京都タイプの温室効果ガス削減枠組みの限界と課題
上級研究員 濱崎 博
2005年4月
要旨
1997年京都で開催されたCOP3(気候変動枠組条約第三回締約国会議)において、主要国に対し温室効果ガス排出削減目標を定める京都議定書が作成された。我が国は、2008年~2012年において1990年比6%の削減を行う必要がある。しかし、多くの専門家が指摘しているように、我が国は石油危機以降の企業と政府の省エネ推進の努力により極めてエネルギー効率の高い経済となっている。そのため、削減目標の達成は他国と比較して極めて困難であり、目標達成には深刻な経済・社会的影響が生じる可能性がある。EUもまた2008年~2012年において8%の削減を行う必要があるが、国単位ではなくEU全体で削減目標を満たすことが許されており(EUバブル)、EU加盟国間で削減を融通することが可能である。また、EUの東方拡大と2005年1月に導入されたEU内排出量取引により、中東欧諸国のホットエア(経済の停滞による削減目標超過達成分)の取り込みが容易となり、EUにとって排出削減目標の達成の目処が立っている。最大の温室効果ガス排出国である米国は既に京都議定書からの脱退を表明している。大統領選においてブッシュ大統領が再選されたこともあり、今後の京都議定書の批准は期待できない。
米国、豪州が脱退を表明したため、ロシアの議定書批准が京都議定書の発効条件となっていたが、ロシアはついに議定書への批准を済ませ2005年2月16日に議定書は発効した。これにより既に批准を行っている附属書国である日本、EU、カナダなどは京都議定書目標へ向けて実効性のある削減活動が必要となった。
ポスト京都へ向けての動き
2004年に行われたCOP10における、2013年以降のポスト京都へ向けての現実的な議論は、米国や中国をはじめとする発展途上国からの反発により行われなかった。しかし、京都議定書発効後初めて行われる2005年末に開催予定のCOP11において、ポスト京都の枠組みに関する国際交渉が始まり、2007年末のCOP13において次期枠組みが決定すると見られている。公式な場における次期枠組みに関する議論は行われていないが、水面下においては、次期枠組みに関する検討が行われている。EUは個別に温室効果ガス削減目標を課すいわゆる京都議定書タイプを検討しており、発展途上国は温室効果ガス排出量削減義務を負うことに強い反対を示している。米国は発展途上国が参加しない枠組みには参加しない意向を示している。したがって、京都タイプの枠組みでは2013年以降も米国、発展途上国の参加は期待できない。次期枠組みに関しては未だ不透明感が強いが、今までのようなEU主導での国際ルールの決定では、米国、豪州、発展途上国以外の国・地域に対して、第一約束期間以上に厳しい削減目標が課せられることになる。
京都議定書は温室効果ガス削減に寄与するのか
次期約束期間以降も、京都タイプの削減目標(絶対量での各国・地域別目標)を導入した場合に、我が国経済への影響及び地球規模で見た場合の温室効果ガス削減効果は如何なるものかの検討した。評価には、富士通総研経済研究所と豪・モナッシュ大学、豪・ニューサウスウェールズ大学と共同で開発を行った動学一般均衡型モデル(Dynamic GTAP-E)を用いた。ここでは、京都議定書を既に批准した日本、EU、カナダ、及びロシアが、第一約束期間以降も京都議定書に定められた削減目標を維持すると仮定する。実際このシナリオでは気候安定化はしないため、比較的楽観的なシナリオと言える。
結果は以下のとおりである。温室効果ガスの削減を続ける日本、EU、カナダの企業は、削減によって生じるマイナスの影響が重くのしかかる。その結果、我が国においては、GDP成長率が2013年で1.82%1)、2020年で2.96%低下する。
GDP成長率が低下する原因として、我が国企業の国際競争力の低下による輸出の減少( - 1.97%<2013年>)、消費の低迷( - 0.70%<2013年>)による国内需要の停滞、それに伴う国内投資の冷え込み( - 6.40%<2013年>)が挙げられる。雇用面においても、雇用の減少(熟練労働者、非熟練労働者ともに - 0.27%<2013年>)、実質賃金の低下(熟練労働者 - 2.37%、非熟練労働者 - 2.32%<2013年>)が生じる。
削減義務の生じる日本、EU、カナダの排出量は、全世界の二酸化炭素排出量に占める割合が、2004年で21.1%、2012年で13.4%、2020年には10.1%と大きく低下する。したがって、2012年頃には先進国の二酸化炭素排出量に追いつくといわれる発展途上国(特に中国、インド)、と世界最大の温室効果ガス排出国である米国抜きでの温室効果ガス削減活動は、世界規模で見た場合の温室効果ガス削減にはつながらず、対策を採らなかったケースと比較して、二酸化炭素排出量をわずか5.86%(2020年)低下させるに過ぎない。
現在の京都議定書タイプの温室効果ガス削減活動は気候変動の安定化には寄与しないばかりでなく、温室効果ガス削減を行った国に対して深刻な経済的影響を与える。我が国としては、京都議定書タイプの枠組みではなく、米国、発展途上国の参加可能性の高い次期枠組みの検討、国際会議の場における提案が急務である
1)全ての%変化は、全ての国が温室効果ガス削減義務を持たない通常ケース(Business-as-usual)からの乖離を示す。
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