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持続的競争優位のISアウトソーシング

主任研究員 浜屋 敏

2004年7月

要旨

事前の目的と事後の効果のギャップ

企業が持続的な競争優位を獲得するための方策の一つは他社に模倣されにくい資源(人材や業務プロセスを含む)を持つことであるが、アウトソーシングは業務の標準化を伴うことが多く、業務の模倣困難性を低下させるため、アウトソーシングした業務自体で競争優位を獲得することは困難である。しかし、その一方で、アウトソーシングを積極的に行いながらも、外部委託した業務と自社に残した業務のシナジー効果を発揮させることで、競争優位を実現している企業も少なくない。

情報システム(IS)についても、アウトソーシングは盛んに行われている。しかし、それが企業の持続的な競争優位に結びついているかというと、疑問も少なくない。例えば、今回私たちが早稲田大学IT戦略研究所と共同で行った調査で、アウトソーシングの目的と効果について、「自社の経営資源を本業に重点配分できる」という項目は、事前の目的として該当するという回答が52.1%あったのに対して、事後的に効果があったという回答は42.0%で、ギャップは10.1ポイントある。つまり、事前の狙いとしては、本業の強化などを通じて競争力向上を狙ったアウトソーシングが多いにもかかわらず、現実には、ISのアウトソーシングは短期的には開発のスピードアップなどの効果はあっても、長期的かつ持続的な競争優位にはつながっていない場合が少なくないのではないだろうか。では、ISのアウトソーシングを企業の持続的な競争優位につなげるためにはどのような条件が必要なのだろうか。

経営課題の解決に影響を与える要因

今回の調査では、ロジスティクスと共通のフレームワークでISの外部委託に関する調査票を設計し、東証1部上場企業1,516社の情報システム部門長あてに調査票を配布した。回収結果(174社)の分析結果からわかったことは、まず、ISアウトソーシングの経営課題への貢献度に影響を与える要因として、[1]ITの経営的な位置づけ、[2]アウトソーシングに伴う事業・業務の見直し、[3]委託先選別の程度、という3つの変数が効いているということであった。

これら3つの変数のうち、「ITの経営的な位置づけ」は経営課題の重要性とITの重要性とのギャップで測定しており、ギャップが小さいほど、すなわちITの経営的な位置づけが高いほど、ISアウトソーシングの経営課題への貢献度も大きかった。残る2つの変数については、アウトソーシングと同時に「事業・業務の見直し」を積極的に行っているほど、自社で明確な要求仕様書を作成して複数の委託先を検討するなど「委託先の選別」を厳密に行っているほど、ISアウトソーシングの経営課題への貢献度も高かった。また、SLA(サービス水準保証制度)を採用している企業ほど、ITの経営的な位置づけが高く、事業・業務の見直しにも積極的なことがわかった。

つぎに、上述した3つの変数に影響を与える要因として、[1]経営陣のITに対する関心、[2]委託先との資本関係の有無、[3]委託元企業のIS企画の能力、という3種類の変数が抽出された。経営陣のITに対する関心の中では、特にIS導入案件の優先順位やIT投資の評価、セキュリティへの関心が重要であった。また、IS企画の能力が高いほど、委託先を厳密に選別する傾向が高く、その結果ISアウトソーシングの経営貢献度も高くなっていた。

委託先との資本関係については、資本関係があれば子会社化などに関して事業・業務の見直しが行われて経営課題への貢献度も高くなる一方で、委託先の選別度は低くなってしまう。つまり、IS子会社と本社のIS部門との関係にある程度の緊張感があり、つねに最適な役割分担などが検討されていればよいが、馴れ合いの関係になってしまっている場合は委託先の選別の程度が低くなるというマイナスの影響の方が大きくなり、IS子会社はアウトソーシングの経営課題への貢献度に対してネガティブな意味を持つ存在になってしまう。

分析結果の実務的なインプリケーション

以上のような分析から得られる実務的な意味として、アウトソーシングを短期的な効果だけでなく持続的な競争優位に結びつけるためには、アウトソーシングと同時に、企業活動におけるITの位置づけを高め、事前の事業・業務の見直しを行い、委託先を厳密に選別する必要があることを実証的に示すことができた。そしてそのためには、システム企画能力の向上や経営陣のコミットメントといった企業の資源・能力レベルでの改善が効果的であり、ITに関する舵取り、すなわちITガバナンスのあり方を整備することが求められる。

このようなユーザー(委託元企業)側の条件は、アウトソーシングを請け負う委託先のベンダー企業(アウトソーサー)の役割にも変化を迫る。つまり、アウトソーサーはまずアウトソーシングの品質そのものを高めることによってユーザーのニーズに応える必要があるが、そのレベルを超えてアウトソーサーがユーザーの長期的な競争力向上に貢献するためには、単なる業務の受託だけではなく、ユーザーのITガバナンスのあり方にまで踏み込んだ提案が必要になる。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 持続的競争優位のISアウトソーシング [263 KB]