環境CSR論に新たな視点を
主席研究員 田邉 敏憲
2005年1月
要旨
CSR論の高まり
2004年6月初に、レスター・ブラウン博士を迎えての「レスターと探るCSRの本質」特別シンポジウム(グローバル・コンパクト、NPO法人環境経営学会主催)が開催された。こうしたCSR(企業の社会的責任)の本質論が求められ始めた背景として、次のような点が指摘されている。
1.欧州を中心にCSRへの要求がビジネス上看過できないところまできており、欧米の格付け機関の調査、商取引からもその必要性が増大した。
2.CSR格付けを基礎としたSRI(社会的責任投資)が盛んになり、日本企業でも資金調達や株価政策上からもCSRは無視できない状況になった。
3.経営トップにとって環境、倫理、社会貢献、情報開示といった項目も経営の中枢を占めるものとの認識が徐々に定着、従来の経済指標を中心とした企業経営、組織形態から脱却し、社会的責任を果たそうというCSR実践を目指す気運が高まっている。
4.ITの発達が、次のような観点から社会に対して公平・公明・公正さを要求している。すなわち、ITの発達は、世界中の人々にどこで何が起こっているか知ることを可能にし、社会全体が公平や不正に対し区別なく敏感になってきた。インターネットの発達は、企業の不正や事故情報の社内外からの告発を容易にし、その情報は瞬時に社会に広がる垣根のない時代となってきた。詳細なデータや因果関係のトラッキングが技術的に可能になってきた。
5.企業経営でも社会でも、従来の経済指標を中心に評価、報酬を与えるという社会システムに対し疑問を呈し、限界を悟り始めた。
こうした風潮を受けて、現在わが国で次々と生まれている種々の「環境格付け」機関の問題意識は、企業の環境対応をCSRの観点で評価しようという考え方が強い。
一方で、海外からの導入概念であるCSR論について日本流の理解も進んでいる。滋賀経済同友会では、そのルーツともいえる近江商人の「三方よし(売り手よし 買い手よし 世間よし)」経営理念を、“世間よし=社会的責任”と今日的な解釈をすることで実践を深化させつつある。
企業の環境対応に競争力強化視点を
日本企業の環境問題への対応姿勢には、大きく2つの面があった。まず公害防止規制のクリア。次いで、各種のリサイクル規制のクリアを求められているのが現段階である。2005年1月施行の自動車リサイクル法によって、リサイクル義務を通じた企業の環境対応は一応完了する。これに続くのは、京都議定書基準達成のためのCO2排出ルールなどへの対応となる。もう一つの流れが、社会構成員としての企業の倫理的な責任を問う動きへの対応である。これが上述の環境CSR論である。
実は企業の環境対応インセンティブとして重要なのが、「環境に優しい経営は即、企業の競争力強化に資する」という視点である。35年間環境問題に取り組んできたレスター・ブラウン博士のCSR本質論の捉え方も、企業自身が持続可能な存在であるには、「市場が発する生態的真実(ecological truth)」との対話しかない、というものである。すなわち環境問題が市場価格に適切に反映されないと企業の合理的行動に繋がらない、CSRといっても使えないとの見方である。政府などの役割も、こういった生態的真実の情報を発信できる市場の形成にある。具体的には、炭素税導入による各エネルギー源の環境負荷の明示化、あるいは現在世界的に低く過ぎる水資源価値の適正な市場価格への反映論などが指摘された。
こうした考え方は、環境問題に対して、現象面への対応ではなく、原因の除去といった発想が重要との視点、あるいはReduce・Reuse・Recycleを軸とした産業構造改革の必要性という視点そのものと理解される。
稀少資源の投入量削減が企業経営の鍵
このような問題意識は、高度成長で加熱気味の中国経済を起点とする、現在の世界経済及び日本経済の持続可能性について、より本質的な論点をも浮き彫りにする。インフレ財・サービスとデフレ財・サービスが並存する経済社会到来の予感である。
前者には、例えば中国五行思想の「木・火・土・金・水(もくかどごんすい)」という宇宙の構成要素たる資源が該当する。森林資源(木)、原油など化石エネルギー資源(火)、砂漠化により急速に失われている土資源、鉄鉱石・スクラップ鉄などの金属資源、更に水資源、あるいはその代理変数たる穀物(1,000倍もの水が必要)資源である。これらは高度経済成長及び人間の生存に不可欠な資源であるだけに、今後の需給逼迫、価格高騰は必至とみられている。
換言すると、21世紀の企業の生産性・競争力は、国際商品(一物一価)かつインフレ財ともいえる、これら資源の投入量(したがって排出量)を如何にReduceできるかに大きく依存することになる。日本の海外輸入依存度が極めて高いこれら資源の高騰予想を踏まえると、これまでの輸出入量の大きな差として国内に蓄積されてきたスクラップ鉄やプラスチック資源なども含めた国産資源の活用が合理的な日本企業の行動となってくる。これが企業のReuse活動であり、Recycle活動である。企業のReduce・Reuse・Recycleという環境対応行動は、企業の競争力強化と表裏の関係にあることが理解できる。省エネ・省資源・省プロセスは、企業の競争力強化とともに環境にやさしい経営の実現をも意味する。
こう考えると、「環境格付け」などにおいても、“買い手よし”は無論のこと、“売り手よし(企業の競争力強化)”、“世間よし(社会的責任を果たす)”という“三方よし番付”的な発想が欲しい。環境格付け機関では、企業に一方的にアンケート用紙を送って、規制やルールの順守度あるいはモラル度のチェックを行うだけでなく、企業の競争力強化に資する対話が成り立つような工夫が求められる。
こうした“三方よし番付”的な発想での環境格付けの定着で、日本の環境格付けが、欧米流手法とはまた異なった独創的なものとして世界に発信され得ることになる。
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