中国における電力供給の効率化と安定供給のディレンマ
主任研究員 柯 隆
2004年1月
要旨
2003年の中国経済は新型肺炎(SARS)の影響にもかかわらず、高い成長を続けている。国家統計局の速報によると、1~9月の経済成長率は8.5%の高い水準が記録された。しかし、好景気の中国は再び電力不足という不安材料を抱えている。振り返ってみれば、90年代前半まで、電力不足は中国経済発展の足かせであり、大都市において地区ごとの計画停電は日常茶飯事であった。工場などの生産活動についても電力供給不足を理由に、工場の休日が土日に集中しないように分散化が図られていた。中国に直接投資をする外資にとって電力不足は一番の心配事であった。
自由化と「政企分離」を中心とする電力改革
長年、電力不足は中国経済発展のボトルネックであった。こうした背景の中で、中国政府にとって、電力産業発展の至上命題は発電容量の拡大であった。そのために、次のような様々な取り組みが行われた。
まず、電力行政の改革が行われた。かつて、電力産業を管轄していたのは電力工業部であった。計画経済に適する電力工業部の監督体制は、発電所の建設から電力供給まですべて計画的に行われていた。具体的に、中央政府レベルでは電力工業部、地方の省政府レベルでは電力局という縦割り行政のもとで、発電と送電が集中的に管理されてきた。90年代半ば以降、実体経済の市場経済化が急速に進む中で、計画的な電力生産と供給体制は実体経済の変化に対応できなくなった。このような状況の中で、1997年政府は電力工業部を解体し、監督機能を国家経済貿易委員会(当時)に組み入れると同時に、経営機能を分離独立し、その受け皿として国家電力公司が設立された。
また、送電網の整備も行われた。かつて、冷戦時代の国家安全保障上の必要性から、全国の送電網は大きく5つに分割されていた。そのほかに、特に台湾に近い福建省と南西部の雲南省の送電網が独立した存在となっていた。しかし、全国のエネルギー資源の分布をみると、極端に西部に偏在している。それに対して、東部沿海部の経済はもっとも著しく成長している。すなわち、エネルギー資源の地理的分布とエネルギー需要との間に、大きなミスマッチが生じたのである。このようなことから、西部地域から東部沿海部へのエネルギー輸送、とりわけ送電を行う必要があった。例えば、西南地区における水力は豊富で、雨季になると、余った電力を華南地区に送電することが重要である。したがって、送電網の整備と全国の送電網のネットワーク化が求められ、近年少しずつ進められている。
更に、発電所の新設について、各省の電力公司の自主裁量で発電所の種類や容量を決めることができるようになった。発電所建設の裁量権が省政府レベルの電力局に委譲されたことで、電力需要に見合った発電所作りが行われた。また、かつて認められなかった発電所建設への外資参入も条件付きでできるようになった。一部の地域で外資参入のBOT案件も誕生したのである。
これらの一連の改革の結果、90年代末になって、電力不足は徐々に緩和され、都市部における計画停電もほとんど見かけなくなった。地方政府は外資を誘致する際、電力供給の保障をわざわざ強調しなくて済むようになったのである。
市場原理導入と安定供給のディレンマ
2002年12月中国は念願のWTO加盟を果たした。それを受けて、国内経済の市場経済化はいっそう進展し、電力行政についても、更なる電力体制改革が行われた。1997年に設立された国家電力公司が再度分割され、5つの電力集団公司と2大送電網公司が誕生した。改革の狙いは国家電力公司による独占体制を打破し、発電と電力供給に競争原理を導入することにあるといわれる。向こう3年間、各地域内の電力過不足を調節する電力取引センターが6ヵ所創設される予定である。これらの取引センターはオープンマーケットであり、電力の先物やオプション取引もできるといわれる。国家電力監督委員会によると、今後の電力供給体制の基本原則は「公平・公開・公正」の競争であるといわれている。
一方、実際の電力供給には赤字信号が点灯した。2003年の夏、中国は猛烈な暑さに見舞われ、大都市を中心に、電力不足による停電が続発した。土日に集中する電力消費ピークを緩和するために、各地の地方政府は外資企業を含む企業に休日の分散を求めた。
実際の電力生産を見てみよう。2002年、中国の発電設備容量は3億5,300万キロワットに達し、年間発電量は1兆6,400億キロワット時に上る。発電容量と発電量のいずれも米国に次いで世界2位である。具体的な設備容量の内訳をみると、火力83%、水力16.5%、原子力1.5%という構成になっている。これまでの十数年間、発電設備容量は大きく強化されたにもかかわらず、電力消費需要はそれ以上に伸びたのである。2002年の電力需要は90年の3倍に拡大した。これに対して、94年から2001年までの発電弾性値(発電伸び率とGDP伸び率の割合)は0.84に止まった。
設備容量が増強されているにもかかわらず、電力供給が不足する背景については次の諸点を指摘することができる。
国家電力公司の設立をきっかけに、採算性を追求する電力生産の効率化が図られた半面、電力の安定供給が損なわれた。各省の電力公司は、新規の発電所建設に慎重な姿勢を見せたのである。
更に、全体の設備の中で、オフピークの設備が多く、ピークロード対応の設備が極端に不足しているため、サービス業や家庭用電力消費が急伸する状況の下で、電力消費ピーク時に電力不足による停電が起きる。
また、地域間の電力融通は電力の過不足を調整する最も有効な方法の一つであるが、地域保護主義や政府による電力料金統制が省を跨る電力融通を妨げている。
政府は、電力不足を解消するために、更なる監督体制の自由化と原子力発電の建設などの方針を打ち出している。重要なのは効率化を目指す競争原理の導入と安定供給のディレンマを乗り越える新たな体制作りである。
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