競争優位のアウトソーシング - アウトソーシングの3つのジレンマをどう克服するか -
富士通総研経済研究所研究顧問(早稲田大学教授) 根来 龍之
2005年4月
要旨
はじめに
アウトソーシングは、今日ますます盛んになりつつある。その対象は、よく取り上げられる情報システムだけでなく、付加価値活動をより直接的に構成している営業、製造、物流、研究開発など多様である。例えば、地方銀行による無担保個人ローン事業は、審査以降の機能(審査からリスク負担、顧客管理、回収まで)の大半を消費者金融業者に委託している。銀行は、資金を調達し、顧客の窓口になっているだけである。業務を丸ごと外部委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の典型的な例だといえる。
生産工程を外部委託するEMS(エレクトロニクス・マニュファクチャリング・サービス)とそれに付随する工場の売却も、2000年頃からわが国でも経営改善の手法として定着しつつある。
これらのアウトソーシングの効果として、(1)コア業務への経営資源の集中、(2)コスト削減、(3)専門性の確保、(4)「弱さ」の補完、(5)参入までの時間短縮などが挙げられる。
しかし、アウトソーシングは、その本来的性質として、(1)事業の競争基盤を弱める可能性がある。特に、最近の取引オープン化と業務モジュール化(標準化)の流れの中では、「他社も使える「外部資源」は他社との競争同位を作るだけ」に終わる可能性がある。また、(2)委託先の資源優位は、直接的に自社の差別化につながるとは限らない。更に、(3)自社所有資源の集中は、「差別化に使える資源の種類が減る」可能性を意味し、環境変化による資源価値の変化に弱いと言える。以上は、アウトソーシングの3つのジレンマなのである。
他社並み以上になれない : 第一のジレンマ
代表的なアウトソーシング分野である情報システム、製造、物流の分野では、専門業者が複数の企業から業務を受託していることが多い。そして、その業務のモジュール化が進行している。ここでのモジュール化とは、物理的部品のモジュール化で議論されているような厳密な意味でなく、「業務の標準化」が進んでいるという程度の意味である。その結果、規模や経験効果が働き、アウトソーシング受託市場の寡占化が進んでいる。例えば、コールセンターのアウトソーシングは、トップ5社が市場の7割を占めている。寡占化は、受託業務の標準化をもたらす。なぜなら、「自社の委託先と他社の委託先が同じ」可能性が高まるからである。
EMSの場合、アウトソーサー(業務受託企業)はモジュール化された業務を複数の委託先に提供している。顧客企業であるA、B、C社のどこにも、同種の生産機能や製造ノウハウを提供している。したがって、生産ロットに大きな差がなければ、組み立てコストはどの顧客企業も大きく変わらなくなる。
組み立てコストに関する競争力が劣っている企業は、EMSによって、アウトソーシングの目的の一つとなる「競争劣位を競争同位までに上げること」は可能だ。しかし、それ以上は期待できない。
古典的事例をひもとくと、IBMは1982年にPC市場に新規参入するにあたって、「一年後の参入」を目標に掲げ、大型コンピュータについてとってきた「垂直統合モデル=自社ですべてを開発・製造する」方針を覆し、外部資源を活用することを決めた。これは今日的言葉で言えば、「戦略的アウトソーシングの実践」あるいは「選択の集中」の戦略である。
具体的には、IBMは当時急成長していたアップルからの市場奪取のために二つの試みを実施した。一つは規格の公開である。これは、IBMのPCに準拠した周辺機器・ソフト開発を促した。もう一つは、MPUはインテル、OSはマイクロソフトといったように、主要部品の開発・製造を外部に委託したことである。
結果として、IBMは早期参入に成功し、1984年にはシェア60%を達成した。しかし、その後、外部企業がモジュール化戦略を取り、標準化したサービスをさまざまな企業に提供したため、PC市場でトップを維持することができなかった。コンパック、更にはデルにトップシェアの座を譲ることになったのである。そして、2004年には、ついにPC事業を中国企業に売却した。
つまり、IBMのPCは、インテルやマイクロソフトのように他社も利用できるオープン化、モジュール化された外部専門業者の力によって早期参入に成功したが、同時にその後の差別化を難しくしたのである。アウトソーシングが、長期的な競争優位の基盤を弱めてしまった事例である。
とはいえ、アウトソーシングによる競争同位の実現は決して悪いことではない。競争劣位の業務を競争同位にまで引き上げるのに、有効である。問題は、残る業務で十分な競争優位が達成できるかどうかである。あるいは、「外部委託した業務が持続的競争優位の源泉になりえる」方法が必要である。
業務委託のオープン化・モジュール化が進展すると、アウトソーシングが差別化につながらない可能性が強まる。なぜなら、他社も利用できる「モジュール化された専門業者の力」は、他社と同等な「競争同位」しかつくらない可能性があるからである。
資源優位と差別化の乖離 : 第二のジレンマ
経営資源は、活動を通じて、差別化に影響する。そして、資源の模倣困難性と活動のシステム性が、模倣障壁=持続的差別化を形成する。しかし、従来の<選択と集 中>のモデルは、活動システムのレイヤーを考えない(図参照)。そこでは、コア業務として残された自社の資源が市場での差別化の源泉である。例えば、デザインが優れているから、あるいはブランド力があるから、生産を外部委託しても問題ないと考える。この従来モデルでは、アウトソーシングは競争同位を実現しても差別化には結びつかないことにならざるをえない。そして、他社より優れた自社資源に基づくコア業務部分で差別化を図ればよいということになる。自社資源と委託先の資源を分離させて考えるのが、このモデルの特徴である。両者の相互関係を考えないのである。
しかし、資源 - 活動 - 差別化の3層構造(図参照)を考えるならば、上記のような割り切りは正しくない。外部資源(能力)であっても、自社の活動に組み込まれることによって、差別化につながる可能性があり、またつなげる努力が模倣困難性を高める。このような考え方が、後述する競争優位のアウトソーシングのコンセプトである「シナジスティック・アウトソーシング」の本質となる。ポイントになるのは、アウトソーシングした活動が自社の活動とシステムとして強く結びついていることである。活動のシステム性を追求することにより、アウトソーシング業務のオープン化、モジュール化が進んでいても、外部資源もまた競争優位につなげられる可能性がある。
実例として、フィギュアの設計・製造を手がける海洋堂について考えてみよう。同社は、1999年にカバヤ食品が発売した「チョコエッグ」のおまけを作っていた。この商品は大成功を収め、カバヤはその後、おまけの製造を海洋堂から別の会社に変えて新しいチョコエッグを売り出した。ところが、それはあまり売れなかった。一方、カバヤから自由になった海洋堂は、グリコが2001年に商品化した「クラシックグリコ」のおまけ製造を手がけることになった。そして、これがふたたびヒットした。
海洋堂は、実は原型デザインだけを手がけ、製造を中国の工場に委託している。新チョコエッグのときのカバヤなど同業他社も同じようにフィギュアの製造を中国の工場に委託しているといわれるが、デザインだけでなく品質でも海洋堂を凌ぐことがどうしてもできなかった。海洋堂と他社の違いは、一つは「原型フィギュアの出来」である。デザイナー、すなわち自社の資源の力に差がある。しかし、同時に、製造管理のノウハウに違いがある。海洋堂は、「試作段階でのチェックが厳しい」のである。アウトソーシング先の中国の工場における低コスト製造能力と海洋堂の製造指揮能力が合体し、フィギュアの品質に結びついていると考えられる。このように、活動レイヤーにおいて外部業務と自社業務に相互作用が存在する構造が、シナジスティック・アウトソーシングを可能にする。再度強調すれば、自社業務と委託業務をいかに結合・整合させるかが重要なのである。
このような構造を想定すると、外部業者の「強さ」が自社の差別化に貢献するとは限らないことが分かる。なぜなら、外部業者への委託業務は自社内部の業務と結合されて、市場でのインパクトに影響する。したがって、以下の場合は外部業者の「強さ」は自社の差別化に貢献しないことがある。(1)アウトソース業務と自社業務の結合が不整合になっている場合は、両者の良さが消し合ってしまう可能性がある。(2)アウトソース資源が仮に優位性があっても、結合される自社の業務が弱ければ、結合後の業務は「強い」とは限らない。
資源価値陳腐化のリスク : 第三のジレンマ
「選択と集中」は、当然のことながら、自社資源の幅(保有領域)の縮小を意味する。この事は、集中した領域での資源蓄積を促すので、好ましいとも言える。しかし、同時に、これは、差別化源泉(数)の縮小でもある。なぜなら、自社資源の幅(保有領域)の縮小は、「競争のネタ」が減ることを意味するからである。仮に、ある一つの資源優位が自社の差別化源泉になっていると想定してみていただきたい。その資源の活用可能性が、環境変化(規制改革や技術変化)によって大きく変化した場合、言い換えれば、「資源の価値が低下」した場合、ある一つの資源優位しか持たない企業は、差別化源泉の切り替えができないので、すぐに致命的な状態に陥る可能性がある。
空気清浄機を主力製品としていたカンキョーは、1980年代半ばから90年代初めに急成長した。同社は、製造、物流、販売網を自社ではもたず、研究開発と製品化を担当する技術部門だけを自社業務とした企業であった。同社の技術は社長の独創力に基づくもので、同社の技術力が高かったゆえに、同社の製造委託先は製造能力に優れる大手企業でなければ引き受けられないものだった。また、「説明型」の商品であったので、各地域に地元有力企業などによる販売会社の設立協力を依頼した。こうして、製造と販売に一流のアウトソース先を確保したカンキョーは、製品の「機能的優位」を宣伝して一気に成長した。しかし、好調は長くつづかなかった。「カンキョーの空気清浄機は誇大宣伝だ」という競争相手の批判や公正取引委員会によるカンキョーに不利な裁定があったこともあり、カンキョーの技術力に一時的な不信感が広がると、在庫負担に耐えられなくなり倒産することになったのである(有力企業をアウトソース先にしていたがゆえに、製造の引き取り責任や販売在庫の負担は、カンキョーに不利な契約になっていた)。
以上の議論や事例は、自社資源の幅(保有領域)を広げるべきだということを必ずしも意味しない。単純な「非集中化論」は、資金と努力の分散によって、一つも差別化源泉を構築できない可能性がある。しかし、集中はリスクを含んでいることも事実なのである。
まとめ : シナジスティック・アウトソーシングの提案
ここまで述べてきたように、アウトソーシングには、以下の3つのジレンマがある。(1)モジュール化が進んだ業務についてのアウトソーシングは、差別化につながらない可能性がある、(2)外部業者の「強さ」が自社の差別化に貢献するとは限らない、(3)アウトソーシングは、差別化源泉(数)の縮小につながる。この「アウトソーシングのジレンマ」を緩和するための新しいアウトソーシング戦略として、「シナジスティック・アウトソーシング」のコンセプトを提案したい。
シナジスティック・アウトソーシングとは、「委託先の業務プロセスと自社内の業務プロセスを組み合わせることによって、模倣困難性が高い差別化を形成するアウトソーシング」のことである。
前述したように、「資源は、活動を通じて、差別化を形成する」。外部に委託した活動は、自社活動と結合して、市場での競争項目に影響する。したがって、結合の工夫によって、他社も利用できる「外部資源」の利用が差別化状況の改善に貢献することがありえるのである。まず、外部業務が自社業務と組みあわせることで、結合された業務が自社なりの業務になって、「競争優位」に貢献する可能性が生まれる。また、自社業務と組みあわせることで、アウトソーシングが「競争同位」以上になりえる可能性がある。更に、自社業務と組みあわせることで、アウトソーシング先の資源が仮にオープン化・モジュール化されたものでも、差別化源泉になりえる可能性がある(ただし、長期契約が前提)。
ただし、これらは可能性にすぎないので、シナジスティック・アウトソーシングがいつでも可能だということではない。ポイントは、このような考え方によって、アウトソーシングのジレンマを緩和できる可能性があることである。
アウトソーシング先の業務が自社の業務と「活動システム」として結びつくことによって、システムとしての模倣困難性を持ちえれば、アウトソーシングした活動も持続的競争優位の形成に貢献できる可能性がある。この「活動のシステム性」の意図的な追求がシナジスティック・アウトソーシングである。
ただし、シナジスティック・アウトソーシングは常に可能だとは限らない。活動のシステム性を高めるためには、やはり「業務の内部化」が必要になることもありえる。
実は、アウトソーシングのジレンマ緩和の戦略は二つありうる。一つは、上述したシナジスティック・アウトソーシングである。もう一つは、「アウトソーシングのインソーシング(内製)への切り替え」である。この対策は、「業務の選択と集中」のメリットを放棄する方法ではあるが、活動のシステム性は高くなる。例えば、カシオ計算機は、2002年10月に、システム子会社である「カシオ情報サービス」を本社に吸収した。この改革は、アウトソーシングは、「システム作りのスピードが落ちる。余分なコストもかかる」という問題意識からおこなわれたものである。
アウトソーシング見直しの時代の経営課題は、シナジスティック・アウトソーシング戦略とインソーシング戦略の条件別の選択だろう。
(注)富士通総研経済研究所(浜屋敏、木村達也両主任研究員)と早稲田大学IT戦略研究所(所長 : 根来龍之)は、共同で「情報システムとロジスティクスのアウトソーシングの実態研究」を進めている。この実態調査の中間的まとめは、以下で公開されている。
http://www.waseda.jp/prj-riim/kenkyu.htm
全文はPDFファイルをご参照ください。
PDF 競争優位のアウトソーシング - アウトソーシングの3つのジレンマをどう克服するか - [275 KB]
