中国における外国直接投資の効果と外資政策の変化
主任研究員 金 堅敏
2005年4月
要旨
中国統計では、2004年末までに認可された外資企業数は、累計で50万8,941社、実行額は5,621億ドルとなった。2004年に中国の外国直接投資(FDI)流入額は、はじめて600億ドル台を超え620億ドルに達した。中国経済のダイナミズムは外資主導で達成されたと言える。中国の経済成長と産業育成におけるFDIの効果については、地場企業に対するクラウディングアウト(crowding out)効果、技術の外資依存体質の進行、産業安全保障上の問題等、疑問も聞かれるが、プラス効果がマイナス効果より遥かに大きいというのが一般的な見方である。評価のポイントは、以下の6つにまとめられる。
資本形成への貢献
中国の国内資本形成における外国直接投資の貢献は、90年代平均で、ベトナムやマレーシアの(20%~30%)ほどは高くないが、12%前後であった。2000年以降は、経済成長で蓄積された国内資本による投資が盛んになり、FDIの割合も次第に低下し、2004年には7.2%となった。投資資金としてのFDIの役割は後退した。
80年代から90年代末にかけて中国の外資導入の主たる政策目標は、資金不足及び外貨不足問題の解決だったが、近年では、FDIに内包された海外市場資源、技術・ノウハウ、投資効率性等の獲得へと政策重点がシフトしている。
輸出拡大の効果
中国の輸出における外資企業の割合は、1990年の12.6%から2004年の57.04%にまで拡大した。現在のところ、タイの80%ほど大きくはないが、そのプレゼンスは拡大し続けている。多国籍企業の持つ世界マーケットへのアクセス能力、外資進出による中国製品の品質向上、グローバル基準の導入等で輸出増が実現されている。加えて、中国に進出した外資小売りの中国国内調達による産品輸出も増加している。例えば、ウォールマートは、年間100億ドル以上の中国産品を調達して輸出している。
ただし、90年代前半の貿易収支への貢献はむしろ、マイナスであった。現在でも黒字への貢献は小さい。これは、外資企業による貿易に加工貿易の割合が大きく、外資企業による輸入の割合が輸出より高くなっているからである。2004には58.7%となっている。輸入の増大には、特に外資企業設立に当たっての設備輸入、部品等の中間材輸入が寄与している。
技術拡散効果(技術移転とスピルオーバー効果を含む)
中国では、90年代に入ってから「市場と技術の交換戦略」が実施され、あらゆる産業で外国投資による技術移転の効果が見られた。ただし、目標達成の度合によって評価は分かれる。マレーシアやタイ等と違って、中国における外資企業の技術移転や技術拡散の評価は、基本的に地場完成品メーカーや地場ブランドが育成されたかどうかが基準となる。生産のみならず、製品開発・R&D拠点の移転がないと評価されにくい。例えば、研究開発から製品設計、製造販売までを行う家電企業や携帯端末製造企業が育成されたことで、IT分野の評価は高い。生産だけにとどまり、設計やR&Dの拠点があまりない自動車分野では評価が低い。当初は高く評価された上海VWも、単なる生産拠点に止まっているため、その評価は低下している。
しかし、中国では、WTO加盟に伴い、「市場と技術の交換戦略」やローカルコンテンツ規制が取れなくなり、多国籍企業も地場企業より現地子会社への技術内部移転を強めるため、これからは、外資企業間や内外資企業間の競争促進を通じて技術のスピルオーバー効果を加速させるととともに、国内のイノベーションシステムを確立して技術吸収能力を高めたいとしている
企業統治の改善や企業管理等のマネジメントレベルの向上
これまで、対中FDIは70%以上が製造業分野に集中しており、地場企業へのクラウディングアウト効果、外資独占による産業安全保障上の問題等から、サービス分野の投資市場開放は緩慢であった。したがって外資進出も少なかった。ただし、上海市における銀行外資の導入、保険市場の開放、水道事業の開放の事例もあり、ある程度外資によるプラス効果が現れている。
中国では、WTO加盟に伴うサービス分野の市場開放を契機に、銀行・保険・公共事業などのサービス分野への外資進出によって、「外圧」を利用して国有資本の非効率性を改善させるとともに、企業統治の改善につなげたいとしている。実際、中国で高まっているM&Aやポートフォリオ投資に対する期待も、国有企業改革、企業統治の改善にある。
雇用拡大への貢献
雇用効果については、地場企業への代替効果もあるが、全体として雇用創出効果が大きい。例えば、中国の対外貿易の5割近くは加工貿易である。加工貿易産業は、雇用の代替効果が少なく新規雇用効果が大きい。ちなみに、2003年に外資系企業に働いている従業員は2,350万人を超えている。
ただし、海外大手小売の市場進出によって地場雇用が脅かされる事例で見られるように、地場市場進出を狙う外国投資やM&A投資が増える中で、外資企業の雇用弾性値は地場企業より小さいため、短期的には雇用のクラウディングアウトが発生することもあろう。
競争促進効果
中国では、外資による産業支配の懸念が根強くあったが、同じ競争市場に多数の外資企業が存在すれば、利益相反から産業支配問題は起きないことが次第に認識されてきた。このため参入規制から外資企業間の競争促進へと外資政策が大きく変わった。実際、競争による少数外資企業による独占や産業支配の排除の事例としては、乗用車市場(外資企業シェア90%前後)、ゴム製品市場(外資企業シェア80%~90%)、紙コップ市場(外資企業90%以上)があり、消費者に価格低下やサービス向上のベネフィットをもたらしている。競争の激化で外資系企業による新技術投入が促されることや、市場の要請から地場企業との提携が促進されることから、技術スピルオーバー効果が高められる。
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