音楽の有料配信ビジネスの現状と課題
主任研究員 前川 徹
2005年4月
要旨
iTunes Music Storeの大成功
アップル・コンピュータは2005年1月25日、2003年4月にサービスを開始した音楽の有料配信サイト「iTunes Music Store(iTMS)」からダウンロードされた楽曲が2.5億曲を超えたと発表した。1.5億曲を超えたと発表したのが、2004年10月14日であるので、約100日で1億曲がダウンロードされたことになる。CEOのスティーブ・ジョブズは、iTMSをスタートした時には最初の6ヵ月で100万曲の販売を目標にしていたが、現在では1日に100万曲を販売していると語っている。
iTMSが提供している楽曲の種類は100万曲に達しており、どれでも99セント / 曲(アルバムの場合は9.99ドル)でダウンロードが可能である。また、iTMSからダウンロードした楽曲は、パソコンあるいはパソコンに接続したオーディオ機器で楽しむほか、アップルが販売しているHDD内蔵型の携帯音楽プレーヤー「iPod」やその小型版の「iPod mini」、半導体メモリー内蔵型の「iPod shuffle」に楽曲を転送したり、好きな曲を選んでCD-Rに記録することもできる。
iTMSは、2004年6月からイギリス、ドイツ、フランスなどでもサービスを開始ししており、日本でもまもなくサービスが開始されると噂されている(アップルは日本でのサービス開始に向けて準備を進めていることは認めてはいるものの、サービスの開始時期やサービス内容などについては明らかにしていない)。
マイクロソフトとヤフーの参入
米国では、ウォルマート、リッスン・ドットコム、リアルネットワークスなどが同様のサービスを提供しているほか、2004年9月2日にはマイクロソフトが「MSN Music」のサービスを開始し、ヤフーも2004年9月14日に音楽配信企業のミュージックマッチを1億6,000万ドルで買収してこの市場に参入を表明した。
ウォルマートは料金を88セント / 曲、リッスン・ドットコムは79セント / 曲に設定して利用を拡大しようとしているが、現状ではiTMSにまったく対抗できていない。また、リアルネットワークスは2004年8月17日から49セント / 曲の期間限定半額セールを行って3週間で300万曲以上を販売し、音楽のダウンロード市場でのシェアを20%程度に伸ばしたが、これが定着するかどうかは疑問視されている。
iTMSのライバルとして最も注目を集めているのはマイクロソフトのMSN Musicである。MSN Musicの価格は99セント / 曲でiTMSと同等であり、ダウンロード可能な曲数はiTMSの半分の50万曲とそれほど魅力的には見えないが、インターネットにさえ接続していれば、パソコンの複雑な設定を行うことなく音楽をダウンロードできる点が注目されている(iTMSの場合、Macintosh以外のパソコンではiTMS専用のソフトウェアを事前にダウンロードしてインストールする必要がある)。米国のメディアは、ブラウザソフトで最初は圧倒的な劣勢にあったInternet ExplorerがNetscape Navigatorに完勝したように、MSN Musicがこの市場を制覇する可能性があると指摘している。
日本の現状と問題点
日本でも、国内の主要レーベルが共同出資して設立したレーベルゲートの他、NTTコミュニケーションズ、リッスンジャパン、エイベックスネットワークス、マイクロソフトなどが有料音楽配信サービスを行っているが、市場はまだ極めて小さい。最大手だと言われているレーベルゲート(サービス名は「Mora」)でも、2004年12月にダウンロードされた曲数は33万曲でしかない1)。
レーベルゲートは、1曲158円から368円で楽曲のダウンロードサービスを提供しているが、平均的な価格は210円 / 曲で、米国との価格差が2倍程度ある。また、ダウンロード可能な楽曲数は、最大のMoraでさえ約10万曲(2004年12月時点)であり、iTMSの100万曲と比べると品揃えは十分とは言えない。
更に、日本のサイトは、ダウンロードした楽曲の利用について、米国より技術的に厳しく制限している。例えば、iTMSの場合、他のパソコンへの転送が3回までと制限されているだけで、iPodへの転送は無制限、CD-Rへの記録も自由にできるのだが、日本のサイトが提供している多くの楽曲は、他のパソコンへの転送とCD-Rへの記録は不可能で、携帯音楽プレーヤーなどへの転送も3回までと技術的に厳しく制限されている(2004年末に一部のレーベルの楽曲については、CD-Rへの書き出しが10回まで可能に変更されている)。また、日本のサイトからダウンロードした楽曲は、そのフォーマットや著作権管理技術(DRM)による制限から、携帯音楽プレーヤーとして最も普及しているiPodシリーズでは利用できないという問題もある。
日本のレコード産業界は、著作権者の権利を守るために著作権管理は厳しくあるべきであると説明しているが、これは「角をためて牛を殺す」ことになるのではないだろうか。
米国のように、1曲あたりの料金を100円程度に下げ、緩い著作権技術を用いて利用者の利便性を向上させれば、法を犯して不正コピーされた楽曲を入手しようという消費者は減少し、日本の音楽市場はむしろ拡大するのではないだろうか。
1)KDDIが携帯電話向けに始めた音楽配信サービス「着うたフル」のダウンロード数は2004年11下旬から2005年1月上旬までで累計100万曲を記録している
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