中国における大学の企業経営の実態と課題
主任研究員 金 堅敏
2004年4月
要旨
中国の大学による企業経営の実態
中国では、大学から産業への技術移転の方法に、(1)ライセンスによるもの、(2)企業からの委託研究・ジョイント開発によるもの、(3)自ら企業(いわゆる「校弁企業」)を設立して移転するもの等がある。かつて技術移転の主要なチャンネルは、日本のような技術移転推進機関TLOではなく、「校弁企業」であると言われてきた。
02年末現在、1,534校の大学(短大を含む)が、合わせて5,047社の企業を経営している。ただ、技術型の企業は2,216社(うち、製造企業2,188社)に過ぎず、その他は商業や不動産等のサービス企業(技術サービスを除く)である。つまり、大学から技術移転が可能な技術型の企業は「校弁企業」の44%しかなく、一部の大学の企業経営は技術移転が目的ではなくビジネス展開にあることが分かる。「校弁企業」の資本関係を見ると、100%大学資本企業は3,802社(全体の75.3%)、大学出資企業は1,211社、外資との合弁企業は34社である。中国の大学は、米国の大学と違って、ベンチャー企業の育成段階が終了しても企業から撤退しないのである。「校弁企業」の経営者や技術者も大学の先生が兼任しているケースが多かった。したがって、国公立が主体である中国の「校弁企業」は、資本関係で言えば「国有企業」か「公有企業」に当たる。
02年に「校弁企業」の売上高は720億元で、利益総額は46億元、総資産は1,234億元である。因みに、売上高利益率は6.4%、総資産利益率は約3.7%となる。売上高が10億元を超える大学のうち、「校弁企業」のもっとも多い大学のトップ10は、(1)北京大学、(2)清華大学、(3)浙江大学、(4)東北大学、(5)同済大学、(6)西安交通大学、(7)上海交通大学、(8)復旦大学、(9)天津大学、(10)ハルピン工業大学となっている。
「校弁企業」経営の課題
90年代を通じて、北京大学の「北大方正」、清華大学の「清華同方」、東北大学の「東軟集団」等の有力「校弁企業」が急成長を見せ、中国では大学の企業経営モデルとしての「校弁企業」モデルが持てはやされていた。日本においても、「校弁企業」という中国固有のイノベーション・システムが高く評価されていた。しかし、国有企業の資本・組織制度を有する「校弁企業」は、中国国内の市場競争の熾烈化に伴って全体として経営業績の悪化に直面している。北京大学ネットワーク経済研究所が行った最新調査では、中関村にある「校弁企業」(技術型企業が中心)は他の企業と比べ、(1)営業収益、売上利益額、納税総額、輸出額等の指標も低く経営効率が悪いこと、(2)1人当たりのR&D投入額、1人当たり特許申請数、新製品収入割合等の指標も低く技術優位性が認められないことが確認できたという。中関村にある9,000社の企業に対する分析の結果、もっとも競争力を有するのは「校弁企業」ではなく民営企業であった。
大学は、ベンチャー企業が成長しても資本を撤退しないことから、大学と「校弁企業」との間に無限責任の資本関係にあり、「校弁企業」の経営リスクは直ちに大学の責任に帰されることになり、最近では大学の銀行口座が押えられる事態まで発生した。逆に、かつての国有企業と同様、大学当局が、常に企業経営に介入することができ腐敗問題が多発し、非効率となっている。実際、「校弁企業」を介した大学から「産」への技術移転数も、全体の5%程度にまで下がってきている。「校弁企業」のお粗末な経営のため、大学のイメージダウンが生じていることが危惧されている。
そのため、一部著名なエコノミストや経済官僚は、「大学は技術の優位性はあっても企業経営についてはかならずしも優位性を持っていないので、「校弁企業」は完全に民営化すべきで、大学は教育に専念すべきである」と提言している。つまり、中国でも米国と同じように大学は教育と技術イノベーションという本来職務へ専念すべき、という議論が沸きあがっている。中国政府も、北京大学と清華大学を、「校弁企業」の改革モデルとして取り組み始めた。資産売却や資本関係や経営責任の明確化等によって「校弁企業」の経営から大学を教育の場と技術イノベーションの主体に帰らせるとしている。中国は、これまで持てはやされた「校弁企業」という中国固有のイノベーション・システムから、技術移転機関(TLO)、大学向け技術パーク(中国では「大学科学園」という)等国際的に通用する技術移転システムの構築へと制度改革を行っている。大学の教員が、大学と企業を兼任することで生ずる利益相反問題を解消するために、兼任は禁止される。また、大学の名の使用も禁止される(例えば、「北大方正」は、「方正」へ、「清華紫光」は「紫光」へ)。
日本への示唆
「校弁企業」という中国特有の制度を、「産学連携」の典型と考えるのは不正確である。むしろ、中国の大学においても、競争的な環境があること、成果主義が徹底されていること、大学が生み出す成果の社会的評価により大学経営が判断される仕組みがあることが大切である。
また、「校弁企業」における外資合弁企業が、01年の94社から、02年末の34社へと減少したことからも分かるように、日系企業は中国大学との提携において、資本関係や経営責任の所在等の経営実態を詳細に調査し決断すべきである。
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