アメリカのコミュニティ銀行に学ぶ地域金融機関の戦略
主任研究員 米山 秀隆
2005年1月
要旨
高い利益率を誇るコミュニティ銀行
今後の日本における地域金融機関の方向性を考える場合、アメリカの小規模な金融機関である「コミュニティ銀行」の事例が参考になる。アメリカのコミュニティ銀行は、資産規模が10億ドル未満の銀行で、金融機関の数では9割以上を占める。その中には、支店を持たない単独店舗のものや、数ヵ所の支店しか持たない零細なものも含まれている。
コミュニティ銀行は、零細な金融機関ではあるが、業績面では大手行に決してひけをとっていない。利益率(実質粗利益率)は4%程度の水準を維持しており、大手金融機関を上回っている1)。ちなみに、日本の地銀や信金の利益率は1~2%の水準に留まっており、アメリカの金融機関にははるかに及ばない。
コミュニティ銀行の基本的な戦略は、融資先である中小企業と密接な関係を構築することによって、独自の情報を収集し、有望と考えられる企業に、リスクをとって重点的に融資するというものである。独自に収集した定性的な情報に基づくこうした融資の手法は、「リレーションシップレンディング」と呼ばれる。
こうしたコミュニティ銀行の戦略は、中小企業向け融資において、近年、大手金融機関の間で急速に広がった、クレジットスコアリングを用いる手法と対照をなしている。これは、顧客の定量的な財務情報に基づいて財務内容を採点して、機械的に融資判断を行うというものである。誰にでも入手可能な情報に基づくこうした融資の手法は、「トランザクションレンディング」と呼ばれる。
情報の非対称性を克服する二つの方法
こうした対照的な二つの手法は、いずれも、銀行にとって取引先企業の真の財務状態や経営内容をつかみにくいという「情報の非対称性」を克服するためのものである。コミュニティ銀行の方は、中小企業に深く食い込み独自の情報を集めることによって、こうした問題を克服しようとする。一方、大手金融機関の方は、融資先企業の定量的な財務情報を機械的に採点することによって融資判断を行い、同時にできるだけ多くの企業に貸し出すことによってポートフォリオ化することで、こうした問題に対応しようとする。後者の手法は、基本的には消費者金融の貸し出しスタイルと同じものである。
情報の非対称性を克服しようとするこうした二つのスタイルは、どちらも理にかなったものと考えられるが、現代においては、ややもすると時代遅れと考えられがちなコミュニティ銀行の融資手法が、アメリカにおいても十分通用している点は注目に値する。
こうした二つの戦略の違いは、不況期における大手金融機関とコミュニティ銀行の貸し出し態度の違いとしても現れた。01年3月以降、アメリカは景気後退局面に入ったが、この時、大手金融機関の中小企業向け貸し出し金利は、フェデラルファンドレートとのスプレッド(以下、貸し出し金利スプレッド)がおおむね一定になるよう維持された2)。一定に維持された要因の一つには、クレジットスコアリングシステムの特性があったと考えられている。
不況期においては、一般に融資先企業の財務内容が悪化するが、この時クレジットスコアリングを用いて、融資先企業の財務内容を一定水準以上に維持しようとすると、財務内容が悪化した企業への融資が自動的に打ち切られることになる。こうした結果として、大手金融機関は不況期において、財務内容が悪化した企業に対しては、金利を引き上げるという対応をせず、融資を打ち切ることによって、貸し出し金利スプレッドを一定に維持したと考えることができる。
これに対し、コミュニティ銀行の方は、不況期においては、金融機関としての通常の行動をとり、貸し出し金利スプレッドを上昇させた。つまり、コミュニティ銀行は、不況期においては、財務内容が悪化したからといって融資を機械的に打ち切るわけではなく、貸し出し金利を引き上げることによって融資を継続した。こうしたコミュニティ銀行の行動は、不況期におけるコミュニティ銀行の存在意義を再認識させる結果となった。
日本への示唆
日本では最近は、クレジットスコアリングを活用する動きが、地域金融機関にも広がっている。クレジットスコアリングを活用している地域金融機関(地銀、第二地銀、信金、信組)の数は、03年度で約3割に達し、融資残高は1兆円を超えている(金融庁調べ)。
しかし、アメリカのコミュニティ銀行の事例は、地域金融機関は必ずしもそうした手法に頼らなくても生き残っていけることを示している。独自の情報を収集して審査能力を高め、地域の有望企業に重点的に貸し出しを拡大させることによって、収益アップを図っていくことも、地域金融機関の生き残りの道である。地域金融機関の本来の存在意義を考えれば、むしろこちらの方が王道といえるかもしれない。
1)木村温人 2004『現代の地域金融』日本評論社
2)『信金中金月報』2003年8月号
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