原油価格高騰と市場の役割
主席研究員 武石 礼司
2005年1月
要旨
原油価格が高騰しているが、その原因は世界の石油需要増と供給余力の減少にある。このため需給が締まった状態が生じたことで高騰が生じた。ただし、2004年10月に記録したWTIで55ドル / バレルという価格の上昇は上げ過ぎであり、最近10年程度の価格トレンドを追って見ても38ドル / バレルより上は、バブルと言わざるを得ない。投機資金が入って価格が一時的に上がる現象が生じることは、商品の取引市場である限りは生じ得るが、高値が持続する理由については、厳密な検討が必要である。原油及び石油製品の在庫量について、石油市場で正確な統計の収集の努力がどこまで達成できているかの調査が必要となっている。
原油価格増大とその原因
原油価格が高騰している。北米の指標原油であるWTIの平均価格は1998年において14.39ドル / バレルであったが、その後、2000年には平均が30.37ドル / バレルと上昇した。その後、2001年及び2002年の平均は25ドル / バレル台まで下がっていたが、2003年には平均で31.06ドル / バレルまで上昇した。顕著な上昇が生じたのは2004年に入ってからであり、10月には55ドル台という高値を記録している。
この原油価格の上昇は、需要側のいくつかの要因により需給が締まるという石油取引のファンダメンタルズによる一方、供給側に生じた不安定要因がこの上昇傾向を更に倍加させたことによるものである。
需要側の要因としては、北米における石油需要の着実な増加の効果が大きい。世界の石油需要は2003年現在総量で7,960万バレル / 日となっている(IEA統計)が、北米はそのうちの3割の2,460万バレル / 日を消費している。この需要量が近年において毎年40万バレルから50万バレル / 日分ずつ着実に増えてきた。しかも、この北米需要の伸びに加えて大きな効果を持つのが中国とインドの石油需要の増大である。中国は2002年から2003年にかけて50万バレル / 日の需要増があり、更に2004年には2003年比で90万バレル / 日程度需要が伸びると予測される状況にある。インド及びその他アジア諸国の合計した需要量も、毎年20万バレル / 日程度は伸びてきており、このようにして供給増大の要請は毎年止まることなく続いている。
供給不安
需要量が着実に増える一方で、供給側の準備不足が顕著となってきている。原油の供給量増大に関しては課題があるとともに、製品の供給量についても課題が生じてきている。
供給量に関しては、生産量の増大が可能な国が限られてきている点が懸念材料となっている。中東の主要OPECのうちサウジアラビアにおいては確かに増産が可能と見られるものの、増産を行うと中重質の原油が生産されることになる。現在意図的に生産量を増やしている高価格の軽質及び超軽質油の生産量は維持するものの、本来の埋蔵量の比率から促されるような、市場ではあまり歓迎されない重質油の増産とその売りさばきに頭を悩ますこととなる。
一方、消費国においてはますます強まる環境規制の強化に対応するために、品質基準に適合する石油製品を製造・販売することが大きな負担となってきている。需要量は増えているものの、敢えて投資を行ってシェア獲得を目指すよりは、既存設備の高稼働率を維持して現存設備からの高リターン獲得を目指す戦略を採るほうが企業としては賢明な選択となっている。
在庫分析
需給が逼迫し、そのシグナルに反応して石油価格が上昇しているとすると、原油在庫及び石油製品在庫はともに低水準となるはずである。ところが石油在庫統計を見ると、2004年4月から6月の間で平均130万バレル / 日程度の原油・製品を合わせた在庫の積み増しがあったと推測される。こうした在庫量の増大、つまり市場が原油と製品で溢れ、タンクが一杯となる中、価格上昇が生じたのだとすると、石油市場が効果的に情報を発信していないのではないか、価格を発見してその価格を伝達する機能をうまく果たしていないのではないか疑われる。米国は戦略的石油備蓄(SPR)7億バレルを目指して毎年着実に積み増してきており、日々の積み増し量は平均すると7万バレル / 日程度となっている。7万バレル / 日は米国の消費量2,007万バレル / 日の0.3%であり、この積み増しがあったために原油価格が高騰していると言われるほどの量ではない。この米国のSPRの積み増し量のほかに、民間在庫が増え続ける現象が米国のガソリン、軽油等の石油製品について見られる以上、石油価格が2004年秋口においても依然として高止まりしたことは大きな問題である。在庫統計に関しては実際には補足しきれない部分が多いことはかねてから指摘されてきたが、今後、より補足率を上げる努力が必要であることは明らかである。化石燃料起源のCO2排出量のできるだけ正確な把握が地球温暖化対策となることからも、在庫統計のできるだけ正確な把握は重要である。
今後の課題
2004年9月15日にOPECは総会を開き、2004年11月から生産枠を100万バレル / 日だけ増大させて2,700万バレル / 日とすることで合意した。この生産量はOPECとしては過去最大(イラク含まず)である。実際は、この時期に既に生産枠を上回ってほぼ同量の2,700万バレル / 日を生産していたが、北半球の冬季に向かう暖房用の石油需要の増大の時期をうまく凌ぐためにも、OPECができるだけアナウンスメント効果を発揮することが必要であった。問題は、在庫量を始めとして、OPECの生産量についても同じく、ミッシングバレルと呼ばれることがあるように、石油統計には不確かな部分が多いことにある。消費者が納得できる理由で価格が上昇していることが説明できるようになるまで、石油産業関係者全てに対して、徹底的な情報開示を求めていく必要が生じている。
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