乗用車では2002年においてもスマイルカーブ化は観察されない
主任研究員 木村 達也
2004年10月
要旨
スマイルカーブ化現象論の拡がりと検証への取組み
近年スマイルカーブ化現象論が拡がりをみせている。スマイルカーブ化現象論とは、加工組立型製造業を中心とした製品の原材料・部品 - 加工組立 - 販売 - サービス等というバリューチェーンにおいて、従来は高かった加工組立の付加価値(率)もしくは利益(率)がグローバル競争の進展のもとで低下し、原材料・部品やサービス等のバリューチェーンの両端における付加価値(率)もしくは利益(率)が上昇したとするものである。その結果、バリューチェーンの付加価値(率)もしくは利益(率)を川上から川下へ並べると、笑った口のようなカーブとなることからその名がついている。
スマイルカーブ化の議論は拡がりをみせているものの概念的なものが中心で、データによる裏づけを伴うものは少ない。筆者は、このようなスマイルカーブ現象の実証研究を、産業連関表のデータなどを用い加工組立型製造業全体と個別6業種(民生用電子機器、民生用電気機器、電子計算機・同付属装置、通信機械、乗用車、トラック・バス・その他の自動車)のバリューチェーンを対象に行い、その結果を当研究所の研究レポートNo.167「わが国加工組立型製造業におけるスマイルカーブ化現象 - 検証と対応」に示した。しかし、この実証研究は99年までのもので、近年の中国などアジア諸国における工業化の著しい進展や、製品のデジタル化や部品のモジュール化の進展を反映していない。そこで今般、対象を乗用車のバリューチェーンに限り、02年まで分析期間を延ばし実証を行ってみた。
電子計算機・同付属装置に唯一観察されたスマイルカーブ化
前回の研究における実証結果の要点は、以下のとおりである。[1]加工組立型製造業全体では、スマイルカーブ化は顕著ではなく、90年代後半の特徴はカーブ全体の下ずれである。[2]電子計算機・同付属装置等の個別3業種ではスマイルカーブ化が観察される。[3]他の3業種ではスマイルカーブ化は観察されず、そのうち民生用電気機器ではむしろ90年代後半にその利益率が相対的に高まり、スマイルカーブ化と逆の状況が観察される。[4]乗用車では、加工組立型製造業全体と同様90年代後半にカーブ全体の下ずれがみられるが、スマイルカーブ化は観察されない。
スマイルカーブ化が観察された3業種についても、90年代における労働分配率の上昇の影響を除きカーブを再計測すると、スマイルカーブ化が観察されたのは電子計算機・同付属装置のみとなった。したがってスマイルカーブ化の議論で背景にあるとされるメカニズム、製品の中核部品の標準化やモジュール化の進展による参入増加による付加価値率の縮小からの利益率(総資本営業余剰率)の低下というメカニズムによるスマイルカーブ化は、99年までは非常に限定的なものであることが判明した。
乗用車では2002年においてもスマイルカーブ化は観察されない
2002年まで分析期間を延長した乗用車における実証結果はグラフに示したとおりで、2002年は90年代後半と比べ原材料・部品の利益率の低下が相対的に大きいが、スマイルカーブ化は依然観察されなかった。また労働分配率の上昇の影響を除いた計測(労働分配率が85年と同レベルであるとの仮定のもとでの計測)では、乗用車の利益率(総資本営業余剰率)は、2002年に90~99年と同様に原材料・部品やサービスの利益率より高く、スマイルカーブとは逆の状況が継続していることが示された。
このような乗用車と、99年までの実証でスマイルカーブ化が観察された電子計算機・同付属装置の実証結果の相違は、両者の製品・工程アーキテクチャが異なることから生じていると考えられる。乗用車のアーキテクチャは、各モジュール(部品)が多くの機能を担うため、モジュール間の設計での微調整、緊密な連携が必要なインテグラル型であり、またモジュール間のインターフェースのルールが1社で完結しているクローズ型でもある。一方電子計算機・同付属装置のアーキテクチャは、機能とモジュール(部品)との関係が1対1に近く各部品の独立性が高い一方で、部品間のインターフェースのルールが重要となるモジュラー型である。またインターフェースのルールは、業界レベルで標準化したオープン型でもある。すなわち、乗用車はインテグラル・クローズ型であるため容易に新規参入ができず、電子計算機・同付属装置はモジュラー・オープン型であるため、寄せ集め設計でも製品は機能し、新規参入が容易と考えられる。こうした特性の相違が、競争環境などの違いから、両者におけるスマイルカーブ化の状況の相違につながったと考えられる。
したがって、乗用車、電子計算機・同付属装置以外でも、モジュラー・オープン型に近い業種ほどスマイルカーブ化が進む可能性が高く、インテグラル・クローズ型に近い業種ほど容易にスマイルカーブ化は進まないものと考えられる。

( 注 )図表の凡例の数値は年。
(資料)大蔵省『財政金融統計月報(法人企業統計年報特集)』、総務庁『昭和60 - 平成2 - 7年接続産業連関表』、経済産業省経済産業政策局調査統計部『平成9年産業連関表(延長表)』、『平成11年産業連関表(延長表)』、経済産業省経済産業政策局調査統計部資料、経済産業省『平成14年簡易延長産業連関表』
全文はPDFファイルをご参照ください。
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