原油価格高止まりと円高が日本経済に及ぼす影響
上席主任研究員 武石 礼司
2004年7月
要旨
原油価格の動向
原油価格は、2001年12月にアジアの指標原油であるドバイ原油が1バレル当り17ドル台と底値をつけた後、上昇に転じた。2002年の平均は24ドル、2003年の平均は27ドルという高値で推移した。更に2004年5月には34ドル台という高値となった。湾岸戦争時に高騰したのに続く、異例の高値が維持されており、多くの素材産業に影響が及んでいる。
2002年当初から2003年3月20日の米英軍によるイラク攻撃までの期間は、イラクへの米軍による攻撃がいつ発生するか、発生すればイラクに加えてクウェートの石油生産も一時停止するとの供給減少への不安があったため、ドバイ原油がほぼ30ドルをつけ、価格は高止まりした。開戦後、戦争が短期で収束するとの見方が確実となるとともに、原油価格は、いったんは25ドル台まで低下したものの、その後も原油価格は低下せず高値が続いている。
日本経済は、この原油価格高止まりの影響を大きく受けている。原油は輸入商品としては最も金額が大きく、原油4.7兆円、石油製品9,000億円で合計5.6兆円となっている(2002年実績)。これは、日本の輸入総額42兆円の13%に当たる。原油価格が低下しドバイ原油が12ドル程度で推移した1998年には、原油と石油製品を合わせた輸入額は3.4兆円に止まり、輸入額に占める比率も10%を割り込んだ。輸入額が減少した1998年時点と比べ、現在は、原油価格の動向が貿易収支に大きな影響を及ぼす。
原油価格の予想
今後、原油価格がどのように推移するかを考えると、イラク情勢は依然として治安の問題があり、平常時に戻るまでには課題が多い。イラク南部の油田からアラビア湾を経由した原油輸出は回復してきているが、一方、北部油田からトルコを経由した輸出は、パイプラインの爆破等の破壊工作により断続的にしか実施できていない。今後、生産能力を回復させても、その生産能力と同じだけの生産を行うことは、輸出設備が整わないために当面は難しい。
イラク以外のOPECでも問題が生じている。ベネズエラでは、2002年末に生じた政治的混乱とスト実施のため、いったん石油生産が急減したことが今も影響している。再度生産量を増大させようとした際に、油田の油層における圧力が低下してしまったため、以前と同じ量まで戻らないという課題を抱えてしまっている。
OPECは、石油が高く売れるうちに売るという方針を採用しており、2004年4月からは生産枠を日量100万バレル引き下げ、市場への原油供給量を削減することを決定している。北半球における石油の不需要期にあたる4月からの生産を絞る方針を出した効果が出て、石油価格は高値に張り付いてしまっている。
原油価格高止まりと世界経済への影響
原油価格が高止まりしている状態は、世界経済に大きな影響が及ぶ。特に、米国経済はガソリン価格次第で消費の動向に大きな影響が出る。6月以降の米国のドライブシーズン入り後に特に影響が出ると見られる。また、アジア諸国も、石油輸入に大きく依存する国が多く、経済規模も日本と比べると小さいために、経済に占める石油輸入代金の負担が大きく、原油高止まりはアジア経済にとってダメージとなる。日本経済は、米国とアジアに向けての輸出に大きく依存しており、原油高で米国とアジアの消費が減速すると輸出企業への打撃となる。
円高と日本経済
日本では2002年を底とし、2004年年初にかけて円高傾向が続いてきた。しかも原油価格が高止まりしているために、二重の意味で経済に影響が及ぶことが懸念された。輸出企業を中心として、日本では景気が回復する兆しが見えているだけに、円高と石油価格高止まりが併進することは、日本経済が成長軌道に乗るためには二重の足かせとなる。製造業各社は、デフレ傾向が続き価格値下げ圧力が強い中で、原油高による原料価格が上昇しても、製品価格にそのコスト上昇分を転嫁することは難しい。この二重の負担を乗りきるために重要なのが、アジア市場の拡大である。日本全体としての経済成長を維持するためにも、日本企業各社において中国及びその他アジア諸国での売り上げが確実に確保され、利益を出すことができるかが企業業績の分岐点となる状況が生じている。日本経済は漸く下降局面から回復基調に入り、株価も回復してきているが、今後は輸出主導の経済回復が軌道に乗るかが課題である。こうした中で、2002年を底として2004年年初にかけて円高が進んできた。米国及び欧州と比べて相対的に好調な産業である自動車、電機・電子、機械等に引っ張られる形で円高圧力がかかった。円高が生じる一方で、原油高が生じたため、日本にとっては二重の意味で厳しい局面が予想された。回復基調にある経済が、輸出先の米国及びアジアの景気の鈍化による企業収益悪化で足を引っ張られる可能性が心配された。日本の製造業各社は、デフレ傾向が続き、価格値下げ圧力が強い中で、原油高による原料価格が上昇したからといって、製品価格にそのコスト上昇分を転嫁することは難しい。5割を超える大幅な原油価格の変動は、これまでも生じてきている。したがって、日本企業の製品輸出先である米国及びアジアにおいて、石油価格の高騰により生じる景気へのマイナス要因を乗り越えるだけの戦略を持つ必要があり、例えば、日本の素材型産業においては目指すべき先として中国市場がある。中国は日本企業の輸出市場としての重要性を増しており、石油化学産業をはじめとして、日本国内での需要が伸びないため過剰となった生産設備を、中国向け輸出製品の製造のために稼働させるという状況が生じている。中国の急増する国内需要をまかなうためには、中国内での生産では足りず、中国の輸入量が急増するという構図が出来上がっている。各社が利益の最大化を目指して努力を続ける中で、日本経済全体の回復の足取りが確実となるよう、成長市場である中国及びその他アジア諸国での利益確保を確実なものとしていく努力が日本企業にとって必要となっている。
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