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中国沿海部に労働力供給不足

上席主任研究員 朱 炎

2005年1月

要旨

順調に成長している中国経済には、経済過熱と引き締めによる減速という問題のほかに、労働力不足という新たな問題も生じている。都市部と農村に大量な余剰労働力が存在する中国で、なぜ労働力不足が発生するのか。また、労働力不足の問題は、中国経済にどうのような影響を及ぼし、「世界の工場」という機能にダメージを与えるか。更に、中国に進出する日系企業は労働力不足の問題どう対応するのか、などを検討する。

沿海地域に労働者の募集難

「世界の工場」としての中国は、低コストの製品を大量生産、大量輸出することで高成長を維持している。これを支えているのは、「無尽蔵」といわれる労働力供給であり、農村から都市へ、内陸から沿海へ流入する出稼ぎ労働者はその担い手である。

しかし、2004年に入ってから、中国の主要工業地帯では、労働者不足の状況が常態化しており、熟練工のみならず、一般労働者の募集も困難となっている。内陸部の農村からの出稼ぎ労働の供給が特に不足している。労働集約産業、輸出産業が集中する広東省の珠江デルタ地区では、労働力不足の状況が最も深刻であり、その不足分は200万人に上るとみられる。上海周辺の長江デルタ地区など、他の沿海部地域でも程度の差はあるが、いずれも労働力不足に直面している。

労働力不足の原因

中国は人的資源が豊富であり、都市部では国有企業のリストラによって失業問題が依然として深刻であり、農村では余剰労働者がなお多い。このような状況のもとで、労働力不足がなぜ起きたのか。

第1に、経済の高成長のもとで、生産・経営活動の拡大により、労働力に対する需要が急増している。経済成長は過熱状態にあり、2004年第1四半期の経済成長率は9.8%、第2四半期は9.6%に達し、引き締めの効果が現われた第3四半期の成長率はやや低下したが、依然として9.1%と高い。引き締め政策はおもに過剰分野への投資を抑制することに集中し、一般企業の生産にはまだ影響を及ぼしていない。一方、海外の需要も旺盛であり、1~10月に輸出は34.5%も増えた。国内外の需要拡大に対応して、企業は生産拡大、追加投資を図るため、労働力に対する新規需要が拡大している。

第2に、出稼ぎ労働者を送り出す地方では、就業条件が改善されたため、出稼ぎ意欲を持つ労働者の供給が増えない。2003年から実施された政府の農村振興策がある程度奏功し、農民の収入がやや改善された。同時に、内陸地域にも労働集約型産業が発展したことによって、農村の余剰労働力をある程度吸収できた。このように、地元での就業条件が改善されるため、都市、沿海地域への出稼ぎが増えない。

第3に、出稼ぎ労働者の就業環境が厳しいため、沿海部都市への出稼ぎが敬遠されるようになった。農村から都市に出た出稼ぎ労働者は、技術を持っていないため、工場で働く賃金が低い。多くの出稼ぎ労働者は3K(きつい、汚い、危険)の仕事に従事し、労働環境が厳しい。加えて、沿海地域の大都市では生活コストも高い。都市部では出稼ぎ労働者の社会的地位が低く、都市部労働者に比べ福利厚生などの待遇が悪く、労働者としての権益も保護されていない

労働力不足の影響と対策

労働力不足の状況は今後しばらく続くと考えられる。労働力不足の問題は、中国経済、企業経営にさまざまな影響を与えるであろう。

まず、企業の経営戦略の転換が求められる。沿海部に立地する労働集約型産業にとって、安い労働力を武器とする低価格路線が続かなくなる可能性があるので、労働集約型産業を高度化させるか、もしくは賃金水準の低い内陸地域に移転するかが迫られる。労働力不足の状況が長く続き、賃金コストが上昇すれば、中国の「世界の工場」という地位も脅かされかねない。

また、労働力確保に総合的な対策が必要となる。企業にとっては賃金の引き上げや出稼ぎ労働者にも福利厚生を充実させることが必要となる。沿海部の地方政府にとっては、出稼ぎ労働者をいかに確保するかが重要な課題となる。そのため、内陸部との政府間協定で、出稼ぎ労働者の送り出し・受入体制を整える必要がある。同時に、政府は最低賃金制度の適用や、出稼ぎ労働者の権益の保護、福祉の充実など、企業の経営活動を監督する一方、出稼ぎ労働者にも都市住民同様の「市民権」を与えることも考えなければならない。

中国に進出する日本企業の多くも沿海地域に立地し、労働集約型産業の場合、生産工場に出稼ぎ労働者も多く働いており、同様に労働力不足に悩まされている。今後も賃金コストの上昇という問題に直面する。労働力不足の問題に対応するために、日本企業も生産コスト、福利厚生、産業立地などを含めて総合的な対策を考えなければならないであろう。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 中国沿海部に労働力供給不足 [204 KB]