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京都議定書削減目標達成へ向けての我が国企業の戦略

上級研究員 濱崎 博

2004年4月

要旨

1997年京都で開催された気候変動枠組条約第三回締約国会議(COP3)において、主に先進国に対して2008~2012年(第1フェーズ)における温室効果ガス(二酸化炭素、メタンなど6種類)の削減目標が定められた。我が国は、1990年比6%の削減義務があるが、米国エネルギー省の推計によると我が国は2010年において23.4%もの削減を達成する必要がある。1970年代の2回のオイルショックを契機に我が国産業界は省エネルギー努力を続けた結果、世界でも類の見ないエネルギー効率の高い国となった。そのため、我が国とって削減義務達成には非常に高い費用を支払う必要があり、経済活動のみならず、雇用など社会的側面においても深刻な影響を受ける可能性がある。

我が国は温室効果ガス削減義務を定めた京都議定書の批准を行っており、削減目標達成向けた具体的な政策が導入されようとしている。例えば環境省においては炭素含有量に比例して課税を行う地球温暖化対策税導入に関して具体的な検討が進んでおり、企業にとって温室効果ガスを排出することは近い将来“ただ"ではなくなる。

こういった状況において企業自身は温室効果ガス削減に対して全く対策を行わない場合、非常に高い温室効果ガス費用負担を強いられることなる。そのため、我が国企業は自身の発生する温室効果ガス削減に関して戦略的に取り組む必要があり、温室効果ガスの管理は企業戦略を考える上で不可欠なものとなりつつある。本稿では、まず温室効果ガス削減目標達成による経済・社会的影響に関して一般均衡モデル(CGE)を用いて定量的に把握し、最後に企業にとって温室効果ガス削減戦略の必要性に関して解説を行う。

経済的影響

我が国経済全体への影響としてGDPへの影響をみると、GDPは温室効果ガス削減により1.1%と大幅に低下する。その一方、他の国・地域ではGDPは上昇し、我が国経済の国際競争力が大きく低下することを示唆している。

次に産業部門への影響をみる。京都議定書の削減目標を達成するには、各産業は排出する炭素1トン当たり107.3US$ / トン・炭素の費用負担をする必要がある。これは、ガソリン、石炭、電力の価格をそれぞれ、約8%、200%、6%上昇させる結果となる。そのため、我が国製造業(エネルギー産業は除く)は、1)輸出の減少、2)輸入の増大、3)経済の停滞による国内需要の冷え込みにより、生産量が大きく落ち込むこととなる。特にエネルギー多消費産業はその落ち込みが激しく、代表的なエネルギー多消費産業である鉄鋼業、化学・ゴム・プラスチック産業ではそれぞれ、2.5%、2.4%生産量が減少する。

雇用への影響

モデル計算結果によると温室効果ガス削減目標を達成するには、現在雇用されている人のうち1.3%の人が職を失うことになる。昨今の経済の停滞により、現在我が国の失業率は非常に高い状態にあることを考慮すると、温室効果ガス削減目標達成による雇用への影響は無視できないレベルといえる。

環境への影響

温室効果ガス削減目標の達成は、既に述べたように我が国経済・社会に対して影響を与えるのみならず、我が国の製造業のアジア諸国への生産拠点の移転を促進することになり、我が国において温室効果ガス削減は達成されるが、他の国・地域で温室効果ガスが増加することになり、地球規模で見た場合、温暖化問題解決に寄与しない。シミュレーション結果によると、リーケージレートは0.75となり、我が国で1削減したと仮定した場合、他の国・地域で0.75増加しており、地球規模では0.25しか削減できていないことになる。地球全体の温暖化問題解決のためにも、我が国産業の国際競争力の維持と温室効果ガス削減の両立は必要不可欠である。

企業の温室効果ガス削減戦略の必要性

以上述べてきたように、現状のままでは、非常に高い温暖化対策税の負担により、我が国企業の国際競争力の低下は必至である。我が国と同様に温室効果ガス削減目標を持つEUの各企業は、温室効果ガス削減に向けて具体的なアクションをとっている。拡大EU内におけるJI(共同実施)プロジェクトの実施に加え、巨大な温室効果ガス削減ポテンシャルをもつ中国でのCDM(クリーン開発メカニズム)プロジェクトの実現へ向けて、中国担当部門への働きかけを行っている。このままでは、安価な削減プロジェクトは欧州企業に押さえられてしまうことになる。現状のような“Wait-and-see"の戦略では、我が国企業は近い将来多大な費用負担を負わされることになり、我が国企業は、早急に京都議定書で定められたJIやCDMといった、いわゆる京都メカニズムを視野に入れた温室効果ガス削減戦略を作る必要がある。

図表  温室効果ガス削減目標達成による我が国への影響(概要)
項目 影響
GDP変化 -1.1%
削減費用(US$ / トン・C) 107.3
ガソリン(7.8円 / リットル、8%↑)
石炭(200%↑)
電力(1.2円 / kWh、6%↑)
失業率 1.3%
エネルギー多消費
産業生産量変化
鉄鋼 -2.5%
化学・ゴム・プラスチック -2.4%
リーケージレート 0.75

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 京都議定書削減目標達成へ向けての我が国企業の戦略 [300 KB]