郵便事業の競争促進 - 郵便ポスト・収集ネットワークの分離開放
主任研究員 木村 達也
2005年7月
要旨
民営化議論で取り上げられていない郵便事業の競争促進
2007年4月からの郵政公社の民営化に向けた議論が進み、05年4月27日には郵政民営化関連法案の閣議決定が行われ、国会に提出された。こうした議論のなか、ほとんど取り上げられていない論点がある。それは、郵便事業の競争促進、効率化に関する論点である。すなわち競争を促進し、資源配分を効率化させるとともに、多様なサービスの提供を図り利用者の選択肢を増大させることにより、国民厚生の向上を図るという議論が欠落しているのである。
郵便事業のなかで、売上高の8割強を占める信書1)便事業は、郵政事業が03年4月1日に公社化されるのと同時に、民間事業者の参入が認められた。参入は2つの事業類型、すなわちすべての信書を扱うことができる全国全面参入型の「一般信書便事業」と、一定の条件に該当する信書を扱うことができる特定サービス型の「特定信書便事業」で可能になった。これらのうち特定信書便事業には参入が進んでいるが、一般信書便事業については、最有力とみられていたヤマト運輸が参入を見送り、現在まで参入事業者はない。このように一般信書便事業に参入が進まない背景には、事業の許認可に総務省の裁量の余地が大きく、またユニバーサルサービスの提供などのために多くの条件が課されていることがある
1)信書とは、特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。
郵政民営化に際し開放の必要があるポストと信書等の収集ネットワーク
新規参入への条件のうち、特に参入への障害となっているとみられるものは、(1)人口基準により全国にまんべんなく設置することが義務付けられ、総数が10万本以上必要とされる信書便差出箱(ポスト)の設置、(2)業務の委託、協定・契約は、特別な事情がある場合のみ認可されること - である。後者が参入への大きな障害となっているのは、主要宅配便事業者の全国ネットワークの状況をみると、単独で全国の配送ネットワークを持つ民間事業者がないという状況による。
これらの参入への障害のうち、ポストの設置義務は、郵政公社のポストを含む配送網の開放で撤廃できる。なぜなら、ポストを含む郵政公社の信書等の配送網は、ほとんどが公社化前の国営事業のもとで形成された資産であるためである。この性格から配送網は、民営化後における郵政公社の郵便事業にだけ使用される性格のものではなく、国民厚生の向上のために使用されるべきものである。したがって郵政公社の配送網は、ユニバーサルサービスを担保しながら、競争促進により国民の利便性などを向上させるため、新規に参入する事業者に開放する必要がある。ただ公社のもとでは、信書等の配送網は独立した法人の郵政公社が運用しており、国の判断で直ちに開放することは難しい。しかし民営化への移行時は、制度的制約がなく最も開放が容易である。また民営化後は、国営事業で形成した資産価値相当が、株式の無償交付の形で国に引き渡されるとみられ、公社の場合に比べ開放が難しくなる。したがって配送網の開放は、実態的に民営化への移行時に行うのが適当とみられる。
郵政公社の配送網の開放は、すべてではなく、事業の効率化とサービス向上の促進のため、ポスト及びポストからの信書等の収集網(ポスト及び収集した信書等が集積される地域区分局)のみを開放することが望ましい。これは郵政公社の配送網を多く使うほど、新規参入事業者のネットワークの運用効率化、サービス差別化の余地が狭められるとみられるからである。開放部分は、すべての一般信書便事業者が利用可能な国有資産とし、運用は民間事業者に4~5年毎の一般競争入札により委託する。
必要な委託、協定・契約への規制緩和など
業務の委託、協定・契約が特別な事情がある場合のみ認可されることは、すべての宅配便事業者が委託を行っていることから、一般信書便事業への参入において大きな障壁となっている。新規参入する事業者にこのような規制を課す一方で、郵政公社は事前に認可された基準により、自由に委託を行うことができ、実際に幹線輸送やポストからの信書等の収集を、民間事業者に委託している。また郵政公社の信書を含む郵便物の運送について、総務大臣からの要求がある場合、鉄道事業者、航空運送事業者、特別積合せ貨物自動車運送事業者などの運送事業者は、必要な行為を行わなければならないと法に定められている。このように業務の委託、協定・契約が特別な事情がある場合のみ認可されるという規制は不公平であり、根拠が薄弱なものと考えられる。したがって、郵政公社に認可されている委託基準と同様な内容で、参入事業者が業務の委託、協定・契約を行う場合の基準を総務大臣が定め、この基準により委託、協定・契約は自由に行えるようにすべきである。また複数の事業者が委託、協定・契約により、全国ネットワークを構築し一般信書便事業に参入を図る際には、単一事業者と同様な扱いで許可が行われる制度変更も必要である。
以上みた参入障壁以外にも、規制官庁による裁量の余地の大きさは、規制内容の変更による事業リスクを高くし、事業者の参入を抑制する。実際に最有力とみられていたヤマト運輸が、参入を見送った主な理由は、事業の許認可に関する総務省の裁量の大きさである。したがって、規制を見直し撤廃すること、見直し後も必要な規制は法に定め総務省の裁量の余地を縮小すること、が必要である。
更に信書と代替的な携帯電話やインターネット等の発達から信書のユニバーサルサービスの条件を見直し、1週間に6日以上の配達が必要といった条件の緩和も必要とみられる。
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