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激動世界の中の日本

メリルリンチ日本証券株式会社  チーフエコノミスト  イェスパー・コール

2005年4月

要旨

激動世界の中の日本を考えると、「構造」と「循環」の両面で問題として浮上してくる。持合い株の解消やリストラ、バブルで膨張した債務の返済を経て、日本経済は好転してきている。しかし、付加価値をつけ知的財産という国際競争力を持たなければ、日本が三等国になるリスクは存在する。

循環的ではなく、構造的な調整を続けてゆくことが必要であるだろう。

「K : 構造」と「J : 循環」について

激動世界の中の日本、21世紀の世界について考えていくと、“K”と“J”が問題となる。“K”は構造“J”は循環である。

2年前まで、世界経済の中で日本だけが厳しい構造問題を抱えていた。これが、1年半前から少し変わった。米国経済に問題が出てきたほか、ヨーロッパにおいてもドイツの西東の統合はうまくいったが、ヨーロッパ統合後のプラス効果は出なかった。ヨーロッパ各国経済にも、いろいろ構造的な問題があるのではないかという気がする。したがって、世界的に見ると日本は相対的に良く見えるようになったのかもしれない。

根本的な構造問題は、需給関係で説明できるのではないかと思っている。現在、全世界で供給サイドから回復が起こっている。その原動力はどこにあるかというと、第一に、冷戦後の構造調整である。冷戦は終わったがその構造調整はまだまだ終わってはいない。第二に、世界のサービス部門におけるグローバル化である。第三は、ITという第3次産業革命が非常に大きな影響力を持っているということである。第1次の産業革命と第2次のロボットが与える影響は、ほぼ製造業に対してのみであった。しかし、IT革命は製造業だけではなく、非製造業にも直接影響を与える。これは、今後何年にもわたって続く世界の構造的な調整なのではないか。

循環面はどうだろうか。OECDが毎月発表している世界経済の先行指数で見ると、2004年の5~6月における景気の山を越えて、循環的には世界経済は低下する局面に入っている。日本は今、その循環的な低下局面において、国内の構造的な調整については、何とか目途が立つようになったのではないかと思っている。

何が変わったかについては、3つの大事なポイントがある。1つ目は、政局の安定である。90年代には、内閣が頻繁に変わるということがあった。これは、企業や投資家からみると信頼感がない。現在は、政府に対する信頼に加え、コンセンサスの形成や、政治的妥協が行われている。2つ目は、「やらないですませてきたこと」が、「どうしてもやるしかない」ということになった。アジア諸国との競争が、単なる循環的な競争ではなく、構造的な競争だということである。かつて、日本企業は韓国企業をあまり競争相手として認識していなかったが、今やサムソンの設備投資は日本の大手5社を超える。これは、日本の経営者や企業に対して、もっと積極的に付加価値や生産性のある設備投資あるいは人材投資をやるしかない、というメッセージを送っている。

3つ目は、市場パワーである。日本のMBOsやTOBsを見ていると、日本経済はかなり経済自由主義になってきたのではないかと個人的には思っている。

輸出依存の成長

2002~2004年の2年間で、日本の名目GDPはほぼ6兆円、消費は2.6兆円伸びた。賃金はマイナスになったが消費はやや拡大している。設備投資は7兆円増、輸出は9.8兆円もの伸びである。総体的にみると、2年間の回復はほぼ輸出に依存している。80年代を90年代と比較してみると、ひとつだけ違う点がある。過去の輸出回復は、ほぼ米国向けの輸出回復であったことである。自動車や自動車部品がだいたい6割を占めていた。今回の回復は、8割が香港経由を含めた中国向けである。中国向けの輸出は波及効果が大きい。この結果、中小企業、地方経済に12年ぶりにやや回復の傾向が出た。先進国の中では日本だけが中国と並んで貿易黒字である。中国経済はまだ伸びる。

私は海外の機関投資家と「日本は何が変わったか」をよく議論するが、まず挙げられるのは持合い株の解消である。90年代まで、日本の時価総額の約半分は持合いであったが、今は2割しかない。これは構造的な調整である。しかし、これ以上の解消は無理だろう。

もうひとつは、リストラ効果である。その結果、日本の大手輸出関連産業である自動車とか電機機械において収益が伸び、それが成長を牽引して裾野産業へ広がっている。

最後のポイントは、バランスシートリセッションが終了したということである。バブル経済で膨張した債務を返済し終わりつつある。

収益を人材への投資へ

これからは、収益を設備投資と人材への投資に向けてゆくべきである。特に人材への投資は極めて重要である。これにはパラドックスがある。例えば、雇用統計で見ると、日本の最近の新規求人数は、バブルの水準を超え、過去最高である。毎月70万人の需要があるが、実際に雇用するのは3万人しかない。

資本と労働の力関係について過去のトレンドで見ると、企業収益が底を打った時には、雇用者所得はだいたい増加しているが、最近はマイナスとなっており、雇用者にとっては厳しいものとなっている。これは、構造的な調整が常に大事だということである。

また、「受動的な恩恵」として団塊世代の引退が挙げられる。団塊世代の賃金ベースは比較的に高い。第2次ベビーブーマーの雇用拡大はあるが、絶対額で見ると賃金は下がる。

日本銀行の資金循環データでみると、98年には、日本の家計部門には、毎四半期、40兆円近く貯蓄があった。しかし現在はマイナスに転じている。所得は毎年下がっているが、生活水準を維持したい消費者の行動が貯蓄率を低下させている。家計はネットで資金の借り手に転じており、「新たな信用サイクル」という意味で非常に重要である。

もうひとつは、雇用面での競争が非常に激しくなったことである。賃金レベルで見ると、上位10%と下位の10%との格差は、80年代、90年代と比較して徐々に拡大している。

今、日本のユニット・レイバー・コストはマイナス6%、米国では最近はプラス1%である。したがって購買力平価からみると、7%の円高はおかしくはない。米国は、双子の赤字ではなく、三つ子の赤字である。財政、国際収支、競争力の3つである。実は、ドイツは現在、労働組合の関係で、ユニット・レイバー・コストは20年ぶりにマイナス1.5%に低下する。これは、米国にとって非常に厳しい状況である。構造的にドル安のリスクは高いのではないかと思う。

生産性の分析をすると、2002年から循環的な回復はあるが、特別なものではない。

生産性インフレは、ロジスティクスから生まれてくる。日本の卸売業者の66%は生産者や小売業者という顧客を抱えていない。したがって、ほかの卸売業者と取引をする。日本で本当に国際競争力のある会社は、現場の回復をサプライチェーンマネジメントによって生み出してきた。ロジスティクスカンパニーのストリームライニングは今後一番大きなチャレンジになる。

国家財政については、財政赤字対国民所得が拡大しないような政策をとるべきである。国の債務の40兆円のうち、利払いがほぼ10兆円である。黒字を生み出すには2倍以上の増税か歳出を半減するしかない。これは不可能である。したがって、財政赤字は今後も拡大する。

インフレへの懸念

経済成長促進策について考えてみよう。日本の名目GDPが1%拡大すると、財政赤字の対GDP比率は0.26%改善する。政府債務の対GDP比の上昇を成長で阻止しようとすると、32%の成長が必要になる。これはインフレでしか解決できない。日本の構造的な問題として、インフレのリスクはこれからの2年、5年、10年と非常に高くなってくるのではないかと思っている。

インフレが出てくると金利が上昇する。日本の失業率を長期金利(10年債)で回帰すると相関が高く、Rスクエアは0.91である。よって、日本の長期金利の予測は非常に教科書的である。アメリカについて同様に回帰してみると、結果は日本とは逆になる。インフレの期待と、インフレの原動力は非常に積極的に日本経済の中で動いているのではないか。

金利が上昇するというプレッシャーは中小企業と大手企業ではまったく違う。50ベーシスポイントの金利上昇があるとしよう。大手企業の収益のマイナスはだいたい2%だが、中企業はマイナス7%、小企業にとってはマイナス10%の影響が出てくる。よって、金利が上昇すれば、負け組と勝ち組の間にある幅がもっと大きくなるのではないかと思う。

日本のセーフティネットはどこにあるか。ひとつは、どうしても金利上昇が起こらないような戦略が考えられるだろう。これは金融社会主義的な財政投融資を使って、あるいは日本銀行のゼロ金利政策を使って、債務のコストはどうしてもゼロに近いという政策を持っている。

「ダブルパンチのデフレ」も考えられる。外圧的には価格破壊や競争が激しいが、その割には、ゼロ金利調達あるいは財政投融資や債務保証を使って、もっと内圧的なデフレ圧力が出てくるのではないかということである。

その戦略は、財政投融資改革で始まったのではないかと思う。来年のペイオフの廃止もその一歩である。次のステップは、ゼロ金利政策は廃止するべきということになるが、そうすると、必ず、日本中小企業の破綻比率は、急に拡大する。これは、そのバランス、アメとムチというこれからの日本国内の政策のチャレンジであるのではないか。

経済の分岐点を、歴史的に見てみると、例えば、1881年には、その時には米国の生産能力が初めて英国を超えた。その時には、米英の賃金の格差は、英国が約1.2倍高かった。次の分岐点となる1979年には、日本の生産能力が米国を超えた。その時の賃金格差については、米国が1.4倍高かった。約2年前には、中国が世界の工場になった。しかし、日中の賃金格差は32.5倍日本が割高である。

中国が世界経済の花道に入ってくることの一番大事な意味は、低価格競争の廃止である。どうやってブランドの付加価値やIP、知的財産といった国際的競争力でやっていくか、である。中国にとって、コスト競争は終わった。これからの本当の意味は、ブランドの競争にもっともっと激しく出るということだ。

例えば、ユニクロは一番早く低価格戦略をとった。しかし、残念ながら、ブランド力が高くないために、海外の機関投資家の間での知名度は低い。逆に、ベネトンは、コスト競争力はあまり得意ではないが、ブランドの付加価値は非常に高い。日本のブランド能力は、アジアの中では高いと言えるだろう。

日本の将来

将来については、2つほど懸念している。1つ目は教育についてである。アジアの中で、自国の大学を卒業した後に、米国の大学院で学習する学生の割合を見てみると、マレーシア、シンガポール、台湾、香港では多くの学生が留学するが、日本の場合は2%以下である。これは、日本の人的資源がどれだけ企業家精神があるか、どの程度グローバルかを見る上で重要である。グローバライゼーションに参加できると、日本のブランドの付加価値や知的財産は、これからの10年において、まだ強さが出てくると思っている。その人材が日本の中には本当にあるのかという疑問がある。

2つ目は、政策面において、日本 - アジア、日本 - 中国など、建設的に国を越えるプロジェクトを作るべきではないかと私は思っている。例えば、70年代に作ったエアバスの規格は、実は、ドイツ、フランス、イギリス等の関係において、非常に統合に役に立った。一緒に働くと、だんだん楽しくなる。

しかし、これは政策面における大人同士の競争。アジアでそのようなことが今後できるかもしれないという希望を持っている。

(編集・文責 : (株)富士通総研)

全文はPDFファイルをご参照ください。

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