ユーザ企業のITマネジメントとSIer顧客満足度の関係
主任研究員 浜屋 敏
2005年4月
要旨
SIer(システム・インテグレーター)顧客満足度の状況
私たちは、早稲田大学IT戦略研究所の監修のもとで行われた「ITマネジメント&顧客満足度調査」1)で回収したデータの統計的な分析を行う機会を得た。この調査は、従来の調査とは異なり、ユーザ企業の社内におけるITマネジメントのあり方と、ユーザ企業のSIer(システム・インテングレーター)に対する満足度を同時に調査し、その関係を分析しているところに特徴がある。
SIerの顧客満足度は、当然のことではあるが、まず第一にシステム構築能力などSIerの特性に大きく影響される。しかし、例えば同じSIerからほとんど同じ内容のサービスを受けているにもかかわらず、そのSIerに対する満足度がまったく異なる企業が存在するなど、SIerの顧客満足度がユーザ側の要因からも影響を受けていることは、十分に考えられる。今回の調査は、これまでは体系的な調査がほとんど行われていなかったユーザ企業のITマネジメントとSIerの顧客満足度との関係に焦点を当てている。
ユーザ企業のITマネジメントとSIer顧客満足度との関係を分析する前に、次ページの表にSIer顧客満足度の集計結果をまとめてみた。今回の調査では、総合的な満足度がもっとも高かったのは独立系SI会社であり、外資メーカー、メーカー系SI会社と続き、国産メーカーに対する満足度がもっとも低くなっている。外資メーカーのSIサービスは「サービス料金の低さ」を除けばどの項目も満足度が高く、既存の調査と同じような傾向が出ていることがわかる。現状ではSIサービスはハードウェアほどオープン化されておらず、ユーザ企業がSI会社を乗り換えることはそれほど一般的なことではないが、顧客満足度の低い国産メーカーは今後進展することも予想されるSIサービスのオープン化に対して危機感をもって取り組むことが必要だろう。
1)この調査は、月刊誌『ITセレクト2.0』の特集企画として、2004年8月から9月にかけて実施され、わが国の上場企業3,011社(SIサービス提供企業を除く)の情報システム部門長に調査票を郵送した。有効回答は126社で、回収率は4.2%であった。今回がはじめての調査であったので回収率は低かったが、業種や企業規模の分布に関しては分析対象となったサンプルには大きな偏りはなかった。なお、この調査の詳細な集計結果は『ITセレクト2.0』誌の2005年1月号に掲載されている。
| 重視度 | 国産メーカー | 外資メーカー | メーカー系SI | 独立系SI | |
|---|---|---|---|---|---|
| 完成したシステムの品質 | 4.437 | 0.250 | 0.455 | 0.450 | 0.505 |
| システム開発・保守に関する技術力 | 4.286 | 0.383 | 0.682 | 0.550 | 0.563 |
| 提案力・情報提供力(業界知識・業務知識を含む) | 4.224 | 0.000 | 0.409 | 0.175 | 0.330 |
| サービス料金の低さ | 4.198 | -0.100 | -0.500 | -0.300 | 0.068 |
| トラブルや問い合わせなどへの対応力 | 4.175 | 0.250 | 0.500 | 0.250 | 0.476 |
| プロジェクト・マネジメント力(予算・納期の遵守度) | 4.111 | 0.083 | 0.455 | 0.350 | 0.417 |
| システム開発のための業務分析力 | 4.095 | 0.033 | 0.545 | 0.200 | 0.311 |
| アフターサービス・メンテナンスの充実度 | 4.056 | 0.200 | 0.455 | 0.350 | 0.388 |
| システム開発における仕様変更への対応 | 4.048 | 0.033 | 0.227 | 0.175 | 0.417 |
| サービス料金の透明性 | 4.024 | 0.017 | 0.000 | 0.000 | 0.311 |
| 総合点 | 0.487 | 1.352 | 0.926 | 1.582 |
(注)各グループの点数は、「非常に不満」を - 2、「やや不満」を - 1、「どちらとも言えない」を0、「やや満足」を1、 「非常に満足」を2とした場合の平均値。「総合点」は、各基準の点数を重視度で加重平均した値。
ITマネジメントとSIer顧客満足度の関係
今回の調査結果を分析すると、ユーザ企業のITマネジメントとSIerに対する満足度の間には、かなりはっきりとした関係があることがわかった。SIerに対する満足度は、ユーザ企業がSIerとどのような関係を作っているかということに影響を受けており、更に、ユーザ企業とSIerとの関係のあり方はユーザ企業の社内のITマネジメントのあり方に影響を受けている。
具体的には、SIerの顧客満足度に影響を与えるユーザ企業とSIerとの関係として、ユーザ企業が、(1)過去の実績などだけではなく合理的な基準にしたがってSIerを選択しているか、(2)業務を委託する前にSIerと十分に打ち合わせを行っているか、(3)業務委託後、SIerの作業内容の進捗を十分に管理しているか、という3点が抽出された。そして、要求仕様書をSIer任せにしていない企業ほど、SIerとの事前的な打ち合わせや事後的な進捗管理も十分に行っており、その結果SIerに対する満足度も高くなっていた。
要求仕様書を自社中心で作成しているユーザ企業ほど、そうでない企業に比べて、自社のシステム部門の企画能力を高く評価していることも明らかになった。また、社内におけるシステム部門と利用部門とのコミュニケーションが良好な企業ほど、システム部門の活動計画と全社の経営計画との整合性が高く、SIerとの事前の打ち合わせを綿密に行っており、SIerに対する満足度も高くなっていた。このように、自社システム部門の能力や、システム部門と利用部門とのコミュニケーションのあり方といったSIerと関係のない要因が、SIerに対する満足度に影響を与えているのである。
この調査が意味することとして、ユーザ企業は、満足できるSIサービスの提供を受けるためには、良いSIerを選ぶだけでなく、自らのITマネジメントのレベルを向上する必要があることを指摘できる。また、SIerとしては、例えば、低価格を前面に押し出すのか、それとも多少価格を高くしても品質が高ければ顧客に満足してもらえるのかといった差別化戦略に関して、顧客企業のITマネジメントのレベルに応じて訴求するポイントを変化させることも効果的ではないだろうか。
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