情報技術革新と情報サービス産業
主任研究員 峰滝 和典
2004年4月
目次
はじめに
1.問題意識
2.データの不足、全要素生産性分析の欠如
I.情報通信技術革新とソフトウェア生産性
1.モジュール化とソフトウェア生産性 : シリコンバレー・モデルの妥当性
2.ソフトウェア開発と規模の経済 : 「人月の神話」対「Linuxの成功」
3.組織形態の変化と生産性
II.情報サービス業企業データ : 「特定サービス産業実態調査」
1.ソフトウェア産業と「情報サービス産業」
2.「特定サービス産業実態調査」の利用とその注意点
3.「特定サービス産業実態調査」のデータ加工
4.分析対象の設定 : 「活動的な情報サービス企業」
III.全要素生産性成長率の回帰式推計とその結果
1.生産性の規定要因 : 変数の選択
2.定式化
3.推計結果
IV.モジュール化の不備と「下請け」システムの負の遺産
1.モジュール化が有効に働く条件
2.外注化のもう一つの側面 : 下請け・孫請けの階層構造
3.新しい動き
V.終わりに
要旨
情報サービス産業の特徴として、1社で完結して業務が行われるのでなく、外注化・協働(コラボレーション)といった企業間の連携が一般的になされていることが挙げられる。これらは人件費等のコスト削減や、社外の技術・ノウハウの利用といったことが目的として指摘されることが多い。
外注化の程度を表す「外注比率」(売上高に対する外注費の比率)は、「モジュール化」が全要素生産性を向上させている場合は当然強い正の影響を生産性に与えなければならない。しかし、実証分析の結果、情報サービス産業全体として、外注比率は全要素生産性に負の影響を与えていることがわかった。その理由は、開発・生産工程のモジュール化がこの産業では、十分にはなされていないにも関わらず、外注化を行っていることにある。
また実証分析の結果、システムエンジニア数の増加は全要素生産性上昇率に対して概ねマイナスの影響を示していることがわかった。ソフトウェア構築を例にとって考えると、システムエンジニアを増加させてもコミュニケーションを図るための労力が大きくなりかえって非効率性を増すという現象に当てはまる。ネット上で世界各国のエンジニアが無償で技を競いあっているLinux型の開発では異なった結論となることも予想されるが、今回の実証分析の対象期間である90年代においてはこうした開発の型はまだ一般的ではなかったと考えられる。
外注化が効率的に行われることが、日本の情報サービス産業の競争力の向上には不可欠である。そのためには、工程の全体を管理するプロジェクト・マネージャーの育成が急務である。また、開発者同士のコミュニケーションが円滑になり、業務分担もスムーズになる組織編成が重要となる。企業間のコラボレーションが成功するためには、企業内の組織の効率化が必要である。