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米国経済の現状と見通し

富士通総研特別顧問(前米国商務省次官) ロバート・J・シャピロ

2004年10月

要約

・ 2004年第2四半期の成長率は年率2.8%となった。第1四半期の4.5%、2003年後半の6.2%からスローダウンしている。設備投資と住宅投資は好調さを持続しているものの、個人消費が減速したことに加え、貿易赤字の悪化も成長の鈍化につながった。

・ それでも2004年後半は減速しつつも、緩やかで健全な景気拡大を続ける見通しである。ただし、多くのエコノミストが予測していたよりも低成長となる。2004年通年の実質成長率は3.4~3.8%となろう。

・ 設備投資は空前の企業収益に支えられ、年内は好調さを維持する。住宅投資も低金利を背景に基調は引き続き強い。ただ、雇用拡大のテンポが遅いこと、実質賃金の低下、エネルギー価格の高騰、貿易赤字の拡大、金利上昇が成長を抑制する要因になる。

過去1年の軌跡

2001年第4四半期以降、スローペースの回復が2年近く続いた後、2003年後半以降の基調は非常に強いものであった。しかし、一部は自律的な要因以外に、減税、利下げなど政策的な要因に支えられた結果でもある。

・ 2004年第2四半期の結果は、強い設備投資・住宅投資と動きの鈍い個人消費・深刻な貿易赤字という実態を正確に反映した姿になっている。

2004年後半の見通し

・ 2004年後半から2005年にかけ、米国景気は強い逆風を覚悟しなくてはならない。まず、個人消費の伸びが抑制される。この理由は、[1]雇用創出力の弱さ、[2]高騰したエネルギー価格の高止まり、[3]インフレの進行とそれに伴う金利上昇 - の3つである。既に8月の消費者信頼感指数が急低下し、その兆候が現れている。以下、上記の3要因について簡単にコメントしよう。

・ [1] 雇用創出:2004年1~8月の8ヵ月で創出した雇用は、月平均14万人であり、これは人口増加率に見合うだけの増加である。すなわち、8月の雇用者対人口比率は62.4%であり、これは1月と同水準にとどまっているのである。この雇用拡大テンポは、1990年代後半の半分のペースである。また、2004 年に入って増えた雇用のうち、3分の2は低賃金の業種である。過去1年間、平均賃金はフラットであり、健康保険料などの上昇によって、実質的な受け取りは減少している。この結果、所得比で見た家計の債務残高は過去最高に達している。

・ [2] エネルギー価格:米国は原油輸入に依存しているため、エネルギー価格の高騰は消費の減退と他の財・サービス価格の上昇をもたらす。過去5ヵ月間のガソリン・燃料油価格は前年比で平均35%、最近2ヵ月では前年比40%も高くなっている。そして、先物市場の値動きは、2004年末にかけて今後更に原油価格が上昇することを示唆している。気候が寒くなることや、イラク、ロシア、ベネズエラ、ナイジェリアといった産油国の供給が回復しないことを織り込んだ値動きである。

・ [3] インフレと金利上昇:ほとんどの指標は、依然として緩やかではあるものの、インフレが進行していることを示している。2004年に入って、生産者価格は年率3.4%のペースで上昇しているが、これは昨年の2倍の上昇率に相当する。食料品・エネルギーを除くと、今年の上昇率は年率2%弱だが、これも昨年の2 倍である。更に、2004年前半の単位労働コストは年率1.8%上昇した。これは生産性の伸び率が低下していることに加え、退職給付・健康保険料負担が急上昇した結果である。インフレ率は水準としては依然低位だが、じわじわと上昇しつつあるので、FRBがこれ以上の金融緩和を進めることは不可能である。利上げが行われれば、家計債務が高水準に達しているため、家計は大きな打撃を被り、消費は急速に冷え込む。

・ 個人消費の減速以外に、米国経済の成長抑制要因となるのは、高水準の貿易・経常赤字である。貯蓄率が低下を続け、今や米国の消費者・企業は供給の多くを輸入に依存している。2004年前半の輸入は、前年同期比で1,030億ドルも増加した。このうちエネルギー関連の寄与は15%に過ぎない。輸出も確かに伸びてはいるが、輸入増加のペースを下回っている。貿易赤字の改善には更なるドル下落が必要である。

・ 最も明るい材料は企業の設備投資である。設備投資は、過去1年で10%以上増加しており、この傾向は少なくとも2004年中は続く見通しである。企業収益が空前の水準に達していることや、在庫水準の対売上比率が未曾有の低水準にあることが背景にある。更に、2004年いっぱいは、購入した機器の半分を利益から控除できる税制優遇措置も設備投資を後押しする。

GDP成長率と需要項目別の推移
(前期比年率、%)
2003年Q-3 Q-4 2003通年 2004年Q-1 Q-2
GDP 7.4 4.2 3.1 4.5 2.8
個人消費 5.0 3.6 3.1 4.1 1.6
設備投資 15.7 11.0 3.0 4.2 12.1
住宅投資 22.4 9.6 7.5 5.0 14.7
輸出 11.3 17.5 2.0 7.3 6.1
輸入 2.8 17.1 4.0 10.6 14.1
政府支出 0.1 1.6 3.3 2.5 2.4

(注)Q1、Q2、…はそれぞれ第1四半期(1 - 3月期)、第2四半期(4 - 6月期)、…を示す。

現拡大局面が過去の循環と異なる点

・ 現在の景気拡大局面において最大の問題点は、雇用と所得の伸びが十分でないことである。2001年の景気後退期は雇用の対GDP弾性値が前回の後退局面の3~4倍と、厳しい雇用削減圧力にさらされた。また、前回の回復期(1990年代初頭)は、回復を始めて32ヵ月間で20万人以上の雇用を生み出した月が14ヵ月あったのに対して、今回復期は32ヵ月間でたったの3ヵ月に過ぎない。2002年以降、前回復期のペースで雇用が増えていれば、現在の雇用者は実際よりも300万人多くなったはずである。
・ 雇用増加のペースが鈍いため、平均実質賃金と家計の実質所得は3年連続で低下している。時間当たりの名目賃金上昇率を見ると、過去 12ヵ月間続けてインフレ率を1%ポイント以上下回っている。また、家計の所得は全体としては、最近6ヵ月間ほとんど変わっていない一方、所得が増加したのは、上位5分の1に入る高所得者層にほぼ限られる。

・ こうした二極化の背景には、WTOに象徴される1990年代の国際競争の激化が挙げられる。企業は競争激化に対応するために、生産性向上を迫られる一方、コスト上昇分を製品価格に転嫁することは著しく困難になった。米国企業は主に、労働分配率の引き下げによって、競争圧力に対抗する道を選んだ。
・ こうした状況下で、連邦政府はこれまで拡張的な財政金融政策をとり続けてきたが、既に政策余地はなくなってきている。エネルギー供給や為替レートなど外的な環境変化への対応力が脆弱になっているのである。

設備投資:2004年景気の牽引役として

・ 設備投資は、機械・ソフトウエアを中心に少なくとも2004年中は好調さを持続する。このことは、今後個人消費が更に減速しても、年内は税額控除のインセンティブがあるため、確実である。

・ ただ、2005年の見通しとなると、それほどバラ色ではない。特に、エネルギー価格の高止まりや米国・中国経済の減速が、世界経済に悪影響を及ぼすようなことがあれば、米国の設備投資が順調に拡大するのは難しい。

・ 機械・ソフトウエアの中でも、コンピューター・周辺機器への投資が特に好調であり、2004年第2四半期に上昇率を高めている。ソフトウエアも堅調さを保っている。そして、輸送機械・産業機械もついに増加基調に入った。

・ IT投資は全体として今年いっぱい好調さを持続する見通しだが、パソコンや周辺機器の販売は、個人消費全体の減速に影響を受け、それほど好調には推移しないであろう。

悪化する貿易・経常赤字

・ 2004年に入って、米国の貿易赤字・経常赤字は大方の予想に反して急速に悪化している。この背景には、米国の貯蓄率低下とドル下落が阻まれているという2つの要因がある。

・ まず貯蓄率低下だが、1990年代に4.8%あった民間貯蓄率は2000年以降の平均で3%まで落ちてしまった。国民純貯蓄率は同じ期間の比較で、5.3%から2%へ落ちた。外国からの資本流入に頼らざるを得ない状況が起こっている。
・ 為替に関しては、ドル実効レートが2002年2月から2004年1月までの2年間で実質24.6%減価したが、今年1月以降は逆に2.7%上昇している。
・ 注目すべきは、外資の構成が変化していることである。2000年から2002年までは、外資のネット流入のうち、米国市場の高収益率を狙った民間部門の比率が高く、外国政府の比率は8%に過ぎなかった。しかし、2003年9月から2004年6月にかけて、外国政府の対米投資が急増し、ネットの資本流入の35%を占めるに至った。これは、日本などが自国の輸出競争力を維持するために、ドルを買い支えた結果と見られる。この結果、アジアを中心に世界各国の外貨準備高のうちドル資産が70%を占めるに至っている

・ 以前に各国政府がドルを買い支えた1987年には世界的な株価下落が起こった。現在の状況は、ドルの急落と長期金利の急騰を通じて米国経済・世界経済に打撃を与えるリスクを高めつつある。例えば、中国経済の減速が引き金となって、中国が米国債購入を減額するといったシナリオが考えられる。中国経済の減速が日本経済に悪影響を及ぼし、日本による米国債購入が減額される可能性もある。

米国の貿易・経常収支の動き
貿易赤字 (10億ドル) 経常赤字 (10億ドル) 対GDP比 (%)
2002年 Q-1 93.8 110.2 4.27
Q-2 103.4 117.9 4.52
Q-3 106.9 119.0 4.52
Q-4 117.8 126.9 4.78
2002年通年 421.7 474.0 4.52
2003年 Q-1 125.4 138.2 5.15
Q-2 123.4 133.9 4.94
Q-3 122.3 131.6 4.74
Q-4 125.5 127.0 4.51
2003年通年 496.5 530.7 4.83
2004年 Q-1 136.9 144.9 5.05
Q-2 150.8 156.0 5.32

米国の貿易・経常収支の動き

貿易赤字
(10億ドル)経常赤字
(10億ドル)対GDP比
(%)2002年  Q-193.8110.24.27Q-2103.4117.94.52Q-3106.9119.04.52Q-4117.8126.94.782002年通年  421.7474.04.522003年  Q-1125.4138.25.15Q-2123.4133.94.94Q-3122.3131.64.74Q-4125.5127.04.512003年通年  496.5530.74.832004年  Q-1136.9144.95.05Q-2150.8156.05.32

Q1、Q2、…はそれぞれ第1四半期(1 - 3月期)、第2四半期(4 - 6月期)、…を示す。2004年Q-2は見込み値。

*本稿は、富士通総研特別顧問Robert J. Shapiro氏(SONECON代表、前米国商務次官)の四半期報告“The U.S. Economic Outlook for the Second Half of 2004"をもとに、本人の許諾を得て要約したものである。(要約は長島直樹主任研究員による)

HE U.S. ECONOMIC OUTLOOK FOR THE SECOND HALF OF 2004

Managing Director of Sonecon, LLC (Former Under Secretary of Commerce for Economic Affairs) Robert J. Shapiro

SUMMARY

The U.S. economy will expand at a moderate to healthy pace in the second half of 2004, growing more slowly than many observers and analysts have expected. The various forces tempering the U.S. expansion are high energy prices, declining real wages, weak job creation, record trade deficits and rising interest rates. If America's economic problems worsen, China's slowdown deepens, and world oil prices remain high, we could see a global downturn in 2005.

U.S. GDP expanded at a 2.8 percent rate in the second quarter of 2004, a major deceleration from the first-quarter pace of 4.5 percent and the 6.2 percent growth rate in the second half of 2003. Business investment and housing have remained strong, but consumer spending weakened sharply and the trade deficit has widened. Early data for the third quarter suggest that U.S. growth will remain moderate. The forces weakening consumption have not improved; and while retail sales gained strength in July, consumer confidence fell significantly in August. Similarly, the trade deficit has widened further; and while factory orders grew in July, industrial production remained flat.

In the second half of 2004, the U.S. expansion will be sustained mainly by investment. Strong business capital spending, financed by record profits, will be spurred by historically-low inventory-sales ratios and investment tax benefits set to expire on December 31st. Housing investment also should remain healthy in the second half, so long as the economy's softness keeps mortgage rates low. However, consumer spending, which sustained the expansion in 2002 and 2003, will play a smaller role. This year's 35 percent jump in energy prices will dampen consumption of non-energy goods and services. And those prices are not likely to decline significantly: Demand for energy will increase as the weather grows colder, while current supply disruptions in the Middle East, Venezuela, Russia and Nigeria are not likely to be resolved. Labor and wage markets also will temper consumption and growth: American businesses continue to create jobs at less than half the rate of previous recoveries; and until that changes, falling real wages and stagnating incomes are likely to persist. Finally, the record U.S. trade and current account deficits -- already at levels above those that triggered the 1987 crises with the dollar and global stock markets - will continue to hamper growth.

Three months ago, we correctly forecast that U.S. growth was slowing down, even as the "Bluechip" consensus forecast of Wall Street and business economists was predicting a boom year. Our view has not changed: We expect U.S. GDP to grow 3.4 percent to 3.8 percent this year, with growth slower in the second half than in the first half of the year.

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