。1980年代に入ると、産業近代化のため、外資企業に対し資本財や技術の輸入が許可されるようになった。輸出促進に対する外資企業への期待も高まったため、特に100%輸出の外資企業は、「外国為替規制法」によって規定された外資出資規制を免除された。
1991年7月に貿易、投資、金融セクターを自由化する「新産業政策」が発表された。鉱業、銀行、保険、通信、港湾・道路・高速道路の建設と管理、航空輸送、国防設備製造などの新しい分野が出資比率規制を残して外資に開放された。また、1992年には外国機関投資家に資本市場が開放された。サービス分野のほとんどには外資出資規制が残っているが、大部分の製造業は、外資シェア26%までの国防設備や24%までの小規模産業を除き、次第に100%まで外資企業が許可されるようになった。例えば、銀行は49%、電気通信は49%、インターネットサービスは74%の外資規制が存在しているが、自動車製造については2002年3月から、外資出資規制が撤廃された。現在では、ネガティブ・リスト方式による自動認可制度を取っている。つまり、ネガティブ・リストにより外国直接投資が禁止・規制されている業種・形態、上限出資比率がある業種、外国投資促進委員会(FIPB)の個別認可が必要な業種などが規定されている。
近年、流通分野の未開放や保険・銀行・民間航空・電気通信分野の出資規制について、海外からの批判が強まっていることに対して、インド政府は、保険・銀行・民間航空・電気通信4分野の出資比率引上げ等の規制緩和策を検討しはじめている。また、小売分野では、食料品関連に限って外資参入を解禁する方針を固めた。外資導入を国内経済改革や産業育成に活かしたいインド政府の戦略が鮮明になってきている。
これまでインドは、外資企業に現地部品調達等に対するローカル・コンテンツ規制や、輸出要求、外貨バランス要求などのパフォーマンス規制を行った。WTOメンバー国であるインドは、2000年1月までにこれらの規制を撤廃し、WTO貿易関連投資措置(TRIMs)協定と整合的なFDI政策体系を有するようになった。ただ、インド政府はブラジルとともに、発展途上国における高付加価値産業の育成、技術移転と自主開発の促進、競争促進や制限的商慣習の是正を図るために、投資規制措置やパフォーマンス要求ができるようTRIMs協定の改正を要求している。その理由は、ローカル・コンテンツ規制やパフォーマンス要求がFDI効果を高めるために必要であり、これらの投資規制を制限しているWTOのTRIMs協定は途上国の政策自由度を阻害しているというものである。
FDI流入状況
1990年代の外資規制改革は、グローバルなFDI規模の拡大と相まって、インドへのFDI流入拡大をもたらした。フローベースでのFDI流入は、1991年の1.6億ドルから97年の36.1億ドルにまで拡大した。その後景気後退によりFDI流入は低下したが、2001年には再び34億ドルにまで回復し、2003年は43億ドルに達した。
国連は、2004年中のインドのFDI流入は60億ドルまで急増すると見ているが、インド政府は、04年4月~05年3月には150億ドルになると見込んでいる。中国の606億ドル(04年)と比べれば小さいが、外資企業による収益の再投資の奨励等を通じて、インドのFDI誘致目標は、明らかに中国を意識したものとなっている。
分野別では、農業・鉱業・石油業等の資源関連へのFDI流入(ストック、以下同)は、1980年の9%から97年の2%にまで低下した。これまで主要な外資投資分野である製造業は、1980年の87%から97年の48%に低下した。機械加工、化学、電気機器、輸送機器が外国投資の重点であった。他方、90年代を通じてサービス業やインフラ関係がFDI流入の重要な受入分野となった。その割合は、80年の4.1%から97年の49.8%まで急上昇した。サービス業への投資急増は90年代の自由化政策の結果でもあった。1991年~2000年の間の認可ベースで見ると、電気通信が61%でトップ、次に金融と銀行サービスが14.1%、ホテル・観光が6.2%の順であった。保険・銀行・民間航空・電気通信4分野の出資比率引上げや小売業の市場開放が実現されれば、サービス分野の比率は一層高まるだろう。
FDIを地域別で見ると、かつて重要な位置を占めていた欧州主要国のシェアは、1980年代の69%から90年の66%へ、更に97年には37%へ低下した。他方、米国のシェアは、1992年の18.6%から97年の30%前後(tax haven経由を含む)へと急増した。日本からの投資は、90年代一貫して5.5%で推移していた。日系企業の産業技術優位性から見れば慎重な姿勢が伺える。インドの国内産業育成や輸出拡大戦略において日本企業に対する期待は大きい。日系企業もインドの外資規制緩和のチャンスを生かすべきである。
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