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  5. 日本経済の復活と需要創出型構造改革

日本経済の復活と需要創出型構造改革

富士通総研経済研究所理事長 島田 晴雄

2004年10月

要旨

現在の日本経済は、デフレの中で景気回復が起こっており、企業は逆境のなか自己革新を起こし、収益を上げている。また同時に日本は、貯蓄率・貯蓄構造の変化、企業のR&D投資の強化、公的セクターの荷重の増大、少子・高齢化というメガトレンドの大転換にある。こうしたなか経済活力創出の構図は、企業の自己改革を促進する環境整備、対日投資の増進、少子高齢化制約の克服、需要創出型構造改革に見出すことができる。

1.現在の景気回復について

現在の日本経済は、好循環にある。株価はこの1年半に一直線で上昇し、企業の収益も改善してきている。日本経済は、5年前からデフレ基調で、特に一昨年くらい前までの3年程度、深刻なデフレスパイラルに落ち込んでいた。デフレ経済では、モノやサービスを同じように提供し続けると単価が下がり、売上高は減少する。すなわちコスト構造が変化しなければ赤字になるのであり、多くの企業がイノベーションを行い、収益をあげているのである。

イノベーションとは、[1]新しい商品を開発し提供する、[2]新しい市場を開拓する、[3]抜本的に企業の構造改革をする、という3つの企業戦略である。ここ1年間の成果は、おそらく、5年も10年も前からの取り組みの成果である。90年代は、失われた10年と言われるが、企業セクターにとってイノベーティブな時代であった可能性がある。

このような景気回復の持続性を担保するため、経済政策が必要である。経済政策には、伝統的なケインジアンミックスという財政金融の組み合わせがあるが、この政策は最近5年間くらい効果に乏しい。これは金利を引き下げる余地が無くなり、金融による刺激ができなくなったことが一因である。更に現在の財政悪化のもとでは、国債発効による財政政策は、国債価格の下落、長期金利の上昇により、国債を運用している多くの金融機関や、住宅を購入する若い家計へのインパクトが大きい。そのため、短期的、中期的な経済の底支えをケインジアンミックスで行うことができない時代が来ている。

こうしたなか景気回復の持続性には、消費が重要となる。GDPの6割以上を消費が占めるため、高齢・成熟社会の底堅い消費が、豊かな消費として続く可能性があるかどうかが鍵になる。現在、輸出から投資へ、投資から消費へと好循環が作動しつつあるが、消費がどのくらい底堅く支えてくれるかが問題となる。

2.メガトレンドの大転換

中長期的な問題を考える前に、現在の日本経済におけるトレンドの大転換を以下に確認する。

(1) 貯蓄率、貯蓄構造の変化
>90年代初頭、世界の主要国の中で、日本の貯蓄率は最も高かったが、この2年間で、フランス、ドイツを下回り、現在はイギリスと同程度である。今後アメリカの貯蓄率が上がり、アメリカ以下になる可能性もある。この原因は、高齢化により、ディスセービングの世代が増えていることにある。短期的な変化は不況によるものとも考えられるが、高齢化による構造的な変化が大きい場合、数年後に日本が世界で最も貯蓄率の低い国の1つになる可能性がある。家計部門の貯蓄で、企業セクター、国の赤字をファイナンスするということが不可能になる。

貯蓄率の観点から、もう一つ注目される点に、非金融法人企業(一般企業)の貯蓄率が上がっていることがある。伝統的に、家計は黒字、国は赤字、企業も赤字であったが、現在企業の投資の選択が極めて厳密になり、非効率な投資はせず内部留保を強化している。企業セクターの姿は、従来と大きく変ったものを我々は想定する必要がある。

(2) 企業のR&D投資の強化
>デフレのもとで企業が利益を出すためには、イノベーションが必要であるが、そのために取り組んだ成果が出てきている。内部留保を蓄積しながら、技術革新により、競争力を高めているとみられる。主要国の研究費の推移をみると、90年代の日本は、ゼロ成長、マイナス成長のなか、企業の研究費は一段と増強された。R&Dの効率性については評価が分かれるが、諸外国の中でも最も熱心に研究投資をしていた国が日本だった点は注目できる。また、アメリカの研究投資の半分以上は軍事関係で、民間が突出して行ったことが日本の企業の競争力の強化につながった可能性がある。

技術貿易についても、変化がある。日本は、今まで諸外国からノウハウを学び特許料を払ってきたが、そうした状況の20年間に、企業セクターが自力で技術革新行った結果として特許料の受取りが増え、去年くらいからサービスの受け取りが支払を上回り始めた。これは、企業セクターそのものが質的に高度化してきた可能性を示し、今後企業セクターの力をより強化していく政策対応が重要となる。

(3) 公的セクター荷重の増大
政府の債務残高のGDP比について、日本は、10年前まで非常に良いパフォーマンスを示していたが、21世紀に入って累積債務のGDP比が154%に達している。財政収支も、10年前にはプラスであったが、現在はGDP比で - 7.4%と、他国にはない赤字の大きさになっている。

更に社会資本は、民間資本に比べ使用効率が低いが、最近ますます低くなっている。これには、バブルの時代の不幸な要因がある。膨大な資金が公的部門に流れ、非効率を加速したと考えられる。更に90年代の経済低迷により、宮沢政権から、小渕政権、森政権に至るまでに、景気対策のため100兆円を超える莫大な財政支出が行われ、公的部門の非効率が加速された。10年前までは黒字であった日本の財政収支に、この数年間で歴史的な大転換が起きている。

(4) 少子・高齢化の衝撃
人口動態を見ると、世界のなかで日本の出生率低下は突出している。高齢化社会ではディスセービング世代が増え貯蓄率が減り、少子化のもとでは労働力が減少する。すなわち資金と労働力が減り、経済は成長力を失う。またこうした社会は、大きな財政負担にもつながっている。年金・医療・介護の負担が膨張し、総税収の43兆円に対し、医療・年金・福祉関連の支出は86兆円(2004年の予算ベース)と破綻国家ともいえる状況である。厚生労働省は、医療・年金・福祉関連の支出が2025年に176兆円まで膨張すると推計しており、このような支出をどこからファイナンスするかが問題である。

3.日本の再生と構造改革

このようなメガトレンドの大転換のなか、21世紀の繁栄の方程式を、どう築くかが大きな課題である。経済活力を作り出すには、供給サイドと需要サイド双方をパワーアップする必要がある。供給サイドは、労働力、資本、技術についてのパワーアップが必要である。需要サイドは、民間消費が一番重要であり、民間住宅投資も重要である。労働力、資本、技術がパワーアップし、民間消費、住宅投資が活発になれば、日本経済は長期的に活性化する可能性がある。こうした改革を戦略的に進めるため重要な4つの事項を以下に述べる。

(1) 企業の自己革新を促進する環境整備
R&D投資を行い易い環境を整備するためには、多少の税制優遇も必要だが、人材育成や知的財産の保護が重要である。更に、産業再編、再生を行い、資源を効率の高いところへ集中的に投下できるようにする必要がある。5、6年前から不良債権の処理と併せて、産業再生を推進するために企業組織再編の法制が整備され、効果を表し始めている。

(2) 対日投資の増進
日本企業は対外直接投資が多い一方で、対内直接投資は最近数年間伸びてはいるが、水準が低い。主要国の対内直接投資残高のGDP比を見ると、諸外国が20%~40%の水準にあるなか日本は2%である。対内直接投資の重要性は、日本の再生のために外からの資源を入れる点にある。小泉総理大臣は、2001年末を起点にして5年後に対内直接投資残高を倍増させる基本方針を持っている。日本には、資本も人材も十分にあるが、金融セクターが不良債権の制約でリスクのある事業に積極融資ができなかった。フレッシュな資本を、外から持ち込むことが重要である。対内直接投資は資本の面だけではなく、技術、人材の面でも重要である。人材の面では、日産自動車のカルロス・ゴーンが良い例である。

(3) 高齢・少子化制約の克服
出生率の低下は、フランス、スウェーデンでは回復したが、日本は下がる一方である。実態は常に公式の推計を下回り、政策のめどがたたなくなっている。子どもを産むのは本人の選択だが、子どもや家族を支援するために使う公的資金と、出生率には相関がある。日本は、社会支出全体に占める家族支援政策関連支出が主要先進国のなかで一番少なく、合計特殊出生率も一番低い。家族支援政策関連支出のGDP比を見ると、平均的な国の3分の1から4分の1であり、政策的対応により高齢・少子化の制約を克服できる可能性が残されている。

(4) 需要創出型構造改革
日本経済は、戦後の50年間アメリカに工業製品を戦略的に輸出してきた。すなわちアメリカの消費に対して、日本は工場の役割を演じてきたが、世界の工場の役割は現在、中国に移りつつある。今後日本は、国内の消費の潜在的実態に応じた供給体制を築いていく必要がある。日本の最終需要はサービスが中心であり、潜在的なサービス需要を顕在化させ増加させることが重要である。

しかし日本は、生活者に直結したサービスのほとんどが、官業もしくは特殊法人により供給されており、サービス需要が増えにくい。戦後50年間民間部門は、アメリカへの輸出に最大の関心があった。そのため政府が特殊法人を作り、補助金を出し、医療、子育て、介護、教育などを行ってきた。しかし、経済成長が屈折し、税収は支出の半分という状況のもとで補助金が出せなくなってきている。

こうした状況では、規制改革を行い、特殊法人の門戸を開放する必要がある。多数の一般企業の参入による様々なサービスの潤沢な提供により、人々の選択の余地を広げ、世界最大の貯蓄を持つ日本国民の潜在的な需要を創出する必要がある。これが需要創造型構造改革である。

4.530万人雇用創出計画

雇用面からみた需要創出型構造改革には、530万人の雇用創出計画がある。既に200万人の雇用創出が実現し、今後300万人の創出を加速実現しようとしている。具体的には、この計画は7つのプログラムを持つ。

[1] 高齢者ケアサービス
現在は、要介護老人の人数に対し、補助金を受ける施設に入所できる人は大変少なく、補助金を受けられない有料老人ホームは非常に高額な費用が必要であるため、現在政府は、普通の人の年金程度で安心して入所できる仕組みを作ろうとしている。安心ハウスというものを全国各地に造り始めている。

[2] 子育て支援サービス
一般企業がお互いに連携をして、企業の施設を使い子育ての支援を行う。自宅の近くに自分の会社の施設がない場合、他の会社の施設を使用できる共同ネットワークを作るというものである。

[3] 医療情報サービス
日本では、医療情報が公開されず、不透明である。現在先進的な実験として、カルテを電子化して、患者が自宅のパソコンや携帯から、自分の病状を把握できるような仕組みを作ろうとしている。

[4] 健康づくり支援サービス
経済産業省が健康サービス産業創出支援事業において、地域活動組織により住民等に対する新たな健康サービス提供に取り組むプロジェクト事業を、公募実施している。この事業では雇用創出と共に、医療費削減効果が期待される。

[5] 生活者移動支援サービス
高齢化社会の生活者の足としての共同自家用運転手産業を作ろうと、国家予算による実証実験を各地で行い、現在一部事業化に入る状況にある。

[6] 住宅関連サービス
現在の日本の家屋は、30年経つと価値がなくなり非効率である。これは中古住宅流通市場がなかったことが大きい。今後人口が減少し、住宅は過剰になると考えられるが、中古住宅流通は大きなビジネスとなりうる。

[7] 観光産業の再生と進化日本は、観光赤字国である。全国各地に素晴らしい観光資源があるが、観光とは、自分の生活文化に誇りを持つことがコンテンツとなり、ブランドとなるものである。また、究極の観光として、高齢者のための、定住観光がある。高齢化社会のメリットとして、仕事のない地域も、定年退職者が定住する地域となり得る。

これらのプログラムよる構造改革から、サービス産業が創出され、雇用が生まれ、所得も生まれ、その結果貯蓄もできるという明るい好循環が実現する。すなわち需要創出型構造改革は、明るい構造改革である。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 日本経済の復活と需要創出型構造改革 [305 KB]