少子化克服の対応と展望
上級研究員 渥美 由喜
2004年7月
問題提起
わが国の少子化の進展は、将来的に経済・社会に大きなインパクトを与えかねないという懸念が強まる中で、90年代以降、政府は様々な対策を講じてきた。しかしながら、出生率は依然として低迷している。今後、少子化対策を国の重要戦略と位置付け、本腰を入れて取り組むことが喫緊の課題と言える。
そこで、「日本における急速な少子化の流れを、どのようにして克服していったらよいか」という問題意識の下、識者を集めてコンファランスを開催した(4月21日(水曜日))
今回のコンファレンスでは、基調講演において、北海道大学の金子勇氏が「少子化対策に社会全体で取り組み、世代間・世代内の公平性を満たす10原則」を提示した後、当社の渥美由喜上級研究員より、今後の出生・育児関連施策の在り方について、具体的な政策提言を行った。パネルディスカッションでは、わが国の少子化対策について造詣の深い京都大学の橘木俊詔氏、読売新聞の榊原智子氏、NPO法人「びーのびーの」の奥山千鶴子氏を加え、少子化克服のための具体策につき活発な議論を展開した。
第 I 部
<基調講演>『社会全体での共生と少子化対策10原則』 講師 : 北海道大学 教授 金子 勇 氏
少子化と長寿化によって、日本はまもなく還暦社会を迎える。少子化対策は社会全体で取り組む必要があり、これを世代間・世代内の公平性を満たしつつ実行していくための10原則を提示したい。
原則1 原因と処方箋を対応させ、診断、対策、予測を一体化させ問題解決に取組む。
原則2 子どもは公共財という認識を共有し、社会全体で子育てを支援する。
原則3 社会構成員は男女ではなく、老若男女であるという出発点を確認する。
原則4 社会の平等はもちろん、世代内と世代間の公平性を最優先に確保する。
原則5 個人の合理的選択が社会の不合理を生むのが、少子化の恐ろしさである。
原則6 個人の生き方レベルだけの議論をせず、社会的視点を堅持する。
原則7 単年度で何を行い、10年間で何ができるかを計画する。
原則8 必要条件は保育育児だが、十分条件は社会全体の改変を含む。
原則9 対策の手段と目的の区別をする。
原則10 社会全体で負担と受益の均衡を図るため、「子育て基金」を提唱する。
<研究報告>『少子化克服の対応策』 報告者 : 渥美 由喜
少子化問題は出産というデリケートな問題を含み、物言えば唇寒い風潮がある。最近、政府は次世代育成支援に力を入れているが、今一つ踏み込みが足りない
そこで、広く議論を起こすため、あえて大胆な提言で一石を投じてみたい。
第1に、「シングルマザー」を積極的に支援することを提言したい。わが国の未婚率は高まる一方で、諸外国と比べても高い水準にある。未婚者の中には、結婚するつもりはないが子どもを希望する人が、厚労省のデータを基にした当社推計で49万人いる(希望子ども数は平均1.9人)。ところが、実際の婚外子は年間で2万人に過ぎない。
希望と現実に大きなギャップがある背景には、社会的差別を気にして、産みたいけれど諦めてしまうケースが相当数あると推測される。日本には出生登録や相続などで婚外子を差別する規定がある。今年1月、国連子どもの権利委員会は差別規定の廃止を日本に勧告した。ちなみに欧米諸国では既に廃止されている。
「シングルマザー」を普通に受け入れて、支援する社会が望ましい。具体的にはホームヘルパーを派遣して、生活支援サービスを提供する方法がある。“少子化対策先進国”のフランスでは婚外子の割合が4割に近い。親の結婚形態とは関係なく、宿った命には生まれてくる権利がある。
第2に、すべての子育て家庭に「保育サービス利用券」を配布することを提案する。現在、公立・認可保育所にだけ手厚い補助が行われており、施設を利用するか否かで、子育て世帯が受け取る経済的援助には10倍以上の格差がある。
この点、各世帯に直接、保育利用券を配布すれば、それぞれニーズに応じてサービスが選べる。そうすれば、事業者間の競争も促され、サービスの多様化も進む。利用券を使わずに家庭で育てる世帯には、利用券の一定割合を在宅育児手当として給付する。
第3に、「保育専用車両」を朝夕の通勤ラッシュ時に設けることを提案したい。深夜の私鉄で見かける女性専用車両の育児版である。最近、企業も子育て支援に力を入れており、職場や最寄駅近くの保育施設に子を預ける親は増えている。それだけに、親子が安心して利用できる交通機関が強く求められている。
同様に、介護タクシーの育児版「保育タクシー」も導入したい。共働きの親が保育施設の終了時刻に子どもを迎えにいくのは容易ではない。地域における子育ての支援事業として進められている「子育てサポーター」の資格を持つタクシー運転手に、子どもの送迎を頼んだ場合、料金の一部を公的に肩代わりする仕組みを検討してはどうか。
第4に、日本では政府の子ども・家族関連支出が諸外国と比べて際立って低い。逆に、高齢者関連支出は増大する一方である。高齢者の投票率は他の年齢層より高いため、多くの政治家は票になる高齢者の顔色を伺う。それを子どもへ向かせるには、思い切った選挙制度改革も検討に値する。例えば、投票価値の平等の問題はあるが、子どもを持つ親に、未成年の子どもの数に応じて投票権を加算する方法はいかがであろうか。
この他にも、保育園設立規制の緩和、「子育て基金」によって自治体に基金を配分するシステムの構築、「つどいの広場」事業の拡充、ITを活用した情報ネットワークの活用、企業経営者がトップダウンで育休を取りやすい環境作り、育児期間に応じたボーナスを「第三の年金」として給付、といった方策が考えられる。
以上の提案は奇抜に映るかもしれない。だが、日本の少子化の現状は、従来の常識を破る発想を必要としている。
第 II 部 パネルディスカッション
NPO法人びーのびーの 理事長 ;奥山 千鶴子 氏
ある小さな商店街の20坪ほどの空きスペースを借りて、未就園児、つまり幼稚園、保育園に入園する前のお子さんと親のための居場所づくりをしている。今、私たち親世代だけでは子育てを担いきれなくなってきているのではないか。子どもが1人や2人であっても、支援する人がいないと大変である。地域の中で世代の縦の関係づくりを進め、子ども、学生の頃から、「結婚し、子育てをする」ということについての意識づけをしていくべきだと考える。
徐々にではあるが、地縁・血縁を超えた地域での三世代子育て支援が生まれてきており、展望としては明るいのではないだろうか。
読売新聞解説部 記者 榊原 智子 氏
少子化の状況をどう理解するかについて、大きく3つのグループに整理できる。1つ目は、「少子化は必然の流れだから、人口動向に相応しい経済社会システムを検討すればいい」という必然説。2つ目は、「今の若年世代には甘えがある」という甘え説。3つ目は、「ここまで出生率が低下するというのは異常であって、社会として子育て支援に全力を挙げるべき段階に来ている」という認識を持つ人たち。こちらはまだ少数派だが、最近様々なところでこの認識が拡がってきていると感じる。私自身もこのグループに属する。
私は、「家族にかかわる制度・慣行の見直し」が重要だと考えている。男女が共に仕事も家庭も大事にできるような社会にするという新たなモデルが求められている。
では、具体的には何をすべきか。ここ5~10年がラストチャンスという危機意識をもって、首相直属の施策推進機関を作るべきではないか。「少子化対策」「次世代育成支援対策」担当の専従大臣を作るべきである。
すべての子育て家庭、すべての子どもに支援の手を差しのべる必要がある。また、いろいろな支援策が、各省庁間や厚労省の中でもバラバラになっており、これを一元化する必要がある。
非常に重要だと思っているのが、子育て支援という考え方を、企業の社会的責任ときちんと位置づけていくことである。具体的には「環境」で取り入れられた「子育て版」ISOを作るという方法、年金の膨大な積立金を社会的責任投資として、ファミリーフレンドリーな施策を行っているような企業に回すといった仕組みが考えられる。
京都大学 教授 橘木 俊詔 氏
第1に「子育てに男が出て行く番である」という認識が必要である。企業経営者は「残業を止めて、早く帰れ」と言っていただきたい。
2番目は、雇用保険の財源から育児休業手当を払うというのを止めて、別の財源とすべきである。
3番目として、子どもを作らない一つの理由に、子育てにものすごく費用がかかるということがある。世界の先進5ヶ国の中で、日本の教育費に対する支出は最低なので、もっと増やす必要がある。
4番目に、年功序列制度に基づく賃金の上昇カーブを緩めて、若い人の賃金をもう少し高くして、中高年の賃金を下げる必要がある。
富士通総研 会長 鳴戸 道郎
出産・育児に努力している人には、社会として報いなければいけない。しかし、今の日本には財源がないので、特別な年金を差し上げるのがよいのではないか。これは国にとっては先行投資である。例えば、5人の子どもを産んだ女性は60歳から月額50万円の「産んだら年金」という特別な年金もらえるようにしてはどうか。
第2に、選挙制度を変えたらどうか。例えば、3人の育児をしている女性は、自分も入れて4票の選挙権を持つという案はどうだろうか。そうすれば政治家は少子化問題にもっと真剣に取り組むであろう。
『少子化克服の対応と展望』プログラム
| 13時~ | 受付開始 |
| 13時30分~13時40分 | 開会挨拶 |
| 富士通総研経済研究所理事長 島田 晴雄 | |
| 基調講演 | |
| 13時40分~14時20分 | 社会全体での共生と少子化対策10原則 |
| 北海道大学教授 金子 勇 | |
| 研究報告 | |
| 14時20分~15時 | 少子化克服の対応策 |
| 富士通総研上級研究員 渥美 由喜 | |
| 15時~15時15分 | 休 憩 |
| パネルディスカッション | |
| 15時15分~16時55分 | 少子化克服の対応と展望 |
| 【コーディネーター】 | |
| 富士通総研会長 鳴戸 道郎 | |
| 【パネリスト】 | |
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NPO法人びーのびーの理事長 奥山千鶴子 北海道大学教授 金子 勇 読売新聞解説部記者 榊原 智子 京都大学教授 橘木 俊詔 富士通総研上級研究員 渥美 由喜 |
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| 16時55分~17時 | 閉会挨拶 |
| 富士通総研社長 長谷川 展久 |
全文はPDFファイルをご参照ください。
PDF 少子化克服の対応と展望 [259 KB]
