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我が国におけるオルタナティブバンク事業の萌芽

主任研究員 生田 孝史

2004年10月

要旨

環境に配慮した金融事業の要請

環境に配慮した金融事業について、欧米では、1990年代前半から取り組みが目立ってきたが、我が国の金融機関の多くは、不良債権処理に追われていたこともあり、環境配慮型事業への移行が遅れていた。昨年10月に開催された国連環境計画金融イニシアチブ東京会議は、国内金融機関の対応の遅れを再認識し、早期対応の必要性を確認させられるものであった。

遅ればせながら、国内の金融機関の環境配慮型事業への取り組みも、徐々に進められている。銀行・信託業の環境マネジメントシステム(ISO14001)の取得件数は2000年度末の12件から04年6月末には39件に急増し、環境報告の実施も、01年8月の17社から03年末には43社に増加した。また、企業や事業の環境・社会面での取り組みを配慮したスクリーニングの実施や審査ガイドラインを策定する金融機関も増えつつある。

環境配慮型の金融事業は、投融資先への資金調達面での影響を通じて、社会全体の環境配慮行動を誘導するためにも大変重要である。金融事業に付加価値をつけるためには、本業における環境リスクへの対応に加えて、環境配慮型の金融商品の提供が望まれる。

欧米でのオルタナティブバンクの成長

欧米の環境関連金融ビジネスの特徴として、オルタナティブバンクの存在がある。オルタナティブバンクとは「従来型とは異なる銀行」の総称であり、環境問題や社会問題の解決という明確なミッションを持ち、そのミッションに共感する預金者から資金を調達し、環境・社会問題の解決に資する企業やプロジェクトに融資する金融機関である。実際の業務内容は多種多様であり、その特徴によって、エシカル(倫理的)バンクあるいはサステナブルバンクを名乗る金融機関もある。

これらの金融機関は、環境・社会面での厳しい融資基準を持つとともに、ユニークな環境金融商品を提案している。英コーポレーティブバンクは、金利の一部を植林に使用して借り手の温暖化対応への貢献とすることができる自動車・住宅ローン商品を提供している。米ショアバンクでは、貸出先を環境保全関連事業に限定した預金口座を開設して顧客ニーズに応えている。オランダを拠点に欧州で事業展開をするトリオドスバンクは、社会・環境・文化的活動を行う団体や企業への投融資に特化した金融サービスを行い、独自性を出している。

オルタナティブバンクは1970年代頃から現れ始めたが、最近の成長は目覚しい。前述のコーポレーティブバンクの総資産(2003年末94.8億ポンド)は98年~03年の5年間で71%増加、ショアバンク(総資産:03年末15.2億ドル)も同じく68%増、トリオドスバンク(総資産:03年末9.6億ユーロ)にいたっては、同期間で174%もの増加となっている。

国内のオルタナティブバンク事業拡大への期待

欧米におけるオルタナティブバンクの成功は、環境・社会性への配慮という事業領域を確立し、拡大する顧客ニーズに対応した金融商品を提案していることにある。

我が国においても、環境問題や健康・安全性、企業の社会性等に対する企業や個人の関心は高まっており、潜在的にはオルタナティブバンクが存立する基盤はあると考えられる。家計の金融資産1,400兆円の1%が環境・社会性の高い金融サービスを志向しただけでも、その市場規模はトリオドスバンク10社分に相当する計算となる。

我が国で専業のオルタナティブバンクといえばNPOだけであり、規模も小さい。約10年の歴史を持つ未来バンク事業組合は成功例であるが、出資額は1億円強である。最近では、坂本龍一氏など数名のミュージシャンの出資によって設立されたAPバンクが、今年5月に自然エネルギーや環境に関するプロジェクトからの融資希望を募り、今夏から具体的な融資に入ることで、注目を集めている。

既存の金融機関では、地方銀行を中心に環境配慮型商品の開発が熱心に行われている。例えば、滋賀銀行は、環境意識の高い顧客からの資金調達に積極的であり、ATMやインターネットバンキング等による預け入れに伴う経費削減部分を琵琶湖の環境保全活動を行うNPO基金に寄付する定期預金や、信託報酬の一部を同基金に拠出する投資信託商品の提供を2003年から開始している。また、事業者の環境保全活動や個人の環境保全型商品購入に対して、金利を優遇する環境保全型ローンのメニューを拡充する金融機関も増えてきており、滋賀銀行のほか、八十二銀行(長野)や百五銀行(三重)でも、積極的な環境配慮型の融資活動を行っている。これらの活動は、環境配慮型事業の推進に役立つとともに、地域社会と共生する姿を示すことで、金融機関自身の価値向上をもたらし、取引拡大や人材確保など金融機関の体力強化につながる効果をもたらすことが期待されている。

オルタナティブバンク事業は、顧客ニーズに適合し、持続可能な社会の構築に向けた資金循環を促す金融事業として、積極的な取り組みが期待される。専業金融機関の設立、あるいは既存金融機関によるオルタナティブバンク事業拡大のいずれであれ、貸し手と借り手と社会全体がwin-win-winとなるような金融商品の提案力が試されている。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 我が国におけるオルタナティブバンク事業の萌芽 [244 KB]